令和 6年12月26日(木):初稿 |
○原告らの子であるP9が大学のテニスサークルの飲み会における飲酒が原因で死亡したことにつき、原告は同サークルに所属していた被告P1らに対して、P9が多量の飲酒が原因で死亡する危険のある状態に陥ったことを認識していたにもかかわらず救護を怠ったことが不法行為に当たるとして約5247万円の損害賠償請求をしました。 ○この請求について、飲み会に参加して多量の飲酒をした大学生が急性アルコール中毒により死亡したことについて、同飲み会には参加しておらず、飲み会終了後に同大学生を知人の下宿先に運び入れて帰宅するなどした一部の被告らに、排他的な保護の引き受けがあったとして救護義務違反を認めた上、P9に7割の過失相殺をして約1266万円の賠償を命じた令和5年3月31日大阪地裁判決(判タ1525号211頁)関連部分を紹介します。 ○P9は、午後7時頃から始まった本件飲み会において一気飲み等により多量の飲酒をし、午後8時頃には酔いつぶれ、周囲の呼び掛けにも応じなくなったとの事実関係で、大阪簡裁は被告P1ら5名についてそれぞれ罰金30万円の略式命令を発しています。 ○P9の一気飲みについて、P9自身の飲酒可能な量をも大きく超えたもので、飲酒態様も含め、分別を欠いた無謀なものと評価し、7割の過失相殺をしています。「”お酒とのつきあい方のトリセツ”紹介-1杯目30分かけること!」記載のとおり、例え仲間の飲み会でも、最初の1杯はじっくり時間をかけて飲むを心がけます。 ********************************************* 主 文 1 被告P1、被告P2、被告P3、被告P4、被告P5及び被告P6は、原告らそれぞれに対し、連帯して、1266万3172円及びこれに対する平成29年12月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告らの被告P1、被告P2、被告P3、被告P4、被告P5及び被告P6に対するその余の請求並びに被告P7及び被告P8に対する請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、原告らに生じた費用の8分の6と被告P1、被告P2、被告P3、被告P4、被告P5及び被告P6に生じた費用は、これを4分し、その3を原告らの負担とし、その余を同被告らの負担とし、原告らに生じたその余の費用と被告P7及び被告P8に生じた費用は、原告らの負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告らは、原告らそれぞれに対し、連帯して、5247万2957円及びこれに対する平成29年12月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、原告らの子であるP9(以下「P9」という。)が大学のテニスサークルの飲み会における飲酒が原因で死亡したことにつき、同サークルに所属していた被告らにおいて、P9が多量の飲酒が原因で死亡する危険のある状態に陥ったことを認識していたにもかかわらず救護を怠ったことが不法行為に当たるとして、原告らが、被告らに対し、不法行為又は共同不法行為に基づき、各5247万2957円及びこれに対する不法行為の後である平成29年12月12日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。 原告らは、被告らのほかに、〔1〕上記飲み会の参加者及び、〔2〕被告らの一部が通学していた大学を併せて被告として本件訴えを提起したところ、これらの当事者については、弁論が分離されている。 1 前提事実(証拠を掲記しない事実は、当事者間に争いがないか、弁論の全趣旨により容易に認められる。) (1)当事者等 ア P9 原告らの子であるP9(平成9年○○月○日生まれ)は、平成28年4月1日、近畿大学に入学し、同大学の非公認テニスサークルであるゲットジュネス(以下「本件サークル」という。)に所属していた。P9は、平成29年12月11日に開催された本件サークルの飲み会(以下「本件飲み会」という。)の当時、同大学の2年生であり、成人していた。 イ 被告ら 本件飲み会の当時、被告P1、被告P2、被告P3、被告P4、被告P5、被告P7及び被告P6は、近畿大学の2年生、被告P8は、大阪樟蔭女子大学の2年生であり、本件サークルに所属していた。 ウ 本件飲み会の参加者 P10、P11、P12、P13、P14、P15、P16、P17、P18及びP19(以下、併せて「P10ら」といい、個別には姓のみで表記する。)は、いずれも本件飲み会の参加者である。本件飲み会当時、P18及びP19は、近畿大学の2年生であり、そのほかの者は、同大学の3年生であった。 (2)本件飲み会の開催 本件飲み会は、平成29年12月11日(以下、年月の記載のない日付は平成29年12月のものを指す。)午後7時頃から、本件サークルにおける役職を3年生から引き継ぐ2年生であるP9、P18及びP19を激励することを目的として、GB’s CAFE AREA 4(以下「本件店舗」という。)において開催された。 (3)P18方へのP9の移動 P9は、本件飲み会において一気飲み等により多量の飲酒をしたため、11日午後8時頃には酔いつぶれ、周囲の呼び掛けにも応じなくなった。 被告らは、本件飲み会が終了する頃、本件店舗に赴いて、本件飲み会の後片付けなどをした。 被告P1、被告P2、被告P3及び被告P4(以下「被告P1ら4名」という。)は、同日午後10時30分頃、P18方にP9を運び入れた。 (4)P9の死亡(甲31、33) P9は、12日午前5時45分頃、P18によって、同人方において心肺停止状態であるところを発見され、救急搬送されたが、同日午後4時40分、急性アルコール中毒を原因とする蘇生後脳症により死亡した。 P9の解剖当時(13日午前9時45分から同日午前11時52分の間)の血中アルコール濃度は、1.98から3.68mg/mlであった。 (5)略式命令(甲2の1、2の2) 大阪区検察庁の検察官事務取扱検事は、令和元年11月5日、P10、P11、P12及びP13(以下「P10ら4名」という。)並びに被告P1、被告P2、被告P3、被告P4及び被告P5(以下「被告P1ら5名」という。)について、P9が本件飲み会における飲酒が原因で死亡したことに関し、過失致死罪で公訴を提起し、略式命令を請求し、大阪簡易裁判所は、同日、P10ら4名についてそれぞれ罰金50万円、被告P1ら5名についてそれぞれ罰金30万円の略式命令をした。 2 争点 本件の争点は、次のとおりである。 (1)被告らの救護義務違反の有無 (2)過失相殺 (3)損害額 (中略) 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 (中略) 2 争点(1)(被告らの救護義務違反の有無)について (1)被告P1ら5名について 被告P1ら5名は、はけさしとして、酔いつぶれた者を介抱することなどを目的として本件店舗を訪れているところ、前記認定事実(6)のとおり、P9は、被告P1ら5名が介抱を始めた時点で、長椅子に寝かされており、呼び掛けても全く反応がなく、床に移動させる際も、脱力しており体を動かすことはなく、体温が低下し、深いいびきをかいていた。そのため、被告P1ら5名は、P9が単に酔いつぶれて寝ているのではなく、急性アルコール中毒に陥っているのではないかと疑った。 もっとも、前記認定事実(7)及び(8)のとおり、被告P1ら5名では判断がつかなかったため、本件飲み会におけるP9の飲酒量や飲酒態様を知るP10ら4名に対し、救急隊の出動を要請すべきかにつき2度にわたって相談したところ、P10から、以前の経験からして寝ているだけであり大丈夫であるからP18方へ運び入れるよう言われた。被告P1ら5名は、P10の指示に従ったものの、前記認定事実(9)のとおり、P9は、被告P1ら4名によって運ばれている際、完全に脱力し、足を引きずられた状態であり、男子大学生4人が途中で複数回休憩しなければ運ぶことができないほど重く感じられた。 前記認定事実(9)のとおり、本件店舗からP18方まで冬の夜道を30分以上かけて歩いて移動し、アパートの3階まで屋外階段を上って運んでも、P9の意識が回復することはなかった。被告P5は、自らP9を運んでいないが、P9を運ぶ被告P1ら4名の後をついてP18方まで赴いているから、上記のようなP9の状態を認識していたと認められる。 そうすると、被告P1ら5名は、本件店舗にいた時点では、P10の打ち消し発言などによりP9が酒に酔って寝ているだけであると判断したとしても、遅くとも上記運び入れの時点では、P9について、本件店舗で疑ったとおり急性アルコール中毒に陥っており、単に寝ているのではなく意識障害が生じており、放置すれば死亡する危険のある状態であることを認識することができたといえる。そして、そのような状態のP9をP18方へ運び入れた場合、本件店舗内などとは異なって、P9の状態が第三者の目に触れることはなくなり、P9の状態を確認することができるのはP18方にいる者のみとなるから、P18方への運び入れによって、被告P1ら5名は、P9の保護を排他的に引受けたと認められる。 また、上記のとおり、本件店舗において救急隊の出動を要請すべきかについてP10ら4名に相談していたことからしても、救急隊の出動を要請することは容易に思いつく手段であったといえるから、被告P1ら5名は、P9の死亡という結果を回避するために、救急隊の出動を要請する義務を負っていたといえる。 それにもかかわらず、被告P1ら5名は、P9をP18方に運び入れると、救急隊の出動を要請することなくP18方を後にしたのであるから、救護義務違反が認められる。 (2)被告P7及び被告P8について 被告P7及び被告P8は、はけさしとして本件店舗を訪れ、被告P8は、前記認定事実(6)アのとおり、P9のもとに水を持って行き、同イのとおり、急性アルコール中毒の症状についてスマートフォンで検索し、被告P7は、同ウのとおり、P9の年齢を確認している。 しかし、前記認定事実(5)のとおり、被告P7及び被告P8は、P10らからP9の飲酒量などを知らされていなかった上、P10ら4名への相談の結果、P9が急性アルコール中毒であるとの判断はされなかった。被告P7及び被告P8において、P9をP18方に運び入れる旨の決定に関与したとは認められないし、P9をP18方に運び入れる際も、被告P7及び被告P8は同行しておらず、運び入れの最中や運び入れ後のP9の様子を知る機会はなかった。 以上によれば、被告P7及び被告P8において、P9が放置すれば死亡する危険のある状態であることを知りながら、その保護を排他的に引き受けたと認めるに足りないから、被告P7及び被告P8につき、救護義務違反があったとは認められない。 (3)被告P6について 被告P6は、はけさしとして本件店舗を訪れているものの、本件店舗において、P9の介抱をしたことや、P9をP18方に運び入れる旨の決定に関与したことを認めるに足りる証拠はない。 他方で、前記認定事実(9)とのおり、被告P6は、P9をP18方に運び入れる被告P1ら4名の後ろを被告P5とともについていき、前記認定事実(10)のとおり、P18方の屋外階段においてP9を運ぶのに加わり、P9をP18方に運び入れている。そうすると、被告P6においても、被告P1ら5名と同様に、P9の運び入れにより、放置すれば死亡する危険のある状態であったP9の保護を排他的に引き受けたと認められるから、救急隊の出動を要請する義務を負っていたといえる。 被告P6は、本件店舗において片付けに専念しており、P9が危険な状態に陥っていたことを認識していないと主張するが、P9の運び入れに関する上記のような被告P6の関与の態様からすれば、P9が完全に脱力しており、単に寝ているのではなく意識障害が生じており、放置すれば死亡する危険のある状態であることを認識することができたと認められる。被告P6の上記主張は、採用することができない。 被告P6は、被告P1ら5名と同様に、P9の死亡という結果を回避するために救急隊の出動を要請する義務を負っていたにもかかわらず、これをすることなく、P9をP18方に残して退去したのであるから、救護義務違反が認められる。 3 争点(2)(過失相殺)について P9は、本件飲み会当時、成人しており、飲酒するのも初めてであったとは認められないところ、飲酒が可能な量は人により異なるし、その時々の体調にも左右され得るから、自己の飲酒量を、自身の判断で管理すべきであったといえる。そうしたところ、P9が本件飲み会においてビールやウォッカを複数杯一気飲みしていたのは、前記認定事実(3)のとおりである。 本件飲み会におけるP9の飲酒量は、一般的な飲酒量を超えていたと評価することができるし、飲酒後のP9の状態から考えても、P9自身の飲酒可能な量をも大きく超えたものであり、飲酒態様も含め、分別を欠いた無謀なものであったといわざるを得ない。そうすると、本件飲み会において、コールを掛けるなど多量の飲酒を促す行為があったこと踏まえても、自ら上記のような飲酒をしたP9自身にも過失があったといえる。 そして、被告P1ら5名及び被告P6は、本件飲み会に参加しておらず、本件飲み会の終了時に上級生から呼ばれて本件店舗に赴き、P9の本件飲み会における飲酒量や飲酒態様を知らされることなくその介抱を委ねられ、他の学生の下宿先にP9を運ぶよう指示されて、これに応じたにすぎない立場であった。本件における以上のような事情を踏まえれば、P9の上記過失は被告P1ら5名及び被告P6の救護義務違反に係る過失に比べて大きいといわざるを得ないから、7割の過失相殺をするのが相当である。 (中略) 5 まとめ 原告らは、前記4(1)のP9の損害2466万6344円に係る損害賠償請求権を2分の1ずつ相続したため、各自の取得額は、1233万3172円となる。これに前記4(2)の原告ら各自の損害額を加えると、原告らの損害賠償請求権は、それぞれ1266万3172円となる。 第4 結論 以上によれば、原告らの請求は、被告P1ら5名及び被告P6に対し、各1266万3172円及びこれに対する平成29年12月12日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由がある。 よって、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第9民事部 裁判長裁判官 達野ゆき 裁判官 相澤千尋 裁判官 林村優雅 以上:6,053文字
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