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裁判所鑑定心因性視力障害で素因減額が否定された例9

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平成22年11月 2日(火):初稿
(イ)また,Xが右眼の障害について詐病しているのであれば,そのようなことをする動機ないし理由,あるいは詐病であることをうかがわせるような言動等があってしかるべきと考えられるところであるが,本件においては,そのような点は全く見受けられない。 すなわち,上記認定のとおり,本件事故による受傷後,Xの右眼は大きく腫れ上がり,白目は充血し,目を開けられない状況が10日間ほど継続し,平成16年10月12日ころになってようやく右眼を開けられるようになったが,白目部分は真っ赤に充血したままで,右眼はかすんで見えない状況であった,Xは,素人考えで充血部分が引けば視力が回復すると考え,すぐには受診しなかったが,1週間程度経過して充血が引いても視力は回復しなかったため,さらに1週間経過した同月26日に至って×○病院眼科を受診した,その後Xは右目の回復を願い,平成17年4月1日までの間に合計12日間にわたり通院して治療を試みたがかなわなかったというのであって,これは真塾に回復を願う者の行動としてごく自然なものと考えられる。Xは本件事故当時,負債を抱えていたものではあるが,その前年ころから自らの努力により業績も回復し,苦境の際に協力を得た債権者や取引先への支払ないし返済を進めていた矢先に本件事故に遭ったものであって(甲19,X本人),それゆえ事故直後の入院の指示を拒否して勝手に退院ずらしているのである。本件事故後幾度となく現場復帰を試みながらかなわず,近時まで定職にも就けなかったという状況に鑑みても,かかる経緯を背負い,また高校卒業時から修練を重ねて続けてきた大工の仕事に強いこだわりと自負を有するXが,賠償金を求めて右目の障害の有無を偽るということはおよそ考え難い。

 被告らも引用する,本件鑑定書添付の「眼科プラクティス15 視野」280頁においては,詐病では視覚障害があることで何らかの利得が必ずあること,詐病と心因性視覚障害の鑑別に大切なのが診察時の患者態度であり,見えるようになりたいという意識の強い心因性視覚障害と,できるだけ早くかつ安く診断書を手に入れたいという詐病患者とでは受診態度が異なる旨の知見が示されているが,Xの場合,上記のとおり視覚障害による利益は何ら見あたらず,むしろ自身の存在意義ですらあったであろう大工の仕事を失うことになったという意味で損失しかないと考えられるし,診療録その他の一切の証拠を検討しても,診断書にこだわる等の不審な態度があったものとは全く認められないところである。Xはむしろ,本件訴訟提起後も直接の診察を拒否するどころか強く求めていたことはその訴訟態度に鑑みても明らかであるが,これは障害を偽る者の態度とは整合しない。障害を偽って保険金を請求するということは,それ自体がいわゆる保険金詐欺として,刑法上の詐欺罪を構成する可能性のある行為であるが,Xにかかる危険を冒してまで障害を偽る動機ないし理由も認められなければ,これをうかがわせる行動も認められないことは上記のとおりであって,むしろ真塾に回復を願って治療に努めたとの経緯は,Xの右目の障害の存在を裏付けるものである。

(ウ)さらに,被告らは,Xが本件事故後に免許の更新を行っている点をもって,詐病の可能性が否定できないとする。
 確かに,Xの右目が真に視力0.05以下であれば,少なくとも右目については免許更新時の視力検査に合格するとは考え難く,この点は障害の存在に疑念を抱かせうる事実のようにも思われる。

 しかし,Xは,平成19年7月20日の免許更新時において,すべての免許を更新したものではなく,大型一種免許については失効し,格下更新となっている(甲45の2)。Xの右目の障害が詐病であり,実際には視力は低下していないのであれば,大型一種免許についても更新していてしかるべきと考えられるところ,そうなっていないということは,少なくとも大型一種免許の更新がなし得ない程度の視力障害があること、したがってこれがただちにXの右目の障害の存在を否定する事情にはならないことを示している。加えて,このときのXの視力検査の結果は,右目0.3,左目0.5で合計0.7以上となるため合格となったとされている(甲45の2)が,これは診療録(甲21及び乙4)から明らかなとおり,Xの左目は本件事故時以降も一貫して1.2以上の正常な視力が認められていることと整合しない。そうすると,この視力検査の結果は信用することができないものといえ,左目の視野検査を行う手間を省くために調整したうえでの結果であるとのXの主張どおりの可能性をうかがわせるし,再検査において不正を行ったとのXの供述(甲37)も信用できるものであることを示すといえる。
 以上の点からすれば,平成19年7月20日の免許の更新の事実は,Xの右目の障害の存在を否定する事情にはなりえないものである。


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