平成25年12月16日(月):初稿 |
○交通事故による急性硬膜下・硬膜外血腫、外傷性クモ膜下出血、脳挫傷、頭蓋骨骨折等の傷害を受け、その後、上肢・下肢のしびれ、握力低下等の症状に悩まされ続けているのに、この「しびれ」について、頚椎異常等医学的機序がハッキリせず、事故による傷害との因果関係が認められないとの理由で、自賠責後遺障害には該当しないと判断されている方の交通事故訴訟を扱っています。「しびれ」以外の部分で後遺障害が認められていますが、ご本人は、「しびれ」が最も辛く、日常生活にも大きな不便を強いられているのに、これを後遺障害と認定されないことに大きな不満を持たれて提訴に至りました。 ○そこで、現在、「しびれ」についての文献を集めて読んでいます。「神経症状と神経麻痺・しびれ・痛みの違いについて」に「訴訟では、その異常が客観的に目に見える形となっている即ち器質損傷がないと異常とは評価されず、損害賠償の対象になりません。誠に理不尽です。 」と記載していましたが、せめて「しびれ」と言う「異常」につての機序説明が出来るように文献を集めを試みていますが、現時点では「しびれ」そのものだけを解説した素人向け解説書は、寺本純医師著「『しびれ』がスッキリわかる本」しか見つけることが出来ません。 ○以下、この「『しびれ』がスッキリわかる本」備忘録です。寺本純医師は、神経内科医で名古屋市で「寺本神経内科クリニック」を開院され、「八重洲痛みの診療室」と言う東京分院でも週1回程度診察に当たっておられます。いずれも健康保険扱いはしない完全予約制の自由診療とのことです。 第1章「しびれとはどんなもの」から 1.「しびれ」の正体いろいろ しびれは、頭痛・めまいと並ぶ神経内科外来三大主訴の一つだが、その症状は厳密に分析すると単一の用語ではなく、病態としては様々なものがある。。 長時間正座後のしびれは、違和感のような痛み、知覚が鈍い状態、ビリビリ感続く状態等多様な症状がある 皮膚の知覚 表在知覚として、触覚・痛覚・温度覚、深部知覚として関節知覚があるが、通常しびれといえば表在知覚の異常をいう 知覚脱出と知覚鈍麻-「正常な感覚がわからない」状態 知覚脱出は、完全に感覚が伝わってこない状態、知覚鈍麻は、知覚が完全にわからない状態ではなく鈍いけれど認知できる状態 異常知覚-「異常な感覚がわかる」状態で、通常は感じないはずの症状を感じる状態 錯感覚-冷たい刺激に対し熱く感じる等の異なる知覚として感じる状態 知覚過敏-知覚が実際以上に強く感じられる現象 神経痛-特徴は、一瞬の電撃的な痛みで、神経の枝に沿った領域に広く波及し、痛みが去ったあとしばらくの間痛みの広がった領域に違和感が残るもの 神経は電線の束のようなもので、異常な力が外から加わることで、個々の神経線維の間で異常な放電・漏電が生じ、この現象が神経痛として感じられる 異痛症-医学用語ではアロディニアと呼ばれ、実際に痛覚など起こすほどではない程度の刺激に痛覚などが引き起こされる現象、神経組織に傷がある場合とない場合2種がある 深部知覚障害-関節知覚とも呼ばれる目をつぶっていても、腕や肘を曲げていることを自覚できる知覚 運動麻痺-運動神経の障害に対して用いられる用語で、感覚神経の異常に対し「知覚麻痺」との用語は存在しない。 ※「神経症状と神経麻痺・しびれ・痛みの違いについて」で、加茂淳医師の「「麻痺」とは「神経麻痺」のことで神経が何らかの原因で正常に機能せず、「知覚鈍麻」、「知覚脱出」を起こし、神経が麻痺して触っても針で突いても、「感覚が鈍い(鈍麻)」、「感覚がない(脱出)」ことを言うそうです。」との説明を紹介していました。ここでの説明と矛盾するかどうか、更に検討が必要です。 2.しびれは神経組織の障害が原因 しびれは、知覚系の障害なので、この症状に関係があるのは神経系統の組織 しびれを起こす原因として最も多いのは末梢神経の障害 末梢神経の構造と障害の様式 末梢神経とは電線の束のようなもの、神経線維は電線のようなもの、中央の軸索が電線の金属部分で、電気刺激の通り道で、軸索周辺には髄鞘という絶縁体でできた被覆線のようなものがある 末梢神経の障害には、被覆線である髄鞘が破壊される節性脱髄と、軸索がちぎれる軸索変性がある 一般に末梢神経の障害は節性脱髄で、被覆線が傷み別の繊維の軸索どうしが触れることで漏電現象が起き、軸索にも障害が起きる 中枢神経の構造と障害の様式 中枢神経とは脳と脊髄、 神経細胞には、働きをつかさどる実質組織と、これを支える支持組織としての神経膠細胞があり、神経細胞やその突起の間隙を神経膠細胞が埋め尽くし、体積は神経膠組織が圧倒的に多い 軸索は神経細胞の突起で、髄鞘は神経膠細胞系列組織 神経細胞系列の軸索の障害は軸索変性、神経膠細胞系列の髄鞘の障害は節性脱髄と呼ばれる 知覚に関係する神経細胞及び突起が障害されると、どのような種類の病変でも、また、どのような部位の病変でも、しびれは起こりうる 機能性病変とは? 器質性病変は、顕微鏡などを含め目で見ることができる病変-ハードウエアの故障 機能性病変は、目に見える病変が存在しないもの-ソフトウエアの故障 3.治るしびれと治らないしびれ 機能性病変に基づく場合は、組織に障害がないので治りやすい傾向にあるが、再発もしやすい 器質性障害の場合、中枢神経組織(脳・脊髄)は再生・修復がほとんど不可能で、基本的に治らない 末梢神経の場合、再生能力があり治る場合もある 末梢神経は再生する 改善過程で異常知覚(しびれ)が強まることもある 中枢神経の癒着はしびれの症状を進行させる 中枢神経は再生されない、死滅した神経細胞は蘇ることはない 脳血管障害に代表されるような病変を起こした直後には知覚系のしびれがなかったのに、数ヶ月してからだんだんしびれや痛みが現れてくることが起こりうる 4.意外に無力な各種の検査 MRIは末梢神経を写し出すことは技術的にできない 神経内科疾患の診察は問診が重要、いつから、どの部分に、どんな感じの症状が現れたか、などの臨床特徴を聞き出し、その起こり方や症状の分布などから中枢神経の障害か、末梢神経の障害か、いずれともいえないかを予測して、ハンマー(打腱器)などを用いて診察室内で所見を調べた上で、必要があるときのみMRI検査をすべき ろくに問診もしないでMRI検査をする医療機関は避けるべき 筋電図検査 末梢神経を刺激してそれが筋肉に伝わっていく筋肉が動くさまを電気的に記録する 実は異常があっても検査結果が正常に出ることがあり、これらの検査所見も絶対的なものとは言えない 以上:2,695文字
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