仙台,弁護士,小松亀一,法律事務所,宮城県,交通事故,債務整理,離婚,相続

旧TOPホーム > 法律その他 > 民法 >    

位置指定道路の通行妨害と妨害排除請求権を認めた最高裁判決紹介

法律その他無料相談ご希望の方は、「法律その他相談フォーム」に記入してお申込み下さい。
令和 6年 8月23日(金):初稿
○道路通行権に関する判例を探しています。「建築基準法接道要件を満たす囲繞地通行権を否認した地裁判決紹介」に関連する続きで、建築基準法42条1項5号の規定による位置の指定を受け現実に開設されている道路を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は、この道路の通行をその敷地の所有者によって妨害され、又は妨害されるおそれがあるときは、敷地所有者が右通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、敷地所有者に対して右妨害行為の排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有するとした平成9年12月18日最高裁判決(判時1625号41頁、判タ959号153頁)を紹介します。

○関係する建築基準法規定は以下の通りです。
第42条(道路の定義)
 この章の規定において「道路」とは、次の各号のいずれかに該当する幅員4メートル(特定行政庁がその地方の気候若しくは風土の特殊性又は土地の状況により必要と認めて都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域内においては、6メートル。次項及び第3項において同じ。)以上のもの(地下におけるものを除く。)をいう。
(中略)
五 土地を建築物の敷地として利用するため、道路法、都市計画法、土地区画整理法、都市再開発法、新都市基盤整備法、大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法又は密集市街地整備法によらないで築造する政令で定める基準に適合する道で、これを築造しようとする者が特定行政庁からその位置の指定を受けたもの


*********************************************

主   文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。

理   由
 上告人らの上告理由について
一 建築基凖法42条1項五号の規定による位置の指定(以下「道路位置指定」という。)を受け現実に開設されている道路を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は、右道路の通行をその敷地の所有者によって妨害され、又は妨害されるおそれがあるときは、敷地所有者が右通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、敷地所有者に対して右妨害行為の排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有するものというべきである。

 けだし、道路位置指定を受け現実に開設されている道路を公衆が通行することができるのは、本来は道路位置指定に伴う反射的利益にすぎず,その通行が妨害された者であっても道路敷地所有者に対する妨害排除等の請求権を有しないのが原則であるが、生活の本拠と外部との交通は人間の基本的生活利益に属するものであって、これが阻害された場合の不利益には甚だしいものがあるから、外部との交通についての代替手段を欠くなどの理由により日常生活上不可欠なものとなった通行に関する利益は私法上も保護に値するというベきであり、他方、道路位置指定に伴い建築基準法上の建築制限などの規制を受けるに至った道路敷地所有者は、少なくとも道路の通行について日常生活上不可欠の利益を有する者がいる場合においては、右の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、右の者の通行を禁止ないし制限することについて保護に値する正当な利益を有するとはいえず、私法上の通行受忍義務を負うこととなってもやむを得ないものと考えられるからである。

二 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
1 原判決別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)は、昭和33年ころ本件土地周辺が大規模な分譲住宅団地として開発された際、各分譲地に至る通路として開設された幅員四メートルの道路であり、昭和33年1月13日、川崎市長から道路位置指定を受けた。

2 本件土地は、右の道路位置指定以後30年以上にわたり、被上告人らを含む近隣住民等の徒歩及び自動車による通行の用に供されている。

3 被上告人らは、肩書の住所に居住し、自動車を利用する者である。被上告人らがその居住地から自動車で公道に出るには、公道に通じる他の道路が階段状であって自動車による通行ができないため、本件土地を道路として利用することが不可欠である。

4 上告人らは、昭和61年12月9日、贈与により本件土地の所有権(持分各2分の1)を取得した。


(一)上告人らは、平成3年9月ころ、被上告人らを含む本件土地近辺の住民に対し、同年12月末日までに上告人らと本件土地の通行に関する契約を締結しない車両等の本件土地の通行を禁止するという趣旨のビラをまいた。

(二)上告人らは、右(一)と前後して、専ら被上告人らの自動車通行をやめさせる意図の下に、本件土地に簡易ゲート等を設置した。その結果、被上告人らは、自動車で本件土地を通行するたびに、いったん下車して右簡易ゲートを取り除かなければならなくなり、通行を妨害されている。

(三)上告人らは、平成4年2月8日、被上告人らの所属する自治会に対し、同年12月末日をもって本件土地の通行を不可能にする工事を施工することがある旨を通知した。

三 右事実関係に基づいて検討する。
 被上告人らは、道路位置指定を受けて現実に道路として開設されている本件土地を長年にわたり自動車で通行してきたもので、自動車の通行が可能な公道に通じる道路は外に存在しないというのであるから、本件土地を自動車で通行することについて日常生活上不可欠の利益を有しているものということができる。また、本件土地の所有者である上告人らは、被上告人らが本件土地を通行することを妨害し、かつ、将来もこれを妨害するおそれがあるものと解される。他方、右事実関係によっても、上告人らが被上告人らの右通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情があるということはできず、他に右特段の事情に係る主張立証はない。
 したがって、被上告人らは、上告人らに対して、本件土地についての通行妨害行為の排除及び将来の通行妨害行為の禁止を求めることができるものというべきである。

四 以上と同旨に帰する原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤井正雄 裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 大出峻郎)

以上:2,656文字

タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック

(注)このフォームはホームページ感想用です。
法律その他無料相談ご希望の方は、「法律その他相談フォーム」に記入してお申込み下さい。


 


旧TOPホーム > 法律その他 > 民法 > 位置指定道路の通行妨害と妨害排除請求権を認めた最高裁判決紹介