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平成21年 3月 3日(火):初稿 |
第3 当裁判所の判断 1 争点(1)について (1) 本件事故の状況についての当事者の供述等 証拠(甲8、乙1ないし4、原告本人、被告B本人)によると、以下の事実が認められる。 ア 本件事故は、深夜である午前0時40分ころ、国道10号線上で発生したものであるが、本件事故直後、原告及び被告乙山次郎は、事故の程度などについて言い争いとなったことから、2人で、派出所に行き、原告は、被告車両に追突された旨本件事故を届けた。 イ 原告は、本件事故の状況について、追突された衝撃があり、後ろから上半身全体を押されるような感じで、身体が前後に振られたこと、衝突後に原告車両がはじき出されて車両間の間隔が40㌢㍍程度開いたことなどを供述し又は供述書に記載している。 ウ 一方、被告乙山次郎は、本件事故の状況について、原告車両が赤信号で停車したのに続いて、その2.4㍍程度後ろに被告車両を停車させたが、足がブレーキペダルから外れて被告車両が前進し、これに気づき慌ててブレーキを踏んだこと、被告車両は原告車両に追突しておらず、原告車両から7ないし8㎝程度後方で停止したこと、追突の衝撃はなく、衝突音もなかったことを供述し、又は陳述書に記載している。 エ 本件事故の5日後である平成15年2月13日に、原告及び被告乙山次郎の立会により実況見分が行われたが、実況見分調書には、原告車両が赤信号で停車していたのに続いて、その2.4m程後ろに被告車両が停車したこと、原告車両と被告車両が衝突したことなどが記載された。 オ 被告車両の前部に衝突痕があったことや、被告らが被告車両を修理したことを認める証拠はない。原告車両については、後部にキズがあるとの写真が被告から提出されているが、この写真から、キズの程度等は必ずしも明らかではない。原告は、原告車両にキズがあったことやこの写真が修理後の写真であることを供述書に記載している。 以上によると、本件事故については、原被告車両の物損の程度は証拠上明確ではなく、また、本件事故の目撃者の供述等がなく、追突に至る経緯については被告乙山次郎の供述しか証拠がないこと、追突の有無や程度についての当事者の供述が相当程度食い違っていることが認められる。 (2) 本件事故後の原告の状況について ア 原告は、本件事故の翌日である平成15年2月9日に首や背中の痛みが現れ、その翌日に痛みが猛烈に激しくなったことを供述し又は供述書に記載している。(甲8、原告本人)。 イ 原告は、同月10日から、同年3月17日まで、T病院に通院し、頸椎捻挫、左肩打撲及び胸部打撲と診断され、同月13日には、約7日間の安静加療を要すると思われるとの診断がされたが、神経学的所見は認められず、MRI所見でも器質的異常は確認されなかった。不定愁訴が多く見られたため、対症的にリハビリ加療が続けられた(甲71、73、送付嘱託の結果)。 原告は、このころ、吐き気、嘔吐及び首や背中の激しい痛みがあったと供述している(原告本人)。 原告は、同年2月12日、Sクリニックに1日だけ通院し、頸部捻挫と診断された(甲72)。 ウ 原告は、同年3月24日から、自宅に近いR医院に通院するようになり、 頸椎捻挫と診断されたが、低髄液圧症候群の可能性が考えられるとして、Q病院に転医となった(甲74ないし76、80、弁論の全趣旨)。 エ 原告は、同年4月16日からQ病院に入通院し、低髄液圧症候群、外傷性脊椎髄液漏などと診断され、診断書には、本件事故以降、頸部や頭部に疼痛等の症状が出ていると記載された(甲3.17.78)。 オ 原告は、同年8月25日から、頸椎の専門医であるP医院に通院している(甲11、弁論の全趣旨)。 カ 原告は、同年9月26日から、腎性浮腫のためO病院に入通院し、低髄液圧症候群の症状である自律神経症状に由来する尿量の減少、浮腫及び体重増加の治療のため、通院を継続した(甲81、弁論の全趣旨)。このころ、原告は、低髄液圧症候群の諸症状が出現し、ごく普通の日常生活を継続することは困難な状況であった(甲81)。 キ 原告は、同年10月26日、R医院においても、外傷性脊椎髄液漏、低髄液圧症候群と診断された(甲79)。 ク 原告は、これ以外にも、P医院の紹介によりGカイロプラクティック、及びHカイロプラクティックに通院した他、漢方の治療を受けるためI病院に通院し、他にも、J鍼灸院、K治療院などに通院し、現在も通院治療を継続している(原告本人、弁論の全趣旨)。 ケ 原告は、現在でも、後頸部背部痛、頭痛、下肢の冷感、嘔吐、顔と下肢の腫れ及び眼の痛みと眩しさなどの症状があり、日常生活や労働に支障がある(甲80)。 コ なお、本件事故以前に、原告が、頸椎捻挫あるいは低髄液圧症候群及び脊椎髄液漏の病名で通院治療をしていたことを認める証拠はない。 (3) 本件事故と原告の傷病との因果関係についての医師の見解について ア Q病院の医師である丙川三郎は、本件事故と原告の傷病との因果関係が認められるとし、その理由として、頸部痛、頭痛、下肢のしびれ、吐き気、背中の痛み、顔、手足のむくみ等の原告の症状が本件事故以降に出現し、かつ、本件事故以前には認められないこと、その他の外傷もないこと、頸椎捻挫と併発した低髄液圧症候群は、停車中の追突事故による例が多数をしめていることなどを挙げる(書面尋問の結果)。 イ 上記P医院の医師である丁海四郎は、原告の傷病である外傷性頸部症候群、腰背部挫傷及び低髄液圧症候群の発症と、本件事故との間の因果関係が認められるとし、その理由として、頸椎や骨盤の調整によって、主訴に相当な改善がみられたことを上げている(甲11)。 ウ 一方、医師戊田太郎であるは、本件事故で頸椎捻挫を発症することはありえないとし、その理由として、現在の自動車が柔構造で、しかも、被告車両にはクッション材があることから、40㌢㍍押し出される程度の追突では、頸椎捻挫は起こりえないことを挙げ、また、原告の傷病である低髄液圧症候群については、内因性によっても発症するものであるから、外傷性であるとは断定できないことなどを意見書に記載している(乙6、8)。 (4) 低髄液圧症候群に関する医学的知見について ア 医師である巳野次郎は、軽微な外傷後に低髄液圧症候群が発症した例として、トラックに追突された例、ゴルフスイングをした例、野球のスライディングに失敗した例を挙げるが、このうち、トラックに追突された例においては、事故後は頸部痛のみが生じていたものの、事故から4か月経過した後にて低髄液圧症候群の諸症状が発現したものである(甲5)。また、低髄液圧症候群の症状として、起立性頭痛、悪心、嘔吐、霧視、めまい、難聴、意識障害、倦怠感、集中力や記憶力の低下等を挙げる(甲5)。 イ 医師である庚山三郎及び辛川三郎は、外傷後に低髄液圧症候群が発症した例として、スノーボードで転倒した例、衝突事故に遭った例を挙げているが、低髄液圧症候群の症状が発現したのは、外傷から相当期間経過した後であり、前者は約1年後、後者は約6か月後に諸症状が発現している(甲63)。 ウ 医師である壬野次郎は、低髄液圧症候群が、外傷をきっかけに髄液量が減少し、髄液圧の低下をきたし、起立性頭痛、髄液圧の低下及びMRIによるびまん性硬膜肥厚造影を基本的に示すもので、髄液圧の低下は、髄液漏出により起こること、髄液漏出は、軽微な頭頸部及び脊柱外傷や何らかの負荷(ストレッチ運動、いきみ、咳嗽など)により発生するなどを論文に掲載している(甲66)。 エ 医師である癸山太郎は、低髄液圧症候群について、最も特徴的な症状が起立性頭痛であり、その他、嘔気、耳鳴り、めまいなどの症状もあること、むち打ち症と比べ、交通外傷による発症頻度ははるかに低く、受傷を考察すると、交通外傷による発症はないとはいえないが、極めて少ないとしている(乙7)。 オ Q病院の医師である丙川三郎は、低髄液圧症候群が交通事故によっても発症するとし、Q病院において、低髄液圧症候群の症例の内、交通事故が直接的発症原因であるものが約60%であること、頸椎捻挫と併発した低髄液圧症候群は、停車中の追突事故による例が多数を占めていることなどを供述している(書面尋問の結果)。 以上:3,407文字
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