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火災による損害について火災保険金の損益相殺を否認した最高裁裁判決紹介

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令和 7年 1月 9日(木):初稿
○「火災による損害について火災保険金の損益相殺を認めた高裁判決紹介」の続きで、その上告審昭和50年1月31日最高裁判決(判時769号43頁、判タ319号129頁)を紹介します。

○上告人が、被上告人が上告人から賃借していた本件建物が被上告人の被用者の重過失による失火によって焼失したとして、被上告人に対し、使用者責任または賃貸借契約上の債務不履行に基づく損害賠償を求め、被上告人が、上告人の損害は火災保険金の受領によりすでに填補されたなどとして、損害賠償債務に充当された敷金の返還を求めた事案

○最高裁判決は、家屋消失による損害につき火災保険契約に基づいて被保険者たる家屋所有者に納付される保険金は、すでに払い込んだ保険料の対価たる性質を有し、たまたまその損害について第三者が所有者に対し不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償義務を負う場合においても、右損害賠償額の算定に際し、いわゆる損益相殺として控除されるべき利益にはあたらないとして、これと異なる原判決を破棄し、第一審判決を取り消しました。

○生命侵害や財産権侵害で保険契約に基づいて支払われる保険金は、加害行為あるいは債務不履行とは別個の原因によるものであり、損益相殺の理論による控除の対象とはならないとするのが通説です(於保・債権総論133頁、我妻ほか・判例コンメンタール事務管理・不当利得、不法行為234頁、大森・保険契約法の研究207頁)。

○昭和39年9月25日最高裁判決(民集18巻7号1528頁)は、生命保険金受領の場合につき、「生命保険契約に基づいて給付される保険金は、すでに払い込んだ保険料の対価の性質を有し、もともと不法行為の原因と関係なく支払われるべきものであるから、たまたま本件事故のように不法行為による損害賠償額から控除すべきいわれはない」としました。この最高裁判決が生命保険契約について説示するところは、損害保険契約についてもそのまま妥当するとされ、昭和51年1月31日最高裁判決も、この理を明らかにしたと説明されています。

○保険契約の受益者であり被害者である者は、もともと保険契約に基づく保険金請求権と第三者に対する損害賠償請求権との双方を重複して保有し、行使することができるはずです。生命保険については正にそのとおりですが、損害保険の場合、いわゆる保険者の代位の制度により、保険者は、保険金を支払つた限度で、被保険者の第三者に対する損害賠償債権を取得します。その結果、被害者はその限度で第三者に対する損害賠償債権を失うことになり、被害者が第三者に対して賠償請求しうる額は、支払われた保険金の額だけ控除され、減額されることとなるにすぎません。

○損害保険契約については、保険者は被保険者が現実に被つた損害の範囲内で保険金を支払えば足りるという損害保険特有の原則によつて、保険金支払の前に被保険者が第三者から損害の賠償を受けたときは、保険者はその支払うべき保険金をこれに応じて減額することができるとされています(大森・前掲216頁)。

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主   文
被上告人の請求中、金404万円及びこれに対する昭和38年4月22日から支払ずみに至るまで年5分の割合による金員の支払を認容した部分につき、原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
前項の部分に関する被上告人の請求を棄却する。
上告人のその余の部分に対する上告を棄却する。
訴訟の総費用は第1、2、3審を通じてこれを3分し、その1を被上告人の、その余を上告人の各負担とする。

理   由
上告代理人○○○○の上告理由第一点について。

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)挙示の証拠に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第二点について。
 家屋焼失による損害につき火災保険契約に基づいて被保険者たる家屋所有者に納付される保険金は、既に払い込んだ保険料の対価たる性質を有し、たまたまその損害について第三者が所有者に対し不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償義務を負う場合においても、右損害賠償額の算定に際し、いわゆる損益相殺として控除されるべき利益にはあたらないと解するのが、相当である。

ただ、保険金を支払つた保険者は、商法662条所定の保険者の代位の制度により、その支払つた保険金の限度において被保険者が第三者に対して有する損害賠償請求権を取得する結果、被保険者たる所有者は保険者から支払を受けた保険金の限度で第三者に対する損害賠償請求権を失い、その第三者に対して請求することのできる賠償額が支払われた保険金の額だけ減少することとなるにすぎない。

また、保険金が支払われるまでに所有者が第三者から損害の賠償を受けた場合に保険者が支払うべき保険金をこれに応じて減額することができるのは、保険者の支払う保険金は被保険者が現実に被つた損害の範囲内に限られるという損害保険特有の原則に基づく結果にほかならない。


 本件において原審の確定するところによれば、被上告人は上告人からその所有にかかる本件建物を賃借し、敷金600万円を差入れ,右建物においてパチンコ店を経営していたところ、その住込店員の重大な過失によつて本件建物を焼失し、上告人は右建物の焼失によつて合計846万円の損害を被つたこと、訴外富士火災海上保険株式会社は、上告人との間で締結した火災保険契約に基づき、保険金として650万円を上告人に支払つたことが、それぞれ認められる。

右事実によれば、被上告人は、上告人に対する本件建物返還義務の履行不能による損害賠償として、右建物の焼失により上告人が被つた846万円の損害を賠償する義務を負担するに至つたものであり、上告人が保険金として受領した650万円を、右損害賠償額の算定に際し、いわゆる損益相殺として控除すべきものでないことは、前記説示に照らし明らかであつて、本件建物賃貸借が目的物の滅失によつて終了した結果、敷金600万円は被上告人の上告人に対する右損害賠償債務に当然に充当され、損害賠償債務はうち600万円が右充当によつて消滅したことになる。

したがつて、上告人の被上告人に対する敷金返還債務は、右のとおり敷金の全額が充当されたこにとより消滅し、既に存在しないにもかかわらず、原審は、被上告人の上告人に対する損害賠償額の算定にあたつて、上告人が保険金として受領した650万円をいわゆる損益相殺として控除した結果、右賠償額は196万円であるとし、敷金のうち196万円のみが充当されるとして、上告人は残りの404万円を被上告人に返還すべき義務があるとしたものであつて、原判決には法令の解釈適用を誤つた違法があるといわざるをえず、右違法は原判決中この部分の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、右の部分につき、原判決は破棄を免れず、さらにこれと同旨の第一審判決は取消を免れない。この部分に関する被上告人の請求は棄却すべきものである。

しかし、訴外富士火災海上保険株式会社は、保険金を支払つたことによつて、右上告人の被上告人に対する損害賠償残債権246万円を取得したこともまた前記説示に照らして明らかであるから、上告人の被上告人に対する損害賠償請求を理由がないとして排斥した原判決は、その結論において正当であり、右の部分につき、論旨は結局採用することができず、この部分に対する上告は棄却すべきものである。
 よつて、民訴法408条一号、396条、386条、384条、96条、92条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 江里口清雄 裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一 裁判官 坂本吉勝 裁判官 高辻正己)
以上:3,201文字

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