平成22年 3月11日(木):初稿 |
○交通事故で脳挫傷等脳に物理的ダメージを受け脳自体に器質的損傷が発生し、その結果、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害等が発生した場合、高次脳機能障害として後遺障害が認定されれば交通事故との因果関係もさほど問題なく認められます。 ○これに対し、交通事故によって脳自体にダメージは受けなかったものの、交通事故にあったことの衝撃、将来への不安、示談交渉の難航等で悩み異常な精神状態が発生した場合、脳の器質的損傷(器質的変化)を伴わない精神障害であるため非器質的精神障害と呼ばれます。この非器質的精神障害については、その発生機序が、交通事故による脳への直接的・物理的ダメージによるものではなく、心的要員によって形成されること、また、精神医学的治療で治癒する可能性もあるため、その後遺障害としての程度・等級と更に交通事故との因果関係の判定が大変難しくなります。 ○非器質性精神障害に関連する精神症状は、 抑うつ状態(抑うつ気分、思考・行動の停止)、 不安の状態(恐怖、強迫、心気症)、 意欲低下(関心・自発性の低下)、 慢性化した幻覚・妄想症の状態(幻覚妄想)、 記憶または知的能力の障害(記憶・追想障害、仮性痴呆) 等があります。 ○非器質性精神障害の精神疾患診断はICD-10(国際疾病分類第10版)第Ⅴ章「精神及び行動の障害」分類に該当する診断がなされていることが必要です。具体的には ・F20-F29 統合失調症,統合失調症型障害及び妄想性障害 F20 統合失調症 F21 統合失調症型障害 F22 持続性妄想性障害 F23 急性一過性精神病性障害 F24 感応性妄想性障害 F25 統合失調感情障害 ・F30-F39 気分[感情]障害 F30 躁病エピソード F31 双極性感情障害<躁うつ病> F32 うつ病エピソード F33 反復性うつ病性障害 F34 持続性気分[感情]障害 F38 その他の気分[感情]障害 F39 詳細不明の気分[感情]障害 ・F40-F48 神経症性障害,ストレス関連障害及び身体表現性障害 F40 恐怖症性不安障害 F41 その他の不安障害 F42 強迫性障害<強迫神経症> F43 重度ストレスへの反応及び適応障害 F44 解離性[転換性]障害 F45 身体表現性障害 F48 その他の神経症性障害 等です。 ○交通事故による脳への直接傷害のない非器質性精神障害について加害者に対し損害賠償請求する上では以下の点が問題になります。 ①事故と発症した非器質性精神障害との間の因果関係 自賠責保険では先ず因果関係が認められることは殆どないと思われます。 ②非器質性精神障害による後遺障害の程度(等級)と労働能力喪失期間 労働能力喪失率の認定が困難で且つ精神医学治療による治癒の可能性があるためその労働能力喪失期間も問題になります。 ③本人の精神脆弱性等素因減額 交通事故を原因として非器質性精神障害に罹患する割合は極めて少なく本人の精神脆弱性等素因が問題になりどれだけ減額すべきかが困難な問題になります。 以上:1,267文字
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