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平成21年 3月 4日(水):初稿 |
○交通事故による傷害の損害賠償問題で最も難しいものの一つが頸椎捻挫(従来、むち打ち症と呼ばれてきた症状)に起因する頭部痛、頚部痛等各種疼痛、しびれ、めまい等の各種症状についての原因究明です。その原因の一つとして従前の低髄液圧症候群との診断された病態の範囲を、脳脊髄液減少症という診断名でより広くとらえようとする新たな学説が登場し、この脳脊髄液減少症の存在と交通事故による傷害との因果関係を認めて話題になったのが「H17.2.22福岡地裁行橋支部脳脊髄液減少症初認容判決1」で紹介した岡口判決です。 ○これに対し加害者側が控訴し、更に被害者側も付帯控訴した福岡高裁の平成19年2月13日判決(判例タイムズ1233号141頁、判例時報1972号90頁)では、脳脊髄液減少症の存在自体は否定されました。医学界において篠永医師提案脳脊髄液減少症の認定基準が曖昧で科学的根拠に乏しいとの強い批判がなされており、この医学論争も加味して事案を詳細に精査した結果、脳脊髄液減少症と言う診断名での交通事故との因果関係は否認されました。 ○しかし被害者に存在する頸椎捻挫としての各種症状の存在と交通事故との因果関係は認めて詳細に損害を認定しており、その判断は,今後、交通事故による頸椎捻挫受傷後の各種症状を原因とする損害賠償請求に当たっては極めて重要な示唆に富む判例であり、私なりに勉強して行きます。 ○便宜上、H17.2.22福岡地裁行橋支部脳脊髄液減少症初認容判決を認容判決、H19.2.13福岡高裁脳脊髄液減少症否定判決を否定判決と呼んで説明します。 まず被害者の金1040万円の請求に対し、認容判決が認めた損害賠償額は金465万円で、訴訟費用負担は加害者側が9分の4、被害者側9分の5と被害者側の負担部分が大きいものでした。 この判決に対し、否定判決は脳脊髄液減少症の存在を否定して加害者側の主張が認められた如く宣伝する評価もありますが、実際は否定判決においても被害者の金1039万円の請求に対し、否定判決が認めた損害賠償額は金430万円で訴訟費用負担は、被害者・加害者側共に2分の1で、被害者の負担部分が少々減額され、この点では被害者が有利になっています。 ○否定判決では被害者の主張が認められなかった如く言う解説もありますが、認容判決金465万円が僅か30万円削られて460万円になっただけで、注目すべきは訴訟費用については加害者側負担が9分の4から2分の1に増えていることで、実質的には被害者の主張が相当程度認められています。 ○交通事故による頸椎捻挫受傷後の症状について脳脊髄液減少症と言う名称が一人歩きしてこれを認めるかどうかが争点の如く言われていますが、ポイントは、頸椎捻挫受傷後の各種症状の存在とその交通事故による受傷との因果関係であり、この因果関係判断に当たって脳脊髄液減少症と言う診断名が適当かどうかの問題です。否認判決でも頸椎捻挫受傷後の各種症状の存在とその交通事故による受傷との因果関係は基本的に認められており、実質的には被害者側敗訴と評価される結果ではありませんでした。 以上:1,278文字
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