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平成27年 3月24日(火):初稿 |
○平成26年5月6日初稿「驚愕の約款3号直接請求否定平成26年3月28日仙台高裁判決まとめ1」に平成26年3月28日仙台高裁判決について、「如何なる観点からも、約款第6条2項(3)号での直接請求が、高裁判断の『自動車対人賠償責任保険は、契約によって定められた事故の発生により、被保険者が第三者に対する損害賠償責任を負担したことにより被る損失をてん補する責任保険の一種であるから、その性質上、保険会社による保険金の給付は、これに先だって、加害者(被保険者)が負担する損害賠償の額が確定していることが論理上前提となる』との解釈はできないはずです。この仙台高裁の判断の誤りは明白との上告受理申立理由書を連休返上で懸命に起案中です。」と記載していました。 ○さらに「上告審手続の経験とその備忘録」に ・平成22年の上告受理事件総数2247件の73.7%が審理期間3ヶ月以内で終局し、96.4%が上告不受理決定で終局 「上告審手続の経験とその備忘録-上告受理申立」に ・上告受理申立が認められ且つ原判決破棄となる例は100件の内2件弱 ・100の内98件強の上告受理申立事件は不受理決定または受理されても上告棄却で終る と記載していました。 ○要するに最高裁への上告受理申立事件は、100件の内74件が3ヶ月以内で終局し、100件の内98件強が不受理決定または受理されても上告棄却で終るの一般です。正に「開かずの門」です。しかし、保険会社への直接請求否認平成26年3月28日仙台高裁判決に対する上告受理申立は、平成26年4月7日に申立をして、同年4月10日受理申立通知書を受領し50日以内に理由書提出を命じられ、同年5月27日に全25頁3万1200字に及ぶ理由書を提出していました。 ○これまでの経験では上告受理申立理由書提出から4ヶ月程度で不受理決定が出ていたところ、本件は、理由書提出から9ヶ月を経た平成27年2月末を経過しても最高裁から連絡がなく、少なくとも受理申立はされるのではと期待していました。しかし、正に「嗚呼無情!」、平成27年3月23日に同年同月20日付の不受理決定が最高裁判所から届きました。申立理由書3万1200文字に対する回答は、「本件申立の理由によれば、本件は、民訴法318条1項により受理すべきものとは認められない。」との僅かに2行40数文字です。 ○この不受理決定によって「自動車対人賠償責任保険は、契約によって定められた事故の発生により、被保険者が第三者に対する損害賠償責任を負担したことにより被る損失をてん補する責任保険の一種であるから、その性質上、保険会社による保険金の給付は、これに先だって、加害者(被保険者)が負担する損害賠償の額が確定していることが論理上前提となる。」との平成26年3月28日仙台高裁判決判断が確定しました。 ○私としては、到底、納得できない判断です。しかし、法治国家の大原則に従い、この判断に従わざるを得ません。実は、平成26年3月28日以降の交通事故訴訟は、これまでの相手方を保険会社一本に絞る交通事故訴訟事件方針を変更して、加害者も被告に加えていました。しかし、3号約款による保険会社直接請求の方針は変えずに、しつこく、加害者本人請求と合わせて保険会社直接請求しており、これからもこの方針を継続します(^^;)。 ○以下、3万1200字の上告受理申立書の概要部分までを公開します。 *************************************** 上告受理申立理由書 目 次 ( )内は頁表示 一 事案概要-本件争点と一審判決と原審判決の結論(3) 二 上告受理申立理由書要旨-争点毎の上告理由骨子(3~5) 1 任意保険約款第6条2項(3)号に基づく直接請求の可否(3~4) 2 同任意保険約款第25条の消滅時効の成否(4) 3 申立人の後遺障害の程度-低髄液圧症候群発症の有無(4~5) 三 任意保険約款第6条2項(3)号に基づく直接請求の可否(6~11) 1 被害者の任意保険会社に対する直接請求約款構造等(6) 2 原審判決の任意保険約款解釈の前提の確定的誤り(6~8) 3 約款第6条2項(3)号でも「損害賠償額確定」不要は明白(8~9) 4 平成22年6月8日仙台地方裁判所判決紹介(9~10) 5 約款第5章第20条について(10~11) 6 昭和57年9月28日最高裁判決について(11) 四 任意保険約款第6条2項(3)号に基づく直接請求の意義と必要性(11~13) 1 交通事故損害賠償請求訴訟の実態と被保険者・保険会社間利益相反・利害対立(11~12) 2 交通事故訴訟のあるべき姿(12) 3 任意保険約款第6条2項(3)号直接請求による利益相反・利害対立の解消(12~13) 4 任意保険約款第6条2項(3)号直接請求の実態例(13) 五 保険約款第25条の被害者の加害者に対する損害賠償請求権消滅時効の成否(13~17) 1 原審判決の判断-消滅時効論争に論及せず(13~14) 2 直接請求による保険会社損害賠償債務原因は債務引受(14) 3 債務引受後の原債務者と引受債務者の債務は連帯債務が原則(14~15) 4 連帯債務者1人に対する請求絶対効による時効中断が明らか(15) 5 約款第25条の解釈の誤り(15~16) 6 青林書院裁判実務体系長谷川誠論述は誤りで根拠なし(16) 7 青林書院裁判実務体系長谷川誠論述の誤っている理由(16~17) 8 時効制度趣旨からの本件での消滅時効援用の問題性(17) 六 申立人の後遺障害程度-低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)の発症存否(17~25) 1 申立人の後遺障害について(17~18) 2 一審判決・原審判決の判断(18) (1)RIシンチ画像について(18) (2)頭部MRI画像について(18) 3 原審判決の論理則違反(18~19) 4 因果関係についての判例違反(19~20) (1)因果関係についての判例(19) (2)硬膜造影所見がある場合には髄液圧の測定は不要とされている(19~20) (3)原審判決の因果関係の判断は判例に違反しかつ経験則にも反する(20) 5 因果関係が認められる範囲についての誤り(20~22) (1)原審判決は医学上の低髄液圧症候群発症有無のみ因果関係判断(20) (2)局部に頑固な神経症状が発症したかに関する事実及び証拠(21) (3)申立人が受けたEBPに一定の効果あり(21~22) (4)小括(22) 6 相当程度の可能性の証明について(22~25) (1)相当程度の可能性の証明により損害賠償責任を認めた最高裁判例(22) (2)平成12年判決は実質において確率的心証論を認めたと評価可能(22~23) (3)交通事故訴訟における確率的心証論の適用の例(23~24) (4)申立人の考え(24) (5)本件へのあてはめ(24~25) (6)結論(25) 一 事案概要-本件争点と一審判決と原審判決の結論 本件の争点の第一は、被控訴人三井住友海上火災保険株式会社(以下、三井住友と言う)及び被控訴人日新火災海上保険株式会社(以下、日新火災と言う)と、加害者訴外A○男(以下、訴外Aと言う)及び訴外B○子(以下、訴外Bと言う)との間の一般自動自動車総合保険(以下、任意保険と言う)契約での約款第6条2項(3)号に基づく (1)被害者の任意保険会社である三井住友、日新火災に対する直接請求の可否 及び (2)同任意保険約款第25条の損害賠償請求権者である申立人の被保険者(加害者、本件では訴外A及び訴外B)に対する消滅時効の成否 である。 争点の第二は、平成17年11月18日発生交通事故(以下、第1事故と言う)、平成18年7月3日発生交通事故(以下、第2事故と言う)の後の申立人に残った後遺障害の程度で、本件第1、2事故に起因する低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)の発症による第12級相当後遺障害か、或いは、第14級相当後遺障害にすぎないかである。 本件第一審平成25年10月11日仙台地方裁判所第3民事部判決(以下、一審判決と言う)は、申立人の低髄液圧症候群発症を否認し後遺障害は第14級として損害元金約515万円を認めながらも、争点の任意保険約款第25条での加害者本人に対する消滅時効完成を理由に申立人請求を全部棄却した。 第二審平成26年3月28日仙台高等裁判所判決(以下、原審判決と言う)は、争点の消滅時効完成成否については判断することなく、任意保険約款6条2項(3)号に基づく直接請求が出来ないことを理由に申立人請求を全部棄却した。 さらに一審判決・原審判決いずれも本件第1、2事故に起因する低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)の発症を否認し、申立人の後遺障害は第14級であると認定した。 二 上告受理申立理由書要旨-争点毎の上告理由骨子 1 任意保険約款第6条2項(3)号に基づく直接請求の可否 原審判決は、任意保険約款第6条2項(3)号に基づく直接請求するためには「加害者(被保険者)が負担する損害賠償の額が確定していることが、(直接請求の)論理上前提」か「少なくとも保険会社において損害賠償額が事実上確定したと認めてこれを争わない状態にあることを前提」としている。しかし、損害賠償額の確定は、「損害賠償の額が確定」は、(1)号要件「判決の確定又は裁判上の和解・調停の成立」か、(2)号要件「書面による合意(示談)成立」であり、(3)号要件は(1)、(2)要件即ち損害額の確定なくしても「被保険者(加害者)に対する損害賠償請求権不行使承諾書面の提出」を要件として直接請求を認めており、(3)号要件に「損害賠償額の確定」は不要である。 また、約款第6条2項(4)号「損害賠償額が保険証券記載の保険金額(中略)を超えることが明らかになった場合」、約款第6条2項(5)号「加害者自身の破産・生死不明・相続人なくしての死亡」も「損害賠償額の確定」なくして直接請求を認めているもので、直接請求には、「加害者(被保険者)が負担する損害賠償の額が確定していることが、(直接請求の)論理上前提」が必要との論理が誤りである。 (3)号要件直接請求の趣旨は、「本号の規定は、被保険者(※加害者)が保険会社による示談代行に同意せず、そのうえ被害者との交渉にも応じない場合に備えたもの」、「(保険会社が被保険者から)委任(および準委任)契約を解除された後に、被保険者が負担する法律上の損害賠償責任の額を保険会社で算定し、『損害賠償請求権の不行使を承諾する書面』を被害者(※損害賠償請求権者)から取り付けて損害賠償額を支払うことは可能である。」と三井住友作成保険約款解説集にも解説されており、加害者との間の「損害賠償額の確定」は全く不要である。任意保険約款創成期FAP約款起案者宮原守男弁護士も、小松亀一弁護士が直接面談してお伺いしたところ、全く同意見であった。 さらに、直接請求をするためには「少なくとも保険会社において損害賠償額が事実上確定したと認めてこれを争わない状態にあることを前提」として必要とすることは、直接請求での裁判を受ける権利の否定であり、被害者は保険会社に対し「(保険会社が)争わない」金額しか直接請求出来なくなり、直接請求を認めた趣旨が没却されるもので、その解釈の誤りは明白である。 2 同任意保険約款第25条の消滅時効の成否 直接請求での請求は、加害者本人が被害者に負担する損害賠償債務であり、この保険会社が被害者に負担する損害賠償債務は、加害者と保険会社間の被害者に対し直接請求権を付与する旨の第三者のためにする契約(民法第537条)が成立し、加害者が被害者に負担する損害賠償債務について保険会社が併存的債務引受したものである。従って、加害者本人の損害賠償債務と任意保険会社の損害賠償債務は連帯債務の関係にあり、任意保険会社に対する請求は、民法第434条(連帯債務者の一人に対する履行の請求)「連帯債務者の一人に対する履行の請求は、他の連帯債務者に対しても、その効力を生ずる。」との規定から、他の連帯債務者である加害者に対する履行の請求と同視できるもので、加害者の損害賠償債務は消滅時効にはかからない。 まだ任意保険約款第6条2項(3)号での直接請求は、加害者に対する損害賠償請求権不行使承諾文書を提出して請求するもので、免責的債務引受とも評価できるもので、この場合、加害者に対する損害賠償請求権の消滅時効は問題にならない。 3 申立人の後遺障害の程度-低髄液圧症候群発症の有無 (1) 申立人の後遺障害について 申立人には本件各交通事故により顕著な後遺障害が遺残し,その程度は14級相当ではなく少なくとも12級(「局部に頑固な神経症状を残すもの」)であるところ,原審判決は申立人に医学的にみて低髄液圧症候群を発症したと診断できるかという点のみに争点を矮小化し,かつ,因果関係についての判断を誤り十分に審理していないという重大な違法がある。 (2) 第一審・原審の判断 原審が引用する第一審判決は申立人のRIシンチ画像につき「疑」所見ではあるが申立人は低髄液圧症候群を発症したことが立証されているとはいえないと判示し,頭部MRI画像における硬膜増強画像につき原審は,「強疑」所見ではあるが確定所見ではないことから低髄液圧症候群発症につき高度の蓋然性が立証されているとは認められないと判示した。 (3) 原審判決の論理則違反 原審判決は上記の各他覚所見につきいずれもそれ「のみ」をもっては確定診断ができない,とするが,RIシンチ画像と頭部MRI画像という異なる2つの他覚所見が存在するのであるから明白な論理則違反がある。 (4) 因果関係についての誤り(判例の理解の誤り) 原審は因果関係の判断につきルンバール事件最高裁判決を引用しながら,医学上確定診断がなければ因果関係を認めないとする点で「一点の疑義も許さない自然科学的証明」を求めるもので上記判例に違反する。 (5) 因果関係が認められる範囲についての誤り 本件で因果関係が認められるかどうかが問題となるのは申立人に遺残する後遺障害の程度が少なくとも12級に相当するかどうかであるところ,原審は因果関係が認められる範囲を,申立人が医学上低髄液圧症候群を発症したかに矮小化している点で因果関係の判断を誤っている。 (6) 相当程度の可能性の証明で足りることについて 申立人の後遺障害の程度に関し,①RIシンチ画像,②頭部MRI画像のほか,③大脳下垂の疑いが指摘されている事実に加え,④ブラッドパッチ治療を実施しその効果が発生しているとの事実および証拠があり,これらにより,仮に申立人に低髄液圧症候群を発症したことについて医学上確定的な診断がないとしてその可能性は相当程度あるといえ,これによりその障害の程度は局部に頑固な神経症状を残すものといえる。 一定の法益との関係で相当程度の可能性の証明があった場合に不法行為責任の発生を認めるという考え方は最高裁平成12年9月22日判決(民集54巻7号2574頁)ほか近時の最高裁判例で示されているところであり,このような考え方は実質的に見れば昭和40年代に倉田卓次裁判官が提起した確率的心証を認めるものとも評価することができる。 本件は上記平成12年判決が示した考え方に準じ,相当程度の可能性の立証をもって不法行為責任を認めるべき場合であるといえる。 以上:6,314文字
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