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判決認定弁護士費用と弁護士費用特約保険金についての判例紹介2

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平成28年 3月26日(土):初稿
○「判決認定弁護士費用と弁護士費用特約保険金についての判例紹介1」の続きで,裁判所の判断です。
加害者側に対する損害賠償請求事件で,弁護士費用も損害として請求し,認容額の1割相当額程度が認められます。例えば弁護士費用以外の損害5000万円、弁護士費用損害500万円として、合計5500万円を請求して、判決では弁護士費用以外の損害が3000万円,弁護士費用損害300万円の合計3300万円の支払が命じられ判決が確定すると,加害者側保険会社は、3300万円を被害者に支払います。この場合,300万円の弁護士費用を加害者側から回収したことになるので弁護士費用特約に基づく300万円を限度とする弁護士費用保険金の支払は請求できないようです。

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第5 当裁判所の判断
1 本件特約に基づく被告の原告らに対する保険金支払義務の有無

(1) 約款1条①は、「当会社は、日本国内において発生した次の各号のいずれかに該当する急激かつ偶然な外来の事故によって、被保険者(被保険者が死亡した場合は、その法定相続人とします。)が費用を負担したことによって被る損害に対して、この特約に従い、保険金を支払います。」と規定し、同条②は、「前項における費用とは、あらかじめ当会社の同意を得て弁護士、裁判所またはあっせん・仲裁機関(申立人の申立に基づき和解のためのあっせん・仲裁を行うことを目的として弁護士会等が運営する機関をいいます。)に対して支出した弁護士報酬、訴訟費用、仲裁、和解または調停に要した費用であって、次の各号のいずれかに該当する費用をいいます。」と規定する。

 以上からすれば、被告が、本件特約により、保険金を支払う対象となるのは、約款1条①によれば、該当すべき事故により「被保険者が費用を負担したことによって被る損害」であり、同条②によれば、「費用」とは、弁護士、裁判所に対して支出した弁護士報酬、訴訟費用であると解される。

(2) 約款12条①は、被告が、被保険者に支払った保険金の返還を求めることができる場合について規定し、同条①(2)は、上記の返還を求めることができる場合として、(Ⅰ)1項の事故に関して被保険者が提起した訴訟の判決に基づき、被保険者が賠償義務者から当該訴訟に関する弁護士費用の支払を受けた場合で、(Ⅱ)判決で認定された弁護士費用の額と被告が1条によりすでに支払った保険金の合計額が、被保険者が当該訴訟について弁護士に支払った費用の全額を超過する場合と規定する。約款12条②は、同条①の規定により被告が返還を求める保険金額は、超過額に相当する金額で、1条の規定により支払われた保険金の額を限度とすると規定する。

 以上からすれば、被保険者が、保険事故に関して賠償義務者に対する訴訟を提起し、同訴訟の判決に基づいて、賠償義務者が、被保険者に対し、当該訴訟に関する弁護士費用を支払った場合は、判決で認定された弁護士費用の額と被告が既に支払った保険金の合計額が、被保険者が弁護士に対して支払った費用の全額を超過する場合は、被告は、被保険者に対し、その超過額に相当する額(支払われた保険金の額を限度とする)の返還を求めることができるのであり、そうであるとすれば、被告は、賠償義務者が被保険者に対して判決で認定された弁護士費用を支払った場合の弁護士費用の額と被告が既に支払った保険金の合計額が、被保険者が委任契約により弁護士に対して支払った費用の全額を超過する場合は、被告は、本件特約に基づく保険金の支払義務がないことになると解される。

(3) 本件特約は、約款1条①によれば、日本国内において発生した急激かつ偶然な外来の事故によって、被保険者が費用を負担したことによって被る損害に対して保険金を支払うものであることから、保険契約のうち、保険者が一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補することを約するものであり、損害保険契約(保険法2条6号)である。そして、本件特約は、被保険者1名につき300万円を限度として支払われる合意であって、損害額のいかんにかかわらず、300万円あるいはその他の一定額が支払われる旨の契約ではないことについては争いがない。そうすると、本件特約は、被保険者が、弁護士、裁判所に対して支出した弁護士報酬、訴訟費用を負担したことによって被る損害について、300万円を限度として、被告が、被保険者に対する保険金の支払によりてん補するものであると解される。

 本件特約の目的が損害のてん補であるとすれば、他の方法によって既にてん補されている損害については、保険金を支払う必要はないことになり、このように考えることは、前記(2)のとおり、賠償義務者が被保険者に対して判決で認定された弁護士費用を支払った場合の弁護士費用の額と被告が既に支払った保険金の合計額が、被保険者が委任契約により弁護士に対して支払った費用の全額を超過する場合は、被告は、本件特約に基づく保険金の支払義務がないと解することとも整合する。

(4) 以上によれば、賠償義務者が被保険者に対して判決で認定された弁護士費用を支払った場合の弁護士費用の額と被告が既に支払った保険金の合計額が、被保険者が委任契約により弁護士に対して支払った費用の全額を超過する場合は、被告は、本件特約に基づく保険金の支払義務がないことになる。

 これを本件についてみると、賠償義務者が被保険者に対して判決で認定された弁護士費用を支払った場合の弁護士費用の額及び訴訟費用の額の合計は547万9333円(ただし、弁護士費用529万円について支払われた分の遅延損害金は除いた額)であり、被告が既に支払った保険金の額は、訴え提起手数料28万4000円であり、その合計額は576万3333円である。

 他方、被保険者が委任契約により弁護士に対して支払うべき費用の全額は、原告らの主張によれば、本件委任契約による着手金10万円を既に支払い、加えて弁護士報酬として317万円の支払義務があるとのことであり(訴状の記載によれば、既に支払った額はうち45万4000円のみである。)、訴え提起手数料28万4000円を加えると、355万4000円となる。そうすると、賠償義務者により既に支払われた額及び被告が既に支払った額の合計額576万3333円は、原告らが本件委任契約により支払義務がある(あるいは既に支払った)と主張する額355万4000円を上回っているので、被告には、本件特約に基づく保険金の支払義務がないことになる。

2 原告らの主張について
(1) 原告らは、弁護士費用と弁護士報酬は、その法律関係、性質、金額が異なるので、本件委任契約に基づき乙山が原告らに請求する弁護士報酬は、別件訴訟の判決において認定された弁護士費用とは異なると主張する。

 しかし、別件訴訟の判決において認定された弁護士費用は、本件事故による不法行為と相当因果関係のある損害として、別件訴訟の提起のための訴訟委任に要した費用であり、原告らは、別件訴訟の提起のため、乙山との間で本件委任契約を締結し、原告らの主張によれば、着手金10万円、報酬金317万円について、原告らは乙山に弁護士報酬に係る支払義務を負ったとのことであるから、上記弁護士費用と当該弁護士報酬とは、原告らが、別件訴訟提起のための訴訟委任・訴訟費用に要した費用という意味においては同じである。そうすると、これらについて、弁護士費用、訴訟費用として支出した損害のてん補という意味において同一に解することは、合理性を有するものと考えられる。

 そして、前記のとおり、約款12条によれば、賠償義務者が被保険者に対して判決で認定された弁護士費用を支払った場合の弁護士費用の額と被告が既に支払った保険金の合計額が、被保険者が委任契約により弁護士に対して支払った費用の全額を超過する場合は、被告は、本件特約に基づく保険金の支払義務がないと解されるのであるから、別件訴訟の判決で認定された弁護士費用と本件委任契約に基づく原告らの乙山に対する弁護士報酬支払債務が、異なる債権であることを理由に、被告が、同弁護士報酬支払債務額について、本件特約に基づく保険金支払義務を負う根拠とはならない。

(2) 原告らは、本件特約を締結した以上、まず保険金の給付を受け、限度額を超えた場合のみ、自己負担となってもやむを得ないと考えるのが常識的理解であると主張するが、本件特約に係るパンフレットの記載(甲15)や約款の内容を精査しても、原告らが主張するような理解をすべきものと解すべき事情はうかがわれない。そして、そもそも、本件においては、原告らは、実際に負担した金額以上の額について、賠償義務者から判決に基づいて弁護士費用及び訴訟費用の支払を既に受けており、自己負担したわけではないから、この点に関する原告らの主張は理由がない。

(3) 原告らは、本件特約に基づく保険金の支払の有無・数額について、保険事故について判決が言い渡された場合と裁判上の和解が成立した場合とで差が生じるので、判決で弁護士費用が認定された場合であっても、これとは別に、被保険者が弁護士に支払った費用を保険金支払の対象とすべきであると主張する。


 しかし、本件においては、別件訴訟は和解が成立したものではなく、判決によって弁護士費用が認定された場合であって、判決により弁護士費用が認定された場合については、前記のとおり、賠償義務者が被保険者に対して判決で認定された弁護士費用を支払った場合の弁護士費用の額と被告が既に支払った保険金の合計額が、被保険者が委任契約により弁護士に対して支払った費用の全額を超過する場合は、被告は、本件特約に基づく保険金の支払義務がないと解されるのであって、原告らが指摘する上記事情があることをもって、これと異なる解釈をすべきものとは考えられないから、この点に関する原告らの主張は理由がない。

(4) 原告らは、判決で認定された弁護士費用を前提に、本件特約に基づく保険金の支払の可否・金額を決すると、被保険者は、判決が確定するまで弁護士費用及び弁護士報酬を予測することができず、被保険者の立場を不安定にするので妥当ではないと主張する。

 しかし、原告らの主張によれば、本件委任契約では、加害者側の示談案と判決の主文で認容された額との差額を経済的利益として算定し、弁護士報酬の基礎とすることにしていたので、判決が確定するまで弁護士報酬の額が確定しないことは、原告らと乙山の合意内容であって、そもそも本件特約とは何ら関係がないことである。また、前記のとおり、本件特約は、被保険者が、弁護士、裁判所に対して支出した弁護士報酬、訴訟費用を負担したことによって被る損害について、300万円を限度として、被告が、被保険者に対する保険金の支払によりてん補するものであることからすれば、実際に支出した弁護士費用及び訴訟費用の額、確定判決で認定された弁護士費用の額及び訴訟費用の負担が確定しなければ、てん補すべき額も確定しないのは事柄の性質上、当然のことであって、原告らの主張は理由がない。

(5) 原告らは、少額の物損事案では、弁護士費用が少額となり、損害賠償の一項目として認められる弁護士費用が本件特約に基づく保険金の支払対象であると考えた場合、本件特約の意義が失われてしまうと主張するが、被保険者が実際に負担して支出した弁護士費用、訴訟費用の額が、判決で認定されて賠償義務者から支払われた弁護士費用、訴訟費用の額を超える場合は、その他の要件を満たせば、本件特約により、保険金が支払われることになるのであるから、本件特約の意義が失われると考えることはできず、この点に関する原告らの主張は理由がない。

(6) 以上からすれば、賠償義務者が被保険者に対して判決で認定された弁護士費用を支払った場合の弁護士費用の額と被告が既に支払った保険金の合計額が、被保険者が委任契約により弁護士に対して支払った費用の金額を超過する場合であっても、被告は、本件特約に基づいて、被保険者が委任契約により弁護士に対して支払った費用の全額について、300万円の範囲で保険金を支払う義務があるという原告らの主張は、何ら根拠がないばかりか、本件特約が損害保険契約であることや、本件特約の内容を定める約款に反するものであって、このような解釈はとることができない。

3 以上によれば、原告らの本件請求はいずれも理由がないこととなるから、棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法61条、65条1項本文を適用して、主文のとおり、判決する。
 裁判長裁判官 花村良一  裁判官 村上誠子 高田 卓

(別紙)
第1条(この特約による支払責任)

① 当会社は、日本国内において発生した次の各号のいずれかに該当する急激かつ偶然な外来の事故によって、被保険者(被保険者が死亡した場合は、その法定相続人とします。)が費用を負担したことによって被る損害に対して、この特約に従い、保険金を支払います。
(1) 自動車(原動機付自転車を含みます。以下同様とします。)の所有、使用または管理に起因する事故
(2) 自動車の運行中の、飛来中もしくは落下中の他物との衝突、火災、爆発または自動車の落下
(3) 前2号以外で、日常生活に起因する事故または居住の用に供される住宅(敷地内の動産および不動産を含みます。)の所有、使用または管理に起因する事故

② 前項における費用とは、あらかじめ当会社の同意を得て弁護士、裁判所またはあっせん・仲裁機関(申立人の申立に基づき和解のためのあっせん・仲裁を行うことを目的として弁護士会等が運営する機関をいいます。)に対して支出した弁護士報酬、訴訟費用、仲裁、和解または調停に要した費用であって、次の各号のいずれかに該当する費用をいいます。
(1) 被保険者が被った身体の傷害(これに起因する死亡を含みます。以下「身体傷害」といいます。)により法律上の損害賠償を請求する場合に要した費用
(2) 被保険者が所有、使用または管理する財物の滅失、き損もしくは汚損およびこれらに起因して被保険者が被る経済的損失について法律上の損害賠償を請求する場合に要した費用

③ 当会社は、第1項の事故が保険証券記載の保険期間(以下「保険期間」といいます。)内に発生した場合にのみ、保険金を支払います。

第11条(代位)
 被保険者が他人に第1条(この特約による支払責任)第2項に規定する費用を請求することができる場合には、当会社は、その損害に対して支払った保険金の額の範囲内で、かつ、被保険者の利益を害さない範囲で、被保険者がその者に対して有する権利を取得します。

第12条(支払保険金の返還)
① 当会社は、次の各号のいずれかに該当する場合は、被保険者に支払った保険金の返還を求めることができます。
(1) 弁護士への委任の取消等により被保険者が支払った着手金の返還を受けた場合
(2) 第1条(この特約による支払責任)第1項の事故に関して被保険者が提起した訴訟の判決に基づき、被保険者が賠償義務者から当該訴訟に関する弁護士費用の支払を受けた場合で、次の(ロ)の額が(イ)の額を超過する場合
(イ) 被保険者が当該訴訟について弁護士に支払った費用の全額
(ロ) 判決で認定された弁護士費用の額と当会社が第1条の規定により、すでに支払った保険金の合計額

② 前項の規定により当会社が返還を求める保険金の額は次の各号に定めるとおりとします。
(1) 前項第1号の場合は返還された着手金の金額に相当する金額。ただし、第1条(この特約による支払責任)の規定により支払われた保険金のうち、着手金に相当する金額を限度とします。
(2) 前項第2号の場合は超過額に相当する金額。ただし、第1条の規定により支払われた保険金の額を限度とします。


以上:6,518文字

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