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交通事故による脳脊髄液減少症を認めた名古屋高裁判決紹介4

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平成23年12月26日(月):初稿
○「交通事故による脳脊髄液減少症を認めた名古屋高裁判決紹介3」を続けます。
 今回は、脳脊髄液減少症に関する医学研究経緯を概観し、国際頭痛学会の基準の問題点を修正した外傷に伴う低髄液圧症候群の新診断基準と篠永医師らによるガイドライン2007年の骨子を説明し、現時点では外傷による脳脊髄液減少症発症自体は認められつつあり、厚生労働省も、平成22年4月12日に脳脊髄減少症ついての各種検査は保険適用になる旨の見解を示し、同症の診断基準を作成するための研究を継続する旨を明らかにしている事実を取り上げています。

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(3)そこで、まず、脳脊髄液減少症に関する医学的研究の経緯等を見るに、証拠(乙4-資料D)及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおり認められる。

 これまで原因不明の起立性頭痛を主訴とする低髄液圧症候群という病名が1938年にshltenbrandによって初めて報告されたが、現在では国際的には特発性頭蓋内圧症候群(以下「SIH」という。)が最も一般的な病名として使用されており、わが国では脳脊髄液減少症という病名も使われている。そして、1990年代後半にはIT画像診断で脳脊髄液漏出が確認されたことから、SIHの発症機序として脳脊髄液漏出説が有力となった。しかし、当初各種画像検査での脳脊髄液漏出の検出率が低かったことから、脳脊髄液の漏出がSIHの原因であるとしつつも、頭部MRIの硬膜増強やRI脳槽造影の早期膀胱集積のような間接的所見がSIHの確定診断に使用されるようになった。

 また、治療では、1970年代に既に腰椎穿刺後頭痛の治療法として確立されていた硬膜外自家血パッチ療法がSIHにも応用されるようになり、画像検査で髄液の漏出像が確認されるようになる1990年代後半以前にSIHの治療法として定着している。現在においても、SIHの発症機序や病態の詳細は依然として未解明のままであり、診断や治療法も未だ確立したわけではないが、脊髄での髄液の漏出が原因であることには問題がないように考えられている。そして、髄液漏出の原因としては、各種論文によれば、頭部打撲、頸椎捻挫、転倒などの軽微な外傷後にも発症していることが報告されている。

 国際頭痛学会、頭痛分類部会は、2004年SIHの診断基準を発表しているが、日本神経外傷学会の頭部外傷に伴う低髄液圧症候群作業部会は、平成19年(2007年)、国際頭痛学会の基準の問題点を修正した外傷に伴う低髄液圧症候群の新診断基準を発表したところ、その内容は次のとおりである(乙4-資料D島克司論文中に所掲)。

前提基準
1.起立性頭痛(15分以内に増悪する)
2.体位による症状の変化

大基準
1.びまん性の硬膜増強(造影MRI)
2.髄液の漏出(脊髄MRI、CTミエログラフィー、RI脳槽造影)
3.低髄液圧(60mmH2O)

小基準
1.静脈の拡張(頭部MRI,脊髄MRI)
2.硬膜下液体貯留(頭部MRI)
3.下垂体の腫大(頭部MRI)
4.脳の下垂(頭部MRI)
5.脊髄髄膜憩室(脊髄MRI)
6.大脳円蓋部の集積遅延及び早期膀胱集積(RI脳槽造影)
 前提基準1項目と大基準1項目以上(又は小基準3項目以上)で低髄液圧症候群と診断する。

 これに対し、篠永医師らによるガイドライン2007年の骨子は、頭部MRI所見及びMRミエログラフィー所見は参考所見とし、RI脳槽シンチグラフィーを最も信頼性の高い画像診断法と位置付け、以下のうちの1項目を満たせば、髄液減少症と診断できるとする。
①早期膀胱内RI集積(注入3時間以内に、頭蓋円盤部までRIが認められず膀胱内RIが描出される)
②髄液漏れ像(クモ膜下腔外にRIが描出される)
③脳脊髄液RI残存率(24時間以内に30%以下)

 なお、篠永医師らは、RI脳槽シンチグラフィーの所見をA群(明瞭な髄液漏出像)、B群(わずかな髄液漏出像)、C群(3時間以内の膀胱内のRI集積のみ)及びD群の4群に分け、AないしC群を髄液漏出とし、D群を正常とするものである。(甲419、乙4-資料E)

 以上のとおり、低髄液圧症候群、あるいは外傷性の脳脊髄液減少症の病態及びその発症機序については、未だ医学界全体において十分にコンセンサスが得られていない状況にあるとしても、むしろ現時点においては、外傷によって脳脊髄液減少症が発症すること自体は認められつつあり、厚生労働省も、平成22年4月12日に脳脊髄減少症ついての各種検査は保険適用になる旨の見解を示し、同症の診断基準を作成するための研究を継続する旨を明らかにしている(甲435)。

 また、発症機序についても、医学的に厳密な意味での証明はなされていないものの、篠永医師ら脳神経外科医の間では、外傷時に脳脊髄液圧が著しく上昇することにより、重力の関係で腰椎神経根部での硬膜の断端においてクモ膜が裂け髄液が漏出し、この状態の持続により髄液量の減少が生じる結果様々な症状が出現し、特に起立性頭痛は、硬膜下腔が拡大し、架橋静脈が伸展することにより痛覚神経が刺激されることによって生じるものであるとの説明がなされており(甲426)、このような説明には一応の合理性が認められ、少なくとも医学的な正当性を著しく欠くものとはいえない。

 そして、篠永医師らの診断基準であるガイドライン2007が医学的に厳密な意味での脳脊髄液現諸省の一般的診断基準として妥当であるかどうかはひとまず措くとしても、前記認定の事実からすれば、控訴人の症状は、日本神経外傷学会の前記診断基準に当てはめても、起立性の強い頭痛が本件事故直後から発生しているのであるから、少なくとも「前提基準1.」に該当し、また、髄液の漏出が少なくとも3種類の客観的方法によって確認されているのであるから、「大基準2.」にも該当するものと考えられ、したがって、この新たな診断基準によっても、十分に低髄液圧症候群(SIH)と診断されるものということができ、しかも、控訴人は、SIHの確立された治療方法であり、かつ、診断基準ともされている1回目のブラッドパッチ治療により初めて頭痛が大きく軽減し、画像所見としても髄液漏出の消失が確認されており、3回のブラッドパッチ治療により完治していることからすれば、控訴人の疾病が脳脊髄液減少症であることは明らかというべきである。

 確かに、控訴人の頭痛は1回のブラッドパッチ治療だけで完治してはいないが、ブラッドパッチ治療の度に症状が改善されているのみならず、ブラッドパッチは、髄液の漏出部位が特定されていれば即効果を生じるが、特定されていない場合には必ずしもそうでないこと、硬膜に空いた穴の血液注入による自然修復が完成する前に血液が注入されると髄液漏れは再発するが、長期的には穴の周辺の吸収機構を含めて硬膜外の組織に癒着性の変化が生じ、漏出部位を含めて閉鎖され髄液漏れが止まるとされているものであること(乙4-資料E吉本智信論文)からすれば、本件におけるように1回のブラッドパッチでは完治に至らなかった経過が不自然で説明のつかないものであるとはいい難い。

 なお、確かに、控訴人は、篠永医師から完治を告げられた後も、しばらくの間は、雨天の日などに頭痛や不眠の症状が出ることはあったが、それこそ、長きにわたり頭痛や精神的不安等に苛まれる中で発生し残存していた心因性のものとも考えられるところであって、それも最終的には消滅しているのであるから、この点も不自然な経過とはいい難い。

以上:3,109文字

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