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自賠責保険金の充当に関する二審判決

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平成22年 9月24日(金):初稿
○「自賠責保険金等の充当に関する一審判決」に紹介したとおり、この事件の一審判決では自賠責保険金のみならず、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金、厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金の各支払も損害金から充当されましたが、二審の平成15年12月17日東京高裁判決では、加害者側の主張が認められ、既払い金は全て損害金ではなく,交通事故発生時の元金に充当されました。

 その理由のポイントは、自賠責保険の損害賠償金や厚生年金保険法の遺族給付が損害を填補するものとされるのは、それらの支払や給付が、制度の趣旨からして、不法行為によって発生した損害(比喩的・経済的にいえばその元本)と同質性を有するものであるため、両者について損益相殺的な処理をすることが相当として、損害賠償債権は、このような処理を加えた後の真の損害額について成立するとしています。

 一審でX1に認められた約8242万円は二審では約6315万円に、一審でX2に認められた約2649万円が二審では約1982万円に減額されました。これは弁済充当方法だけでなく、社会保険給付の控除額がアップされたこともあるようです。

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主文 
一 原判決を次のとおり変更する。 
(1)控訴人らは、被控訴人X1に対し、各自6315万2043円及びうち600万円に対する平成11年2月24日から、うち5715万2043円に対する平成13年3月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員の支払をせよ。 
(2)控訴人らは、被控訴人X2に対し、各自1982万7897円及びうち150万円に対する平成11年2月24日から、うち1832万7897円に対する平成13年3月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員の支払をせよ。 
(3)被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。 
二 本件附帯控訴をいずれも棄却する。 
三 訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを5分し、その2を控訴人らの、その余を被控訴人らの各負担とする。 
四 この判決は、第1項(1)、(2)、第3項に限り仮に執行することができる。

(中略)

3 争点3(損害の填補)について
(1)自賠責保険からの支払について
 被控訴人らが平成13年2月28日本件事故に関する損害賠償として自賠責保険から3000万3800円の支払を受けたことは、当事者間に争いがない。文良の被った上記2(1)の損害は、これによって一部填補される。

(2)労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金について
ア 被控訴人蔡が、平成14年4月15日から平成15年4月15日までの間労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金として合計279万7033円の支給を受けたことは、当事者間に争いがない。この給付は、文良の被った逸失利益の損害を填補する関係にあると解される。

イ 被控訴人らは、上記アの損害填補に関する控訴人らの主張は時機に後れた攻撃防御方法であるから却下すべきである旨申し立てるところ、記録によれば、上記主張は、平成15年5月27日に原裁判所に提出された原審準備書面(8)に記載され、同準備書面は、原審第3回口頭弁論期日(同月29日)に陳述されたものであるが、同口頭弁論期日は、弁論準備手続期日が重ねられて同手続が終結された後に開かれ、弁論準備手続の結果を陳述するとともに原審口頭弁論を終結する予定とされていた期日であるから、上記主張は、求釈明に対する被控訴人らの応答を待ってされたものであることを考慮しても、確かに時機に後れて提出されたものというべきである。

 しかし、この主張の採否を決するために主張の整理や人証等の取調べの必要が生じ、訴訟の完結が遅延したとは認められないから、これを民事訴訟法157条1項により却下することはできない。
 また、もはや上記主張をすることはないと受け取られてもやむを得ないような意向の表明や態度が控訴人らにあったとはいえないので、上記主張を信義則に違反するものということもできない。

(3)厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金について
 被控訴人蔡が平成11年8月13日から平成15年4月15日までの間厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金として合計265万4,342円の支給を受けたことは、当事者間に争いがない。このうち、平成13年2月までの各月分として支給された金額は返納を要すると認められるから、同期間における給付をもって損害が填補されたとするのは相当でないが、その余(同年3月以降の各月分として支給された金額)の145万8,537円(調査嘱託の結果、弁論の全趣旨)は、文良の被った逸失利益の損害を填補する関係にあると解される。

 この損害填補に関する控訴人らの主張を、時機に後れたもの又は信義則に反するものとして却下することができないことは、上記(2)と同様である。

(4)填補後の文良の損害額
 そうすると、文良の被った上記2(1)の損害(1億0,757万0,960円)のうち、上記(1)ないし(3)の合計3,425万9,370円が填補されたので、文良は、控訴人ら各自に対する損害賠償債権を、残額7,331万1,590円の限度で取得したことになる。

(5) 被控訴人らの主張について
 被控訴人らは、上記の支払及び各給付は、法定充当の規定に従って被控訴人らの控訴人らに対する損害賠償債権に関する遅延損害金に充当されるべきであると主張するが、上記のように自賠責保険の損害賠償金や厚生年金保険法の遺族給付が損害を填補するものとされるのは、それらの支払や給付が、制度の趣旨からして、不法行為によって発生した損害(比喩的・経済的にいえばその元本)と同質性を有するものであるため、両者について損益相殺的な処理をすることが相当であるからである。

 そして、損害賠償債権は、このような処理を加えた後の真の損害額について成立するものと解されるのである。損益相殺的処理をする前の見かけの損害額において損害賠償債権が成立したとし、その債権が上記支払又は給付によって一部弁済されたとみるのは、上記の理を正解しないものであって、当を得ない。

 したがって、上記支払又は給付による損害の填補について、弁済充当に関する民法の規定を適用又は類推適用する余地はなく、上記支払又は給付によって損害賠償債権の成立の基礎となる損害額(元本額)は減少しないとする被控訴人らの主張は採用の限りでない。


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