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2022年12月16日発行第331号”弁護士の人間嫌い”

令和 4年12月17日(土):初稿
横浜パートナー法律事務所代表弁護士大山滋郎(おおやまじろう)先生が毎月2回発行しているニュースレター出来たてほやほやの令和4年12月16日発行第331号「”弁護士の人間嫌い」をお届けします。

○モリエールの「人間嫌い」という小説があることは知っていましたが、一度も読んだことがなく、その中身は全く知りませんでした。大山先生のニュースレターでポイントを教えて頂き、勉強になりました。中国・日本の古典から西洋文学まで幅広く深い教養に裏付けられた大山先生の話には含蓄があります。

○「人間嫌い」は、朴念仁とも言える頑固人間がお調子者の八方美人女性に恋い焦がれて、うまく行かず結局人間嫌いになっていく物語のようですが、谷沢永一先生の巧いウソの話しを思い出しました。「夫婦、友達、それぞれが、本当に腹の底のまた奥底に秘めている思いをすべてぶっちゃければ、ただそれだけで、家庭も交友も一瞬にして完全に崩壊する。」ので、人間関係円滑には「巧いウソ」が重要との話しです。

○私も「巧いウソ」がつける人間になりたいのですが、アルセストと似た生まれつきの朴念仁で、なかなか「巧いウソ」がつけません(^^;)。

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横浜弁護士会所属 大山滋郎弁護士作

”弁護士の人間嫌い


今年は「モリエール生誕400年」ということで、多くの劇が上演されました。私も「守銭奴」とか「スカパン」とか、いくつか観に行きましたが、特に「人間嫌い」が好きです。主人公のアルセストは、本人の前ではうまいことを言って褒めておきながら、陰では悪口を言うような表と裏がある人達のことが大嫌いです。そして自分は、裏表なく人に接するんですが、それによって、「人間嫌い」なっていく。

例えば、アルセストのもとに、自分の作った詩を見せに来る人がいます。自分では「本当につまらない詩です」「是非とも正直な感想をお聞かせいただきたい!」なんて言ってきますけど、詩を褒めて欲しい気持ちがあるのは明らかですよね。一言褒めさえすれば、相手も喜ぶし、円滑な人間関係が築けます。褒めた後で、仲間内では「さすがにあの「詩」は無いよな。ププッ」なんて笑いあうのも楽しいものです。おいおい。。。

ところが主人公は、こういうことを、心底軽蔑しており、自分でも絶対に出来ない。「私には何とも言えません」と最初は黙秘をします。しかしどうしても「正直に言って欲しい。どんな意見でも受け入れます」みたいに言われると、本当に「正直」に、その「詩」をボロクソに貶すんです。そしてさらに、「あなたは立派な方だということは認めましょう。それで十分ではないですか。なぜ詩人になろうなどと思うのですか?」なんて嫌味なことまで言います。ここまで言うと、人間関係が完全に壊れてしまいますね。

しかし考えてみますと、こういう「人間嫌い」な弁護士、かなり沢山いるように思います。お客様対応が、しっかりとできないんです。お客様の中には、色々と法律のことを調べてきて、自分の考えを述べる人もいます。中には本当に参考になることもありますが、かなりピントがずれたことを言ってくる人もいます。

コミュニケーション能力の高い弁護士なら、「なるほど。それは良い考えですね」と褒めておきながら、少しずつ間違いを修正していくわけです。しかし、弁護士の中には、「法律」には詳しくても、「人間」が嫌いな人がいます。ある意味優秀な人たちですが、顧客対応はできない。そういう弁護士ですと、お客様に対して、「それは法的に全く間違っている」なんて平気で言ってしまいます。

「人間嫌い」に戻りますと、そんなアルセストが、ある女性に恋をします。ところが、その女性は、多くの男性に対して、本人の前では褒めて好意を伝える一方で、他の男性の前ではその人をこき下ろすような人です。自分が嫌っている典型のような女性に恋した主人公が、表裏のある人間は許せないという理性と、恋心という「感情」のあいだで、どうなっていくのかを演じる、「人間喜劇」です。

名作と言われているだけあって、400年後の現代に観ても、とても面白い。こういった、「理性」と「感情」の対立は、弁護士の仕事でもよく経験します。「理性は感情の奴隷」だそうですが、理性では、「ここで引いた方が得だ」と十分に理解しているが、感情が追い付かないなんてことはよくあります。お客様の言い分でも、法律を離れて考えると、「確かにもっともだ!」と思えることもあります。それだけに、「たとえ負けるにしても、最後まで戦いたい」なんて思いのお客様は相当数いるのです。

こういう人に対しては、ある意味困ったなと思う一方、魅力的な人だと感じる場合も多いのです。「人間嫌い」のアルセストも、「困った人」でしたが、とても魅力的な人でした。ちなみに後世の作家が、「人間嫌い」の続編を書いています。アルセストは、とても愛想の良い人になった代わりに、平凡で俗っぽい、魅力のない人になってしまったという話でした。

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◇ 弁護士より一言

ニュースレターを作ると、まずは妻に見て貰います。正直なコメントは欲しいのですが、実際に妻から修正点の指摘を受けると、私の機嫌が悪くなるそうで す。「それならもう何も指摘できない」と妻に言われます。自分ではそんなつもりはないのですが、本当に情けない。自分がこんなに褒めて欲しいのだから、私も来年は、他人をもっと褒めようと決意したのです。
以上:2,283文字

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