旧TOP : ホーム > 交通事故 > 交通事故判例-その他後遺障害関係 > |
平成27年 6月26日(金):初稿 |
○後遺障害固定後鍼灸院を開業している23歳鍼灸大学生の事案につき、自賠責では「機能障害は非該当、疼痛について14級10号」とされたものを、鍼灸師には「筋力低下や可動域の制限が影響する」とし、「右橈骨骨折、右尺骨骨折後の右手疼痛及び可動域制限の後遺障害は12級に相当する」と認定し、逸失利益算定収入としては、賃金センサス大卒同年齢平均で67歳まで14%喪失で逸失利益認めた平成14年9月26日京都地裁判決(自動車保険ジャーナル・第1472号)判断部分を紹介します。 ○自賠責認定後遺障害非該当或いはせいぜい第14級後遺障害を第12級と主張する事例は多々ありますが、保険会社側はこの主張を徹底的に争い、裁判官に納得して頂くのは至難の業です。現在、当事務所でも同種事案を何件も扱っており、この京都地裁判決は、大変参考になるものです。 ********************************************* 第三 争点に対する判断 1 争点(一)について (中略) 2 争点(二)「後遺障害の内容程度」について 前記争いのない事実及び証拠(略)によれば、次の事実が認められる。 (一) 原告は、本件交通事故により右橈骨骨折、右尺骨骨折の傷害を負い、争いのない事実などのとおり入通院治療を受け、平成10年9月1日症状が固定したが、同時点で、右手筋力低下、右手可動域制限(自動で、前腕回内が90度《健側90度》、回外が75度《健側105度、但し正常可動域90度》、手関節掌屈が55度《健側80度、正常可動域90度》、同背屈が70度《健側が80度、正常可動域70度》)が、他覚症状として、右上肢筋萎縮による筋力低下、筋緊張及び疼痛が残り、平成13年10月1日時点での可動域計測では、自動で、前腕回内右80度(健側90度)、回外右60度(健側100度)と悪化し、同年11月14日時点でもほぼ同様の結果であった。 自賠責保険では、後遺障害診断書上、原告の関節運動可動域が健側の4分の3以下に制限されていないため、機能障害については非該当とし、橈尺骨骨折に伴う疼痛について等級表14級10号に該当すると認定した。 (二) 原告は、平成9年3月明治鍼灸大学を卒業し、同月末から鍼灸院に仮採用されたが、再手術などの治療の必要上休職のうえ退職し、以後アルバイトをしながらリハビリを続け、平成10年8月中旬ころから平成11年1月ころまで鍼灸院で稼働したうえ、平成13年3月独立して開業し、鍼灸師として週3日、1日当たり約2、3名の患者に対し片手挿管法による鍼灸治療を行い、休業日には京都大学でデータベース作成のアルバイトをしている。片手挿管法は、基本的な手法で、右手回内位で鍼の柄を拇指・示指で鍼を抜き、回外しながら①鍼柄を鍼管に入れ、②右手の示指・中指の間に鍼を挟み、③鍼柄を鍼管から少し出しながら示指腹の方へ移動させ、④右の示指腹と拇指で鍼管、鍼管口を同時に挟む手順で行われ、③から④の手の動きで手掌を完全に上にしながら(回外90度)この操作を行い、さらに臨床では患者の状態により様々な姿勢で鍼治療の施術をする必要がある。 この点について、明治鍼灸大学付属病院整形外科医学博士勝見泰和は、原告の右手関節や前腕の軽度の可動域制限(回外75度)が専門的職業としての技術の阻害となり、また原告の上肢機能障害が症状固定後も悪化していることは、橈骨尺骨間の骨間膜の瘢痕拘縮が原因で、今後改善の見込みはないとの意見を披瀝している(証拠略)。 (三) 以上を前提に考えると、原告の運動可動域については、自動で健側に比して、前腕の回内が100%、同回外が71%(健側の正常可動域である90度を基準にすれば、83%)で、右手関節の掌屈は68%(健側の正常可動域である90度を基準にすれば、61%、)、同背屈は87%(健側の正常可動域である70%を基準にすれば、100%)であって、健側運動可動域の4分の3以下に制限されてはいない。なお上記(証拠略)によれば、骨間膜瘢痕拘縮に起因して症状固定後の計測値がさらに悪化している(自動運動では、回内外が健側の4分の3以下に制限されている。 被告は、平成13年11月14日の計測結果では同年10月1日の計測結果に比し、回内が更に悪化した反面、回外が改善していて不自然であると主張するが、他動による回内回外合計の可動域と回外可動域の測定結果を比較しており、必ずしも上記のようにはいえない。)とされるが、後遺障害認定基準の別紙2、測定要領によれば、被測定者の姿勢や肢位により各関節の運動範囲は変化するものであり、また骨間膜瘢痕拘縮に起因する悪化であることにつき検査上の考慮が払われる必要が指摘されているが、その計測が上記の点も考慮して、(証拠略)の後遺障害診断の際に比してより正確になされたと認め得る証拠はなく、すぐには採用できない。 しかしながら、前記の原告の職業の特殊性からすれば、基本的手技である片手挿管法の場合、前腕及び手関節の巧緻運動は重要であり、回内から回外への動きも手順にあることからすれば、上記程度の可動域制限であってもこれに影響を及ぼすことは容易に推認できる。 被告は、①片手挿管法では、必要な主要な動きは指の運動であって、90度の回外運動を要するものではないし、②現に原告は鍼灸師として鍼灸院を開業し片手挿管法を使用して鍼治療を行っており、上記後遺障害が原告の職業に影響を与えてはいないと主張する。しかしながら、(証拠略)に照らしても、片手挿管法の手順が単なる指の運動によってのみ施行されるとは到底いえないし、また患者の姿勢如何で前腕の筋力低下や運動可動域の制限が影響することは十分肯認でき、原告が現に鍼灸院を開業して鍼治療を行っているとしても、そのことの故に上記機能障害が全く影響がないとはいえないのであって、上記主張は採用できない。 以上の点を考慮して、原告の疼痛及び可動域制限の後遺障害は等級表12級に相当すると認められる。原告は上記を併せ等級表11級に該当すると主張するが、同一部位における神経症状と機能障害は上位の等級によるのが相当であるから、同主張は採用できない。 (中略) (五) 逸失利益 1112万8093円 前記の原告の後遺障害の内容程度、原告の職業に照らすと、原告は同障害により労働能力を14%喪失したと認められ、その喪失期間は神経症状である疼痛のほか機能障害が主たるものであることを考慮すると67歳までとみるのが相当であり、その間少なくとも原告主張の症状固定時である平成10年度の大学卒25歳ないし29歳の男子平均賃金である年額456万2100円を得られた筈であるから、これを基礎収入とし、ライプニッツ式計算法により年5分の割合の中間利息を控除して逸失利益の現価を算出すると、次のとおり1112万8093円となる(なお被告は、原告が開業後の所得を明らかにしないことを論難するが、本件は開業前の所得と比較する事案ではないから、これが直ちに労働能力喪失割合に結びつくものではない。)。 456万2100円×0.14×17.4232=1112万8093円 以上:2,940文字
|