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自賠責保険算定実務と司法手続では認定が異なって当然

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平成22年 5月15日(土):初稿
○「自動車保険料率算定会に対する慰謝料請求判例」で、「自賠責認定は、原則任意保険会社から提出された資料のみを前提にその範囲内で、保険会社から事前認定を依頼された事項についてのみ判断を行うもの、その認定に公平性の制度的担保はない」と記載していました。当事務所では、交通事故後、特にむち打ち症で、ひどい各種疼痛・しびれ等の神経症状に悩まされながら器質的損傷が無いとの理由だけで、後遺障害非該当或いはせいぜい14級しか認定されず少なくとも12級には該当すると主張して提訴している事案が多数あります。

○そのような事案で必ず主張する12級と14級の振り分け基準等についての一般論の主張をご紹介します。今後は、この一般論に、上記自賠責認定は、原則任意保険会社から提出された資料のみを前提にその範囲内で、保険会社から事前認定を依頼された事項についてのみ判断を行うもの、その認定に公平性の制度的担保はない」との主張も加えたいと思っております。

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1 12級と14級の振り分け基準について
 被告は、神経障害の12級と14級の振り分け基準について、青本22訂版313頁の記載を持って、障害の存在が、12級は「医学的に証明可能なもの」、14級は「医学的に説明可能なもの」との自賠責保険実務での基準を上げて、この基準が当然の如く主張する。
 確かに、自賠責保険実務は、大量案件の迅速処理の必要性があるためいきおい定型的・マニュアル的にならざるを得ずこの基準でやむを得ない面もある。

 しかし、この基準は、青本22訂版314頁3行目に記載しているとおり、あくまで「自賠責保険の実務」基準に過ぎず、到底、判例となっているものではない。次項で述べるとおり、自賠責判断と司法判断は異なって当然であり、被告の主張はその前提で先ず誤っている。

 さらに付け加えて、交通事故訴訟実務の第一人者高野真人弁護士の日本評論社「新・現代損害賠償法講座」第5巻138頁以下の「後遺障害の評価方法と現行実務の問題点」と題する論文を紹介する(甲○)。
 同弁護士は、鞭打ち症等神経症状に関する交通事故傷害損害賠償請求事件判例を詳細に調査した上で、同論文の中で、上記基準はあくまで支払者側の主張であり、裁判例においては、必ずしも支払者側の考え方に立っていないものも多いと断定している(同論文157頁)。

 そして「訴訟においては、このような制限(※自賠責保険実務診断要件)はないのであるから、カルテの取り寄せ、診療医の証言、鑑定人の意見等により治療経過や症状の原因などを仔細に認定し、また、本人の供述や動作などを直接見ることによって被害者の症状の詳細を認識できるのであるから、これらによって、事故による症状が残存していると判断できれば、他覚所見云々を論ずることに拘泥する必要はない。」、「裁判所が証拠資料から,事故により神経の障害が発生しそれが被害者に種々の症状を発生させていると認定でき、かつ、それが医学的見地から裏付けられるのであれば12級を認定して何ら差し支えない。」、「こと精神・神経系統の障害については、そうでない(※障害認定基準にそった認定ではないと言う意味)例も相当数ある。現行障害等級自体に『他覚所見』などの要件は規定されていないのだから、理論的にはなんら問題がない」と述べており、その理由は次項で詳しく述べる。

2 自賠責判断と司法判断は異なって当然
 自賠責保険実務では、器質的損傷がなく、他覚的所見もないとどんなに痛みやしびれ等の厳しい神経症状が長く続いても、良くて14級止まりで殆どが後遺障害非該当とされ、まして12級に認定されることはない。これは、基本的に自賠責保険実務は「構造上の異常原因説」に立っているからである。
 この自賠責保険実務は、日々発生する交通事故の大量の賠償請求案件を迅速に処理する必要があり、その判定基準を器質的損傷による他覚的所見とすることがやむを得ない面もある。

 しかし、本件は自賠責実務判断ではなく、具体的個別的に損害の公平な救済を図るべき司法判断実務であり、ここでは慎重且つ柔軟に判断すべきである。また本件訴訟で求められるのは、厳密な意味での医学的因果関係ではなく法的因果関係である。訴訟において究明すべき因果関係は、自賠責保険実務の如く形式的・硬直的判断ではない。訴訟における因果関係は、何より損害の公平な分配という不法行為法の目的に叶った適切な事案処理に基づく法的因果関係である。裁判所において柔軟で具体的に妥当な判断が求められるものであり、機械的画一的杓子定規的判断を旨とする自賠責判断或いは共済或いは保険会社主張と異なって当然である。

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