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加害行為前の被害者疾患を過失相殺類推適用で斟酌した判例解説

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平成25年 7月23日(火):初稿
○「加害行為前の被害者疾患を過失相殺類推適用で斟酌した判例全文紹介」の続きでその解説です。
平成4年6月25日最高裁判決(民集46巻4号400頁・判タ813号198頁)の判決要旨は、被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法722条2項の規定を類推適用して、被害者の疾患を斟酌することができるとしたものです。

○先ず事案概要です。
・被害者亡Aは、本件事故前の昭和52年10月25日早朝、タクシー内でエンジンをかけたまま仮眠中、一酸化炭素中毒にかかり、意識もうろう状態で内野病院に入院し、翌日意識が戻り、11月7日に退院して直ちにタクシーの運転業務に従事
・Aは、昭和52年11月25日午前4時58分ころ、路上で走行停止中に、車両左後部を加害者Y運転車両右側面に衝突され、その衝撃で頭部打撲傷を負った
・Aは、事故直後は意識が比較的はっきりして精神状態に問題があるとは思えなかったが、これといった外傷も見られず、頭部の痛みの訴えもなかったが、ほどなく記憶喪失に陥り、一人で自宅に戻れなくなり長男が引き取った
・Aはその後自宅療養を続けたが、奇異な振る舞いがあり、11月30日、外科に入院し頭部外傷、外傷性項部痛症と診断され、精神症状の存在を理由に精神病院に転院を指示された
・Aは、12月7日、院精神科の診察を受け、痴呆様行動、理解力欠如、失見当識、記銘力障害、言語さてつ症等の多様な精神障害と診断され、同月16日、入院し、以後、同病院で治療を受けたが症状が改善しないまま同年12月29日、呼吸麻痺を直接の原因として死亡


○Aの相続人Xらが加害者Yに損害賠償の訴えを提起し、一審昭和59年1月17日東京地裁判決(判タ523号179頁)は、事故と被害者の精神症状ないし死亡との間の因果関係を肯定し、かつ、被害者が事故前に罹患していた一酸化炭素中毒の寄与も否定できないとして、過失相殺の法理の類推適用により、その寄与の割合を斟酌して損害額から4割を減額した上、本来の過失相殺による1割の減額をして、被害者の相続人であるXらの請求を一部認容したが、二審昭和63年4月25日東京高裁判決は、一審同様、事故との因果関係及び一酸化炭素中毒の寄与を認めたが、一審より認容額が下回ったため(寄与の割合を5割としたほか、過失相殺を3割とした)、これを不服とするXらが上告しました。

○本件における第一の争点は、事故と被害者の精神障害ないし死亡との間の因果関係です。原審(一審)の認定は、事故による頭部打撲傷と被害者の事故前の一酸化炭素中毒とが併存競合することによって、一旦は潜在化ないし消失していた一酸化炭素中毒における精神症状が頭部打撲を引金に顕在発現して長期にわたり持続され、次第に増悪し、遂に死亡に至ったというものです。
最高裁判決も、被害者が、精神障害を呈して死亡するに至ったのは、事故による頭部打撲傷のほか、事故前に罹患した一酸化炭素中毒もその原因となっていたことが明らかであると判示しています。事故と被害者の素因とが競合して損害が発生又は拡大したと認めています。

○第二の争点では、損害賠償額の算定に当たって被害者の素因を斟酌し得るのか否かです。被害者の心因的素因は、昭和63年4月21日最高裁判決(民集42巻4号243頁、判タ667号99頁)は、損害の減額要素として斟酌し得るとしていますが、体質的素因は、心因的要因と異なり、損害の減額事由として斟酌すべきでないとする見解もあり、東京地裁の交通部の実務も、体質的素因は原則として損害の減額事由として斟酌していない扱いでした(原田卓「被害者の素因について」東京三弁護士会交通事故処理委員会編・損害賠償額算定基準90年版71頁)。

○しかし、損害の公平な分担という意味では、心因的要因と身体的素因を区別する理由はないとして、身体的素因も過失相殺の法理を類推適用して、損害賠償額の算定に当たって斟酌し得ることを本判決は明らかにしました。常に被害者側の立場で、損害賠償請求訴訟を扱っている私としては、体質があっても交通事故がなければ損害は発生しなかったのですから、体質のせいで減額されるのは腑に落ちません。
以上:1,803文字

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