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平成26年11月11日(火):初稿 |
○「人身傷害保険に関する平成23年6月3日京都地裁判決要旨紹介」に続いて、その控訴審である平成24年6月7日大阪高裁判決(判タ1389号259頁、判時2156号126頁、自保ジャーナル1875号1頁)の要旨を紹介します。 先ず、事案の概要です。 ・交通事故で死亡したAの相続人Xらは、加害者Bに対し、損害賠償の訴えを提起して、訴訟基準損害額約6101万円からAの過失割合3割弱相当額を差し引いた約4017万円を和解金として受領 ・Xらは、訴訟基準損害額約6101万円の内Aの過失割合3割相当額の約1830万円を、Aが締結していた損害保険会社Yとの自動車保険契約での人身傷害補償保険として請求 ・Yは、Aの人傷基準損害額は約3565万円であり、Xら受領4017万円を差し引くとマイナスになり、支払分はないと支払を拒否 ・一審平成23年6月3日京都地裁判決(交民44巻3号751頁、自保ジャーナル第1862号133頁)は、Xらの主張全額を認めたので、Yが控訴 ○これに対し平成24年6月7日大阪高裁判決は、人傷保険の保険金額は約款に基づいて算定すべきであるから,本件のように,加害者からの損害賠償金の支払が先行した場合であっても,一審判決のように約款を限定解釈して保険金額を算定することは困難であるとして、本件人傷保険約款の本件計算規定①(約款に基づいて算定した人傷保険金額から加害者からの既払賠償金額を控除した残額を支払うとの計算規定)によると,Yが支払うべき保険金額は存在しないとし,本件計算規定②(約款に基づいて算定した人傷保険金額に被保険者〔被害者〕の過失割合を乗じた金額を支払うとの計算規定)に基づき,人傷基準保険金額を3565万円と算定し、これに被害者Aの過失割合3割を乗じた約1070万円の限度でXらの請求を認容しました。 ○私だったら保険会社Yに対する請求は、訴訟基準損害額約6101万円と和解金受領額4017万円の差額約2084万円を請求し、一審京都地裁の人傷保険金は①責任割合にかかわらず実損害の補償を目的とするものであるとの考え方からは、全額認められたはずです。しかし、訴え提起当時は、まだこの考え方が浸透しておらず、「被保険者〔被害者〕の過失割合を乗じた金額を支払う」との保険約款にとらわれて訴訟基準損害額の3割相当額を請求したものと思われます。 ○人傷保険は,被保険者を加害者とする賠償責任保険ではなく、自動車事故による被害者を被保険者として、被保険者が死傷した場合に被保険者の過失割合を考慮することなく,約款所定の基準により算定された損害額を基準に保険金を支払うという傷害保険です。この保険金について、被害者保護の風潮から、相次いで最高裁判所の判決が出され,「被害者について民法上認められるべき過失相殺前の損害額(裁判基準損害額)に相当する額が保険金請求権者に確保されるように,上記支払った保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回るときに限り,その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると解するのが相当である。」という裁判基準(訴訟基準)差額説を採るべきことで決着を見ています(平成24年2月20日、同年5月29日各最高裁判決)。 ○ところが、平成24年6月7日大阪高裁判決は、これらの被害者保護の風潮に水を差すもので、約款を重視して、人傷保険金は①責任割合にかかわらず実損害の補償を目的とするものであるとの考え方に修正を加えたものです。被害者側専門弁護士としては、何としても最高裁で是正して頂きと、心から願っております。 しかし、本件大阪高裁判決文は、結構な量があり、詳細に人身傷害保険約款を検討し、その解釈・運用について詳細に論じており、大いに参考になるものです。シッカリ勉強する必要があり、その結果を更にこの更新情報で紹介していきます。 以上:1,621文字
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