平成22年 3月12日(金):初稿 |
○交通事故による傷害を切っ掛けとして非器質性精神障害が発症し,その損害賠償を求める裁判例は多々あります。この裁判例について整理した貴重な文献が、平成21年10月14日北澤龍也弁護士を講師とした研究会が開催され、その報告を財産法人日弁連交通事故相談センター交通事故相談ニュース24号に中村直裕弁護士がまとめた「非器質性精神障害に関連する基礎知識と裁判例の概観」があります。これは大変良く整理されており、交通事故による非器質性精神障害についての損害賠償訴訟には必須の文献です。 ○以下、上記報告「非器質性精神障害に関連する民事交通裁判例の概観」に関する私の備忘録です。 ・非器質性精神障害に関連する裁判上の紛争類型 A 神経症状主体タイプ 頭痛・頚部痛等各種疼痛、しびれ、眩暈、視覚・聴覚障害等の愁訴があるが、身体的異常がなく神経症による症状と判断されるもの、むち打ち症による障害の多いタイプです。 B 事故に関連するストレスによる精神症状発症タイプ(Cタイプを除く) 抑うつ状態、不安状態等非器質性精神障害に関連する精神症状が前面に出るタイプで、うつ状態等から自殺に至るタイプも含まれます。自殺の場合、自殺と事故との因果関係が争点になり、後遺障害と事故との因果関係と類似した認定が行われます。 C 精神症状発生原因をPTSD(心的外傷後ストレス障害)とするタイプ 本来Bタイプですが、非器質性精神障害に関連する精神症状の発症と事故との因果関係と言う形ではなく、PTSDの診断基準に該当するか否か、あるいはPTSDい該当するかどうかと言う形で争われるケースが多く、独立の類型とされました。 D 身体機能に重大な障害が出ているタイプ 両下肢運動麻痺、半身麻痺、歩行困難などの重度の障害や視力・視野障害などが生じているものの器質的異常が発見出来ないタイプで、てんかん性ヒステリーに関連して身体機能に明確な障害が出るタイプです。裁判では、機能障害の原因として頭部外傷に伴う脳の器質的損傷、脊髄損傷などが主張され、その有無が争点とされることもあります。 E 内因性の精神障害が発症・再発・増悪するタイプ 統合失調症(精神分裂病)など内因性の精神疾患が事故によって発症・再発・増悪したか否かが争われるタイプで、このタイプは因果関係が厳密に判断されている事例が多いそうです。 F 器質的異常を確認出来ない高次脳機能障害主張のタイプ 器質的損傷が明確でなくても高次脳機能障害による精神障害を主張する類型。 通常、高次脳機能障害とは交通事故外傷に伴う脳の器質的損傷がある場合に高次脳機能障害が認定されます。 ○当事務所では、自賠責の認定では事故による傷害での器質的損傷は治癒したとされても、各種疼痛、しびれ、眩暈等の厳しい神経症状を訴え、後遺障害非該当あるいはせいぜい14級しか認定されず、少なくとも12級以上であると争っている事案が相当あります。勿論、器質的損傷が残存していると主張をしていますが、自賠責の器質的損傷の認定は相当厳しいものがあります。 ○「加茂淳整形外科医著作-生理機能のトラブル」で、「頸痛、腰痛、肩痛、膝痛や手足のしびれといった筋骨格系の痛みの正体は、『生理的トラブル』であり、ヘルニアや脊柱管狭窄症や腰椎すべり症等の構造異常のためではない。」との加茂医師の説明を紹介しましたが、自賠責で器質的損傷を否認された当事務所を訪れる交通事故被害者の方々を見ると、この加茂医師の説明が当を得ていると確信しており、この考えを裁判官にも是非判って貰いたいと念願しているところです。 以上:1,464文字
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