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会社従業員がマイカー通勤途中で物損事故を起こした場合の会社の責任

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平成25年12月 9日(月):初稿
○会社従業員がマイカー通勤途中で物損事故を起こし、1000万円の損害賠償請求を受けていますが、被害者は会社従業員には支払能力がないとして、会社に請求が来て困っていますとの相談を受けました。従業員の通勤途中でのマイカー事故は、原則として、会社が次の自賠法第3条運行供用者として責任を負うのが原則です(昭和52年12月22日・平成元年6月6日最高裁判決等)。

○しかし、物損事故の場合、自賠法は適用になりません。自賠法での責任は、「他人の生命又は身体を害したとき」に限られるからです。
自賠法関係条文は次の通りです。
第1条(この法律の目的)
 この法律は、自動車の運行によつて人の生命又は身体が害された場合における損害賠償を保障する制度を確立することにより、被害者の保護を図り、あわせて自動車運送の健全な発達に資することを目的とする。
第3条(自動車損害賠償責任)
 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。


○では、通勤途中の物損事故について会社が責任が無いかというとそう言い切れません。民法の使用者責任が発生する場合があります。
民法第715条(使用者等の責任)
 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。


○会社従業員がマイカー通勤途中で物損事故を起こした場合の会社の使用者責任が問題になった判例を紹介します。
先ず、使用者責任を肯定した平成10年5月21日神戸地方裁判所判決(交民集31巻3号709頁)です。使用者責任について
民法715条1項所定の責任が発生するためには、被用者が、使用者の事業の執行につき、第三者に損害を与えたことを要する。そして、『事業の執行につき』というときには、被用者の職務執行行為そのものには属しないが、その行為の外形から観察して、あたかも被用者の職務の範囲内の行為に属するとみられる場合をも包含するものと解すべきである。また、被用者の自家用車による通勤においては、右自動車は被用者の私生活上の所産であり、通勤途上は、被用者は未だ業務を遂行しているわけではなく、したがって、被用者の行為は使用者の拘束を離れた自由な行動の場におけるものであるから、被用者が自家用車による通勤途上に交通事故を起こした場合には、使用者がその自動車の使用を命令、助長するなど、自家用車による通勤と使用者の業務との間に強い関連性が認められる特段の事情のない限り、その運転行為が当然に事業の執行になるとはいえないというべきである。」
としながらも、当該事案では、
 「被告Aは、被告会社から指定された集合場所に行く途中で本件事故に遭遇したこと、朝早いこともあって、右集合場所へ公共交通機関を利用して行くことは不可能であったこと、被告Aは、自家用車を使用して集合場所に向かうようにとの被告会社の具体的指示にしたがっていたこと、集合後、被告Aは直ちに業務につく予定であったことが認められる。これらの事実によると、集合場所への途中とはいえ、本件事故当時、被告Aは、被告会社の具体的な指揮命令下に行動していたというべきであって、本件事故当時の自家用車による通勤と使用者の業務との間は、強い関連性が認められる特段の事情があるというべきである。
として使用者責任を認めています。

○次は使用者責任を否定した平成21年12月9日東京地裁判決(ウエストロージャパン)です。
従業員が通勤途中にある場合には未だ業務を遂行しているわけではなく,したがって,従業員の行為は使用者の拘束を離れ,使用者の管理監督下にあるわけではないから,従業員が通勤途上に起こした交通事故に関して使用者が使用者責任を負うには,単に,従業員がマイカー通勤していることを使用者が容認していただけでは不十分であって,使用者が従業員に対してマイカーを利用して通勤することを指図し,少なくとも,ガソリン代の負担や駐車場の提供などマイカー通勤をすることについて積極的に便宜をはかっていることが必要というべきであるし,また,従業員が通勤に利用するマイカーを使用者の業務に使用したり,従業員が勤務先まで通勤するためには公共交通機関の利用が困難でマイカー通勤をせざるを得ないなど,従業員が通勤にマイカーを使用することによって使用者が利益を受けることが必要
として使用者責任を否定しています。

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