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買替差金を物損認定した二審昭和47年12月26日札幌高裁全文紹介

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平成27年 7月 6日(月):初稿
○「物損認定基準原則を通した一審昭和45年11月2日札幌地裁判決全文紹介 」の続きで、その控訴審である昭和47年12月26日札幌高裁判決(民集28巻3号399頁、交民7巻2号283頁)全文を紹介します。

○一審昭和45年11月2日札幌地裁判決では、修理不能なフレームの歪みが生じたとは認められないとして、損害額を修理費と評価損に限定しましたが、二審札幌高裁は、本件事故が被害車のフレームに歪みを生じさせる可能性のあるものであったとして、Xが被害車を下取りに出して新車を購入したのは無理からぬことであり、買替えによる損害は本件事故と相当因果関係にあるとして、購入代金59万2000円から、定率法による減価償却額6万2555円、事故と無関係な前部フェンダーの瑕疵等5000円下取価額35万1000円を引いた差額17万3445円を損害として認めました。

○この札幌高裁判決は、被害者側の心情を考慮したもので、被害者にとっては大変有り難い判決でした。しかし、残念ながら最高裁判決は、「中古車取引価格・買替条件等物損基準昭和49年4月15日最高裁判決紹介」に記載したとおり、被害車両売却代金と被害車両事故直前の時価との差額が損害賠償額として認められる要件として、①その買替えが社会通念上相当と認められるときと②その買替えが社会通念上相当と認められるには、フレーム等車体の本質的構造部分に重大な損傷の生じたことが客観的に認められる場合の厳格に解釈し、札幌高裁判決を破棄しました。

○そのため物損事故交通事故損害賠償実務では、原則修理費か、修理費が車両時価を上回る場合は車両時価が損害になるとの運営が定着したものと思われます。その意味で、昭和49年4月15日最高裁判決(民集28巻3号385頁、交民集7巻2号275頁)は、物損被害者側にとっては、原審昭和47年12月26日札幌高裁判決(民集28巻3号399頁、交民7巻2号283頁)と違って、大変有り難くない判決です。

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主  文
一 本件控訴を棄却する。
二 原判決中被控訴人(附帯控訴人)敗訴部分を次のとおり変更する。
1 控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)に対し金8万7045円及び内金7万9445円に対する昭和42年12月20以降支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被控訴人(附帯控訴人)のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は第1、2審とも控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。
四 この判決中二の1は仮りに執行することができる。

事  実
 控訴人(附帯被控訴人。以下「控訴人」という。)代理人は、「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人(附帯控訴人。以下「被控訴人」という。)の請求を棄却する。訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び附帯控訴棄却の判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決並びに附帯控訴として「原判決中被控訴人敗訴部分を取り消す。控訴人は被控訴人に対し金9万3045円及び内金8万4445円に対する昭和42年12月20日以降支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第1、2審とも控訴人の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求めた。

 当事者双方の事実上の主張及び証拠の提出、援用、認否の関係は、次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一 被控訴人代理人は、「被控訴人は、被害車両の購入先であるトヨタパブリカ道都株式会社円山営業所の鈴木政一所長が、被害車両を点検、試走したうえ、事故により被害車両に修復不能の欠陥が生じた旨説明したので、右事故に遇わなければ、買替えする必要がまつたくなかつた被害車両を下取りに出して買替えしたのであるから、事故前の被害車両の価額(購入価格から減価償却額を控除した額)と下取り価額との差額は本件事故による損害というべく、仮りに前記鈴木所長の説明に誤りがあり、被害車両が修復可能であつたとしても、交通事故の被害者に対する医師の手術が適切を欠き、そのため医療費や苦痛が増大した場合と同様、控訴人と右鈴木所長が不真正連帯債務の関係に立つことがあるのは格別、被控訴人との関係において、控訴人はその責を免れるものではない。」と述べ、新たに〔証拠略〕を提出し、当審における証人霜鳥光昭の証言及び被控訴人本人尋問の結果を援用した。

二 控訴人代理人は、「被害車両には修復不能の欠陥がなかつたのであるから、これを買替えする必要性はなかつたのであり、したがつて買替えによる損害は本件事故と相当因果関係がなく、たとい第三者の行為が介入して被控訴人が買替えを必要と考えたとしても、その行為が買替えの必要性の原因となる行為である場合、たとえば修理を誤つて修理不能としたような場合であればともかく、単に買替えの必要性について誤認を生じさせたにすぎないときは、これによつて買替えの必要性が生ずるものではないから、買替えによる損害が事故と相当因果関係を有することにはならない。仮りに、被控訴人が被害車両を買替えする必要があると誤解したことに相当の理由がある場合には、買替えによる損害は本件事故と相当因果関係があるとの見解に立つても、被控訴人は被害車両の破損の修復可能性について十分検査せず、鈴木所長のあいまいな説明を聞き、単に修復不能のおそれがあるというだけで心理的に事故車を嫌悪して被害車両を買い替えたのであるから、損害の拡大について重大な過失があるものというべく、よつて過失相殺を主張する。」と述べ、〔証拠略〕の成立を認めると述べた。

理  由
 事故の発生及び控訴人の責任原因に関する事実については、当事者間に争いがなく、本訴の争点は、損害額にある。
 よつて審按するに〔証拠略〕を総合すると、次の事実を認めることができ、原審における〔証拠略〕は、この認定を左右するものでなく、その他この認定を覆すに足る証拠はない。

 被控訴人は、被害車両を昭和42年9月5日新車として代金59万2000円で買い受けたこと、本件事故日である同年12月20日は購入後3カ月半しか経ておらず、同日までの走行距離は僅かに3972キロメートルであること、購入後事故日までの定率法による減価償却額は金6万2555円であること、事故当時の被害車両の状態は良好で、事故による損傷部分を除けば、前部フエンダーに金3000円の減額となる瑕疵と金2000円相当の工具の不備があつたにすぎないこと、本件事故は停車中の被害車両にななめ後ろから追突したもので、これにより被害車両のフレームに欠陥の生ずる可能性のある程度の事故であつたこと、事故による外装の修理費用の見積額は金2万1300円であつたこと、一度事故に遇うと完全に元どおりに修復されることはほとんど期待できないこと、事故に遇つたことによる被害車両の減額は右修理金額を前提として、金5000円ないし金1万2000円と評価されていること、事故後被害車両はハンドルを右にとられるようになつたため、被控訴人はこれを購入先のトヨタパブリカ道都株式会社円山営業所に持参し、鈴木政一所長に修理の可能性について診断を求めたところ、同所長は被害車両を点検、試走したうえ、サスペンシヨンの取付部分やフレームに狂いが生じたものと判断し、この瑕疵は修理をしてもまたハンドルをとられるなどの癖が出るおそれがあると説明したこと、このため被控訴人は将来の安全を危惧して被害車両を下取りに出し、同一種類の自動車を購入したこと、被害車両の下取り価額は金35万1000円であつたが、これは、事故等による欠陥部分の減額のほか、自動車は登録されるとそれだけで約20パーセント減額されるうえ、下取り評価にあたり、欠陥の有無にかかわらずエンジン等の調整費等が減額され、さらに諸掛りとして定額が減額されて算出されることによるものであること、購入後間もない新車を買い替えることは、右の下取り価額の算定方法から、明らかなとおり、購入者にとつて著るしく不利益であり、そのため通常3、4カ月使用しただけの車両を買い替えることはないこと、被害車両は下取り後他に転売されたが、ハンドルのブレはホイルバランスを調整することによつて通常の走行に支障ない程度に回復したものの、完全には直らなかつたこと、以上の事実を認めることができる。

 右事実に基づき、被害車両の事故前の価額を算定するに、事故当時被害車両は新車として購入されて3カ月半を経過したにすぎず、このような車両が買い替えられることは通常なく、当時被害車両を買い替えまたは他に売却すべき特別の事情があつたことについてなんら立証がないから、被害車両の事故前の価額の算定にあたつては、下取り価額を基準とするのは相当でなく、定率法による減価償却の方法によることが妥当であると解すべきところ、前記のとおり事故当時までの減価償却額は金6万2555円であり、これに被害車両には本件事故と無関係に前部フエンダーに金3000円の減額となる瑕疵と金2000円相当の工具の不備があつたことを勘案すると、事故前の被害車両の価額は、購入価額金59万2000円から右合計6万7555円を減じた金52万4445円であつたと認めるのが相当である。

 そして、前認定のとおり、被控訴人は、被害車両を金35万1000円で下取りに出して買い替えたのであるから、右買替えが本件事故によるものであると認められれば、事故前の被害車両の価額と右下取り価額との差額は、本件事故による損害といわねばならない。この点について、控訴人は、被害車両が事故により受けた損傷は、いずれも修復可能なものであつたから、買替えの必要性はなく、買替えによる損害は本件事故と相当因果関係がないと主張する。

 本件全立証によるも、被害車両に修復不能の損傷が生じたと断定することは困難である。しかし、被害車両に修復不能の損傷が生じたと断定しえない場合であつても、被控訴人が被害車両を買い替えたこが諸般の事情から無理からぬものと認められる場合には、なお本件事故と買替えによる損害とは相当因果関係があるというべきである。このような観点から、前認定の事実関係を見てみるに、本件事故が被害車両のフレームに歪みを生じさせる可能性のあるものであつたこと(なお、原審における〔証拠略〕には、被害車両にはフレームの歪みがなかつた旨の供述または記載があるが、右各供述によれば、その検査方法はかなり杜撰なものであつたと認められるから、これらによつて被害車両にフレームの歪みがなかつたことも断定できない。)、事故後フレームの歪みを感じさせるハンドルのブレがあつたこと(なお、ホイルバランスの調整によつて通常の走行に支障のない程度にまこでれが改善されたことよりすれば、このブレがホイルバランスの不備をもその一因とするものであつたことは明らかであるが、ホイルバランスの調整によつて完全には復しなかつたのであるから、ホイルバランスの欠陥がそのすべての原因とはいえない。)、これらのことから被控訴人は被害車両の購入先の自動車会社に被害車両を持参して損傷の程度等について診断を求めたところ、サスペンシヨン及びフレームに狂いがあり、修理してもまたハンドルをとられるなどの癖が出るおそれがある旨の説明がなされたことなどを考えあわせると、被控訴人が被害車両の買替えをしたことは、まことに無理からぬことであり、このことに、一般に自動車が事故により損傷すると完全に元どおりになることはほとんど期待されず、したがつて、事故歴として、価額の減額事由とされていることと、被害車両が購入後間がなく、走行距離も僅かであることを考慮すれば、買替えによる損害は、すべて本件事故と相当因果関係があるものと解するのが相当である。

 控訴人は、被控訴人が買替えの判断をするについて、フレームの歪み等について十分の検査をしないまま買替えが必要であるとしたことは、損害の拡大について過失があることになると主張するが、右事実関係のもとにおいて、被控訴人がさらに精密な検査を経ないまま買替えしたからといつて、直ちに損害の拡大について過失があつたものということはできない。よつて、本件事故による被控訴人の車両の損害は、事故前の被害車両の価額金52万4445円と事故後の被害車両の下取り価額金35万1000円との差額金17万3445円である。

 次に、被控訴人は、弁護士費用を損害として主張するところ、〔証拠略〕によれば、被控訴人は本件訴訟の追行のため弁護士村部芳太郎に代理人を委任し、その着手手数料として金2万円及び報酬として勝訴部分の1割の割合による金員を支払うことを約していることが認められ、右事実と本件訴訟の経緯よりすれば、本件事故の損害として請求することのできる弁護士費用の額は、金3万7000円と認めるのが相当である。

 以上の次第で、被控訴人の本訴請求は、損害額合計金21万445円及びこのうち弁護士費用相当額を控除した金17万3445円に対する本件不法行為の日の昭和42年12月20日以降支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。よつて、控訴人の控訴は理由がないから棄却し、被控訴人の附帯控訴に基づき、原判決中被控訴人敗訴部分を変更し、右認容額のうち原審の認容額を控除した金8万7045円及び内金7万9445円に対する昭和42年12月20日以降支払済みに至るまで年5分の割合による金員を控訴人は被控訴人に対しさらに支払うべきことを命じ、その余の被控訴人の請求を棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第96条、第92条但書、仮執行の宣言について同法第196条を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判官 朝田孝 秋吉稔弘 町田顕)

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