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大学研究室講師の占有回収の訴えを認めた地裁判決紹介

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令和 6年12月12日(木):初稿
○判例時報令和6年12月11号に掲載された事案ですが、被告法人が運営する大学の専任講師として勤務していた原告が、被告法人から労働契約の期間満了による終了の通知を受けた後、被告法人の職員らが被告大学の研究室に残置していた原告所有の動産を原告に無断で撤去しました。

○そこで、原告は被告法人大学に対し
①本件研究室の占有権に基づく占有回収として、本件研究室の引渡し、②本件動産の占有権に基づく占有回収として、本件動産の引渡しを求め
被告らに対し
被告法人については、民法715条に基づき、被告Y2(大学学長)、被告Y3(大学事務局長)及び被告Y4(別件訴訟において被告法人の訴訟代理人を務めている弁護士)については、民法709条、719条に基づき、100万円の損害賠償金等の連帯支払を求めました。

○これに対し、原告は、労働契約の満了により専任教員としての地位を失ったものであるから、少なくともその明渡しを猶予された期日を経過した以後は、本件研究室の利用権原を失ったものといえるが、本件法人による本件動産の撤去行為等は、自力救済に当たり違法なものであると認められ、被告法人大学は、違法な本件動産の撤去行為等により原告に生じた損害につき、不法行為責任を負い、被告Y2、被告Y3及び被告Y4が、共謀又は共同実行により、上記被告法人の職員又は被告法人による不法行為に関与したことについての立証があるとはいえないところ、原告の請求は、本件動産の引渡請求及び本件損害賠償請求のうち、被告法人の不法行為に基づく損害賠償を求める限度で理由があるとして被告大学に5万円の支払を命じた令和4年1月18日大阪地裁判決(判時2606号○頁)関連部分を紹介します。

○原告が控訴し、控訴審では、学長・事務局長・代理人弁護士の責任が認められており、別コンテンツで紹介します。

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主   文
1 被告法人は、原告に対し、別紙動産目録記載の動産を引き渡せ(別紙略)。
2 被告法人は、原告に対し、5万円及びこれに対する令和3年3月29日から本判決確定の日まで(ただし、支払済みの日が本判決確定の日より前の場合は支払済みの日まで)年3分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、原告に生じた費用の10分の6及び被告法人に生じた費用の10分の9を被告法人の負担とし、原告に生じたその余の費用、被告法人に生じたその余の費用及びその余の被告らに生じた費用を原告の負担とする。
5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

1 被告法人は、原告に対し、別紙物件目録記載の建物部分を引き渡せ(別紙略)。
2 被告法人は、原告に対し、別紙動産目録記載の動産を引き渡せ(別紙略)。
3 被告らは、原告に対し、連帯して100万円及びこれに対する令和3年3月29日から本判決確定の日まで年3分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 原告は、被告法人との間で労働契約に基づき、被告法人が運営するQ1大学(以下「被告大学」という。)の専任講師として勤務していたが、被告法人から労働契約の期間満了による終了(いわゆる雇止め)の通知を受けた。

 本件は、原告が、被告法人による雇止め後、被告法人の職員らが被告大学の別紙物件目録記載の研究室(別紙図面1の「人間生活第14研究室」中の別紙図面2の「■研究室」。以下「本件研究室」という。)に残置していた原告所有の動産(以下「本件動産」という。)を原告に無断で撤去し、原告による本件研究室の占有を侵奪したことは違法であると主張して、(1)原告が被告法人に対し、〔1〕本件研究室の占有権に基づく占有回収として、本件研究室の引渡し、〔2〕本件動産の占有権に基づく占有回収として、本件動産の引渡しを求めるとともに、(2)原告が被告らに対し、被告法人については、民法715条に基づき、被告Y2、被告Y3及び被告Y4については、民法709条、719条に基づき、100万円及びこれに対する不法行為日である令和3年3月29日から本判決確定の日まで年3分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である(別紙略)。

1 前提事実(争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。以下、証拠番号につき、枝番を全て含む場合は枝番の記載を省略する。)

     (中略)

第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件動産の撤去時の原告による本件研究室の占有の有無)について
 前記前提事実、証拠(後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件動産を撤去した令和3年3月29日当時、被告法人(被告大学の職員)から貸与された本件研究室の鍵を管理しており、施錠した本件研究室内に原告所有の本件動産を置いていたこと(書証略)、本件法人(被告大学の職員)は、本件研究室内に原告所有の動産が残置されていることを認識し、その引取り及び本件研究室の鍵の返却を求めていたこと(書証略)が認められる。

また、原告は、令和2年4月3日以降、被告大学学長宛てに、本件研究室を使用する都度、使用目的を執行委員会又は組合活動等とした施設使用願いを提出して本件研究室を使用していたことが認められる(書証略)ものの、本件研究室は、原告が、本件労働契約の期間中に被告法人から、鍵の貸与を受けてその個人使用が許されていた場所であり、上記の占有態様からして、本件雇止め後、原告が被告法人に対し、本件研究室を明け渡したとは認められず、その占有を完全に失ったものとは認められない。

 以上によれば、原告は、本件動産を撤去した令和3年3月29日当時、本件研究室内に原告所有の本件動産を置いて本件研究室を占有していたものと認められる。また、上記の占有態様に照らし、原告が、同年4月12日以降、本件研究室の占有意思を失ったものとは認められない。

2 争点(2)(本件動産の撤去の違法性の有無)について
(1)私力の行使は、原則として法の禁止するところであるが、法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許されるものと解される(最高裁昭和40年12月7日第三小法廷判決・民集19巻9号2101頁参照)。

(2)これを本件についてみると、前提事実のとおり、原告は、平成31年3月31日の満了により本件雇止めをされ、本件労働契約に基づく被告大学の本件コースの専任教員としての地位を失ったものであるから、少なくともその明渡しを猶予された同年4月12日を経過した以後は、本件研究室の利用権原を失ったものといえる(本件において、原告は、本件雇止め後も本件研究室の利用権原を有することにつき立証していない。)。

 もっとも、前記1で認定したとおり、原告は、本件研究室に本件動産を残置して本件研究室を占有していたものと認められるから、本件法人による本件研究室の錠を開錠して、本件動産の撤去及び本件研究室の錠の取替えを行った行為(以下「本件動産の撤去行為等」という。)は、自力救済に当たり違法なものであると認められる。なお、被告らから、上記特別の事情についての主張立証はない。

3 争点(3)(被告らの責任原因)について
 以上によれば、被告法人は、違法な本件動産の撤去行為等により原告に生じた損害につき、不法行為責任を負うというべきである。
 弁論の全趣旨によれば、本件動産の撤去行為等の決定は、被告法人の理事会又は大学執行部という組織体の判断によりされたものであると認められるところ、被告Y2、被告Y3及び被告Y4が、共謀又は共同実行により、上記被告法人の職員又は被告法人による不法行為に関与したことについての立証があるとはいえない。

4 争点(4)(原告の損害)について
 前記1及び2で認定・説示したとおり、本件研究室についての原告の占有が認められるから、原告の承諾なく本件動産の撤去行為等をしたことは、違法であると認められ、前記前提事実によれば、被告法人は、原告側から本件動産の撤去行為等は自力救済として許されないものである旨の警告を受けている状況下において本件動産の撤去行為等が行われたことに照らすと、これによって原告は、慰謝料をもって慰謝すべき程度の精神的苦痛を受けたものと認められる。

 もっとも、前記前提事実によれば、被告法人は、本件動産を別の場所において保管しているものであって、本件動産の引取り自体が妨げられているものとは認められないことからすると、上記被告法人の不法行為による、原告の占有権の侵害の程度はそれほど大きいものとは認められないことなど、本件に現れた一切の事情を考慮すると、原告の慰謝料は、5万円と認めるのが相当である。

5 争点(5)(本件研究室及び本件動産についての引渡請求権の有無)について
(1)前記1で認定のとおり、被告法人は、本件動産の撤去行為等を行い、原告の占有を侵奪して、本件動産を保管していることが認められるから、原告の被告法人に対する本件動産の引渡請求は理由がある。
(2)他方、弁論の全趣旨によれば、本件研究室は、現在、他の教員が利用していることが認められるから、原告の被告法人に対する本件研究室の引渡請求は理由がない。

第4 結論
 以上によれば、(1)原告の被告法人に対する請求については、〔1〕本件動産の引渡請求は理由があり、〔2〕本件損害賠償請求のうち、被告法人に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、5万円及びこれに対する不法行為の日である令和3年3月29日から本判決確定の日まで(ただし、支払済みの日が本判決確定の日より前の場合は支払済みの日まで)年3分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるがその余は理由がなく、〔2〕本件研究室の明渡請求は理由がなく、(2)原告のその余の被告らに対する損害賠償請求は、いずれも理由がない。
 よって、原告の請求は、上記の限度で理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第19民事部
裁判官 田口治美
以上:4,232文字

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