平成26年 3月22日(土):初稿 |
○自営業者が交通事故での後遺障害で全部または一部の労働能力を失った場合、将来の逸失利益を算定する基準収入額は、申告所得が原則とされています。「申告所得を超える逸失利益請求」では、「○裁判手続とは、大袈裟な言い方ですが、自己の権利を私的には実現できないので国家権力を利用して実現することであり、国家によるサービスを受けることです。収入に応じた納税は国民の義務であり、この国民の義務の面では200万円分しか果たしていないのに、権利実現サービスを受けるときのみ1000万円と主張するのは余りに虫が良すぎるとの考えもあります。 ○しかし納税に関しては全国民公平に義務を果たす制度になっているかというと、これも疑問です。そこで私自身としては実際収入通りの申告をしていない場合は、申告額が小さくてもせめて賃金センサスの平均賃金を平均収入は認めるべきと考えております。 」と記載しています。 ○現在この点が争いになっている事案を抱えており、裁判例を調査中ですが、参考判例として平成15年12月24日大阪地裁判決(交民36巻6号1671頁)を逸失利益に関する部分に限定して紹介します。 ************************************************ (3)損害額 【原告の主張】 イ 休業損害 682万7716円 (ア)基礎収入額 原告は,本件事故当時,塗装工として株式会社C(以下「C」という。)に勤務し,平成11年中には603万4500円の給与の支払を受けていたので,原告の1日平均給与額は1万6532円である。 なお,原告は,給与から源泉徴収を受けていなかったので,経費を架空計上して確定申告を行って節税していたが,実際には費用は全てCの負担であり,原告に経費負担はない。 (中略) ウ 後遺障害逸失利益 4289万3226円 (ア)労働能力喪失率 原告は,16歳の時から本件事故で負傷するまでの間,45年以上にわたり,塗装工一筋に稼働してきた者であり,他に収入を得る職を知らない。本件事故によって塗装工として最も大切な利き腕の機能に著しい障害を残し,今後終生塗装工としての業務に従事することができなくなった。 塗装工としての能力を身に付けている原告の右の利き腕は,正に,収入を得るための全ての労働能力を保有する身体部分であることから,その機能を喪失することは,労働能力の100%を喪失するに等しい。 そのため,原告は現に失職し,将来においても塗装工として就労することは不可能であり,その障害の部位程度及び年齢から判断して,原告が実際に他の職業について収入を得る見込みも全くない。 【被告らの反論】 ア 休業損害について (ア)基礎収入額について 原告は,休業損害の基礎となる収入額として,単純に「売上金額」を365日で割った金額を用いている。しかしながら,自営業者の基礎収入としては,「売上金額」から,服代,地下足袋代,電話代,飲食代,道具代,交通費及び公租公課等の「経費」を控除した金額である367万4060円(日額1万0065円)とすべきである。原告は,確定申告書の「経費」の記載は,架空のものであると主張するが,経費が一切かからないことはあり得ず,また,架空の申告をしている者が,それを訴訟上有利に用いることを認めるべきではない。 仮に,確定申告書の「経費」額を採用できないとしても,上記のとおり経費が一切かからないということはあり得ないのであるから,その場合には平均的経費率(乙2)を用いて,原告の基礎収入算定すべきである。 (中略) (イ)労働能力喪失率について 原告は,後遺障害等級併合9級の後遺障害と主張しているにもかかわらず,100%の労働能力喪失率を用いて逸失利益を算定している。 しかしながら,労働能力喪失率については,後遺障害等級に応じた一般的な割合で算出すべきである。この点,原告は,塗装工としての業務以外には従事し得ないと主張するが,それはあくまで原告の主観的な問題であり,客観的には,他の職業を含めて業務を行うことは可能であるから,原告の当該主張は明らかに失当である。 【判示】 オ 休業損害 648万6674円 (ア)基礎収入額 a 甲5ないし7,同11及び原告本人尋問の結果によれば,以下の事実が認められる。 原告は,昭和12年○○月○○日生まれの男性で(本件事故当時62歳),中学卒業後間もなく塗装工の仕事に就き,以来,本件事故まで塗装工として稼働してきた。昭和63年5月からは,Cに日給制で雇用されていた。原告は,2,3人で組んで(訴外AもCに雇用されており,常に原告と組んで仕事をしていた。),現場に赴き,足場を組み,テントを張り,内装や外装の部材の取り付け,塗装作業を行っていた。原告は,長年の熟練工として,現場の責任者を任されており,Cが受注する工事の中でも取りわけ難しい現場を担当していた。 原告が本件事故の前年である平成11年中に,Cから支払を受けた金額は603万4500円であった。また,本件事故(同年8月31日)の翌日からは全く就労できなくなったため,平成12年中の受領額は402万3000円であった(平成12年からは,Cの経営事情の悪化のため,毎月3万円の主任手当が廃止となり,日額1万9000円の日給のみとなったとするが,平成11年と平成12年を比較すると,平均月額は同じである。)。 原告は,税務申告上は個人事業主として,上記収入を確定申告していたところ,その際には,外注工事,租税公課,水道高熱費,旅費交通費,通信費,接待交通費,修繕費,消耗品費などの必要経費を要したとして,平成11年には合計344万0440円(経費率約57%),平成12年中には合計265万3820円(経費率約66%)の経費を差し引いて,平成11年は187万4060円,平成12年は136万9180円を所得として申告していたが,原告は,これを架空申告である(中小企業連合会で所得税を支払わなくてもよいように,架空の経費を計上してくれた)としている。実際,通勤及び現場への移動は,Cが訴外Aに支給していた原告車両を使用しており(車両費用もC負担),現場で必要な器具等の代金もCが負担していた。 b 前記aに認定の事実によれば,原告の休業損害を算定する基礎収入額は,上記平成11年の年収603万4500円から,その5%に当たる経費を差し引いた金額とするのが相当である。この点,被告が指摘するように,納税義務を果たさず,不当に利得を得た上で,損害賠償請求訴訟においては,これに反する主張を行うことは不誠実ではあるが,前記aに認定の事実によれば,経費としては,通信費及び消耗品費程度であることからすると,経費率は収入額の5%程度と認められ,原告の所得は,年額573万2775円(603万4500円×(1-0・05))と認められる。 (中略) カ 後遺障害逸失利益 1100万2112円 (ア)基礎収入額 原告の後遺障害逸失利益の基礎収入額としても,前記オ(イ)に認定の年額573万2775円と認めるのが相当である。 原告は,63歳(症状固定後の原告の年齢)の平均就労可能年数である9年間(72歳まで)の逸失利益を請求するところ,なるほど,被告らが指摘するとおり,年齢による労働能力の低下及びそれによる減収は一般的には考えられるところであるが,甲15,16及び原告本人尋問の結果によれば,原告は,本件事故に遭遇しなければ,その塗装工としての技術及び経験によって,70歳を超えても,現場責任者として,後輩の指導的立場として,上記収入を維持することが可能であったと認められる。 (中略) (ウ)算定 前記(ア)(イ)によれば,原告の後遺障害については,逸失利益は,573万2775円を基礎収入として,症状固定から9年間(年5%のライプニッツ係数は7・108)にわたって,27%の労働能力を喪失したものとして,その逸失利益を認めるのが相当であって,これを症状固定時の現価に換算すると,次のとおり,1100万2112円となる。 573万2775円×0.27×7・108=1100万2112円 以上:3,315文字
|