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特定退職金共済制度退職金と会社規定退職金について判断した地裁判決紹介

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令和 5年 5月22日(月):初稿
○「商工会議所特定退職金共済制度退職金帰属について判断した地裁判決紹介」に関連し、特定退職金と会社規定退職金との関係について判断した平成15年6月4日大阪地裁判決(労働経済判例速報1857号3頁)関連部分を紹介します。

○被告会社の従業員であった原告が、適格退職年金契約の解約により発生した解約返戻金並びに特定退職金共済契約の解約により発生した解約手当金がいずれも原告に帰属するとして、これらを取得した被告会社に対し、不当利得の返還を求めました。

○これに対し大阪地裁判決は、本件解約返戻金及び解約手当金が原告に帰属することは明らかであるが、被告会社においては、退職金規定が存在し、原告は同規定に基づき退職金等の支給を受けているから、それらの返還を請求するためには、当該返戻金及び手当金と退職金等が併給であることが認められなければならないとして、本件では被告会社にそのような意思があったとは認められないから、原告は退職金等を全額受給した以上、本件解約返戻金及び解約手当金を受領していないとしても、不当利得における損失はないとして、原告の請求を棄却しました。

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主   文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第一 請求

 被告は、原告に対し、金362万2348円及びこれに対する平成11年3月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要
 本件は、被告会社の従業員であった原告が、原告を被保険者及び年金受取人とする適格退職年金契約の解約により発生した解約返戻金並びに原告を被共済者とする特定退職金共済契約の解約により発生した解約手当金がいずれも原告に帰属し、これらを取得した被告が悪意の受益者に当たるとして、不当利得返還請求権に基づき、前記解約返戻金及び解約手当金の合計から租税の額を差し引いた額並びにこれに対する原告が退職した日の翌日から支払済みまで民法所定の割合による利息の支払を求めている事案である。
1 前提事実(括弧内にその認定に係る証拠を摘示した事実を除き、当事者間に争いがない)
(1)原告は、昭和56年11月16日、鏡板及びプレートの製造販売、金属プレス加工等を目的とする被告会社に雇用された。

(2)被告会社には、昭和63年以前から以下の内容を含む退職金規程(以下「本件退職金規程」という)があり(書証略)、被告会社は、利益の一部を銀行に積み立て、これを原資として同規程に基づく退職金を支払っていた(以下、この制度を「本件退職金制度」という)。
ア 勤続満1年以上の従業員が以下の事由により退職するときは、勤続年数に応じ、退職時の基本給に一定の支給率(A支給率)を乗じた金額を退職金として支給する。
(ア)定年退職するとき
(イ)死亡したとき
(ウ)業務上の傷病により勤務に堪えられないと認められる事情により退職するとき
(エ)業務外の傷病に起因する精神又は身体の障害のため勤務に堪えず退職するとき
(オ)傷病のため休職し、休職期間の満了により退職するとき
(カ)経営上の都合により解雇するとき

イ 勤続満3年以上の従業員が前記ア記載の各号以外の事由により退職したときは、勤続年数に応じ、退職時の基本給に一定の支給率(B支給率)を乗じた金額を退職金として支給する。

ウ 退職金は特に請求があった場合を除き、退職日から30日以内に支払う。

(3)被告会社は、昭和57年及び昭和58年に、北大阪商工会議所との間で、原告ら従業員を被共済者とする退職金共済契約(ただし、原告については、昭和57年には3口、昭和58年には1口。以下「本件特退共契約」という)を締結した(書証略)。

(4)被告会社は、昭和63年7月1日、住友生命相互会社(以下「住友生命」という)との間で、以下の内容の企業年金保険契約協定書を作成して原告ら従業員を被保険者及び年金受取人とする適格退職年金契約(以下「本件適格年金契約」といい、これと本件特退共契約とを合わせて「本件各契約」という)を締結するとともに(書証略)、以下の内容の退職年金支給規程(以下「本件退職年金規程」といい、同規程に基づく退職年金制度を「本件退職年金制度」という)を新たに設け、本件退職金規程に後記7条の規定を追加した上で、同月28日、北大阪労働基準監督署長(以下「北大阪労基署長」という)に対し、C(以下「C」という)を従業員代表とする同人名義の意見書を添付して、前記就業規則の変更を届け出た(以下、この変更を「昭和63年の就業規則の変更」という。書証略)。


     (中略)


第三 当裁判所の判断
1 事実経過

 前記前提事実、証拠(略)及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
(1)原告は、昭和56年11月16日、被告会社に雇用された。原告は、当時39歳で、入社当初は業務担当として働いており、被告会社では十数名の従業員が勤務していた。
 原告は、昭和58年ころには、希望して営業担当となった。

(2)被告会社には、各部門の責任者で構成する幹部会があった。原告は、遅くとも昭和63年から被告会社を退職するころまでの間、営業部の責任者として幹部会の構成員となっていた。

(3)被告会社は、昭和57年及び昭和58年に以下の内容の本件特退共契約を締結したが、その際、同契約に基づく給付と本件退職金規程に基づく退職金給付との関係については、本件退職金規程に何らの規定も設けなかった。
ア 被告会社は、北大阪商工会議所に対し、掛金を支払い、被共済者である従業員が退職した場合に一定の要件を満たすときは、同会議所が当該従業員に対し退職一時金等を支払う。
イ 被告会社は被共済者である従業員の同意がある場合は前記契約を解約することができ、北大阪商工会議所は、その場合には、当該従業員に対し、一定の解約手当金を支払う。
 被告会社は、税務申告に当たり、本件特退共契約に基づき北大阪商工会議所に対して支払う掛金を損金として計上していた。

(4)被告会社は、昭和63年に本件退職金制度の一部を本件退職年金制度から支給する、すなわち、本件退職金制度の一部を本件退職年金制度に移行することとし、第二の1(4)のとおり、本件適格年金契約を締結するとともに、本件退職年金規程を新たに設け、同規程に基づく給付額が本件退職金制度の給付額の一部であることを明確にするため、住友生命作成の「ご契約のてびき」の記載に従い、本件退職金規程に7条を追加し、就業規則をその旨変更したとして、北大阪労基署長に届け出た。

(5)被告会社は、本件適格年金契約について、第二の1(5)のとおり、平成元年に退職年金及び退職一時金の額を引上げる改定を行うとともに、本件退職年金規程についても、同様に変更する旨北大阪労基署長に届け出たが、原告は、その際、従業員代表としての意見書を作成し、変更届を見てその内容を知った。

(6)原告は、平成8年ころ、被告会社の経理、人事、総務を担当していたEに対し、原告が定年で退職する際に受け取ることができる退職年金の額を尋ねた。Eは、本件適格年金契約に基づく給付のほか、本件特退共契約に基づく給付があるので、1000万円を若干上回る旨答えた。

(7)B社長は、平成9年、破綻する保険会社や信用金庫が出現してきたことから、本件各契約についても安心できないと考え、これを解約することとし、同年11月ころ、被告会社の本社工場における朝礼の際、原告を含む従業員に対し、本件適格年金契約を解約して退職金制度を一本化する旨の説明をした。

(8)原告は、本件適格年金契約について、本件解約返戻金請求書の解約返戻金の受取人名欄及び受取人現住所欄並びに本件領収証等の住所・氏名欄にそれぞれ自己の氏名と住所を記入した上で実印を押印し、それらと自己の印鑑登録証明書を被告会社に提出した。
 住友生命は、平成9年12月2日、被告会社に対し、本件解約返戻金300万3578円を口座振込により支払うとともに、そのころ、原告に対し、本件解約返戻金300万3578円を持参払いにより支払った旨の通知書を送付した。
 原告は、格別異議を述べることもなく、被告会社の指示に従って前記通知書を被告会社に提出した。

(9)原告は、本件特退共契約につき、本件退職一時金請求書等の受取人住所氏名欄に自己の氏名と住所を、同書面下部の退職所得の受給に関する申告書及び退職所得申告書の氏名欄に自己の氏名をそれぞれ記入して実印を押印した。その時点では、同書面には、北大阪商工会議所の名称は記載されていなかった。
 その後、本件退職一時金請求書等の退職一時金の振込先の金融機関及び口座として、滋賀銀行の原告口座の口座番号が記載された。
 前記口座は、原告が、昭和63年ころ、当時被告会社に存在した報奨金制度に基づく給付の振込を受けるために開設された口座であったが、原告は、その届出印及び通帳を被告会社に預けたままにしていた。
 北大阪商工会議所は、平成9年12月11日、本件解約手当金116万9870円を滋賀銀行の原告口座に振り込んだ。
 E(※被告会社従業員)は、同月16日、原告名義の普通預金払戻請求書を作成して滋賀銀行に提出し、滋賀銀行の原告口座から116万9870円を払い戻した。

(10)原告は、遅くとも平成9年には営業部長に昇進したが、平成10年9月、B社長から、営業部長として売上低迷の責任を問われ、営業部次長に降格された。

(11)原告は、平成10年7月ころ、被告会社から、給与明細書とともに、住友生命からの一時所得として300万3578円、北大阪商工会議所からの一時所得として116万9870円の所得があった旨記載された平成9年分の所得税の確定申告書の写しを受け取ったが、被告会社に対し、何らの質問もしなかった。

(12)被告会社は、本件解約返戻金等も含め、従業員について締結していた本件適格年金契約及び本件特退共契約の解約により発生した解約返戻金及び解約手当金を当初預り金として計上していたが、税務当局の指示により雑収入に計上し直した。

(13)原告は、平成11年1月5日、被告会社の人事担当の常務取締役に退職する旨を告げ、同月23日、被告会社に対し、同年3月15日付けで退職する旨の退職届を提出し、その後は年次有給休暇を取得し、同日付けで退職した。

(14)被告会社は、原告が退職した平成11年3月15日、滋賀銀行の原告口座を解約し、原告に対し、本件退職金等367万円から被告会社が原告に売却した自動車の代金30万円を差し引いた残額のうち、330万円を翌16日に、7万円を同月23日にそれぞれ支払った。

2 原告と被告会社との間における本件解約返戻金等の帰属及び本件退職金等との併給の要否(争点(1))
(1)本件解約返戻金について


         (中略)

エ そうすると、原告が被告会社から本件退職金規程に基づく本件退職金等を全額受領した以上、本件解約返戻金を受領していないとしても、不当利得における損失はないというべきである。

(2)本件解約手当金について
ア 証拠(書証略)及び弁論の全趣旨によると、本件特退共契約は、所得税法施行令74条の定める国税庁長官の承認を受けた特定退職金共済団体である北大阪商工会議所が行う同施行令73条1項一号にいう退職金共済契約として同項各号の要件を満たしたものであり、同項四号において、加入事業主が納付した掛金は同事業主に返還しないことを要するとされているため、北大阪商工会議所の特定退職金共済制度規約においても、解約手当金は被共済者である従業員に支払うとされている(同規約18条1項)。したがって、本件解約手当金が原告に帰属することも明らかである。

イ 他方、前記第二の1(2)、(9)のとおり、被告会社においては、本件退職金規程が存在し、原告は、同規程に基づき本件退職金等の支給を受けているので、原告が本件解約手当金を取得した被告会社に対して不当利得返還請求権に基づき本件解約手当金の返還を請求するためには、原告が被告会社に対する関係で本件退職金等のほかに本件解約手当金を取得し得ること、換言すれば、本件解約手当金と本件退職金等が併給であることが認められなければならない。

 確かに、原告が主張するとおり、本件解約手当金と本件退職金等を調整する明示の規定は存しないので、被告会社が本件特退共契約を締結するに当たって、同契約に基づく退職一時金又は解約手当金を本件退職金規程に基づく給付と併給する意思であったか否かは、本件に顕れた証拠により認定するほかはない。

 なお、この点に関し、原告は、本件特退共制度と本件退職金制度とは別個独立の制度であるから、併給と解すべきであると主張するが、制度としては独立のものであったとしても、本件適格年金制度と同様、本件退職金制度の一部を本件特退共制度に移行することを禁止する規定も認められないのであるから、制度が別個であることを理由として原則的に併給であると解することはできない。

 むしろ、前記(1)で述べたとおり、被告会社が、本件退職年金制度の新設、支給年金額等の増額及び同制度の廃止に当たり、本件退職年金規程の新設・変更・廃止及び本件退職金規程との調整規定の設置・廃止を行い、就業規則の変更を北大阪労基署長に届け出ていることに照らすと、前記1(3)のとおり、被告会社が、本件特退共契約の締結に当たり、本件退職金規程に何らの変更も行っていないことは、同契約に基づく退職一時金の給付を本件退職金規程に基づく給付に加えて支給する意思がなかったことを推認させるというべきである。

そして、証拠上、被告会社が、本件特退共契約の締結に当たり、同契約に基づく給付を本件退職金規程に基づく給付に加えて支給する意思を有していたことを裏付けるような事情は認め難く、もしそのような意思を有していたのであれば、それは従業員の労働条件の向上につながることであるから、被告会社が積極的に従業員に対して説明を行ってしかるべきであるが、前記1(6)のとおり、Eが原告に対し、定年で退職する場合の給付額が1000万円を若干上回ると述べているものの、必ずしも、それが被告会社の意向として述べられたものとは認め難いし、ほかに被告会社が従業員全員に対し、前記のような説明を行ったと認めるに足りる証拠はない。

しかも、前記認定の経緯及び証拠(略)によると、原告も本件特退共契約の存在を当初は認識していなかったものと認められるのであり、そうすると、その後、被告会社が本件特退共契約を解約するに当たり、それに伴う解約手当金を本件退職金制度に基づく給付のほかに支給することが想定されていたとも認め難い。

ウ したがって、原告は被告会社から本件退職金規程に基づく退職金等を全額受領した以上、本件解約手当金を受領していないとしても、不当利得における損失はないというべきである。

(3)原告の主張について
 原告は、本件解約返戻金等と本件退職金等が併給であるとし、その根拠の一つとして、両者を調整することは従業員にとって不利益な変更に当たるので、労働協約を締結するか、就業規則を変更する必要があるのに、いずれの手続も行われていない旨主張するが、本件解約返戻金等が支払われたことを本件退職金等の支給との関係で考慮すべきか否かは、本件退職年金規程及び本件退職金規程の解釈の問題であり、明示の調整条項を規定した労働協約や就業規則が存在しないからといって、必ず両者が併給であると解さなければならない理由はない。

3 まとめ
 以上のとおり、原告は、本件退職金規程に基づく退職金等全額の支給を受けた結果、何らの不当利得における損失も認められないから、被告会社による本件解約返戻金等の取得が原告の意思に基づくか、あるいは,被告会社による本件解約返戻金等の取得原因となる法律行為等が無効かを判断するまでもなく、原告の本件請求は理由がない。
大阪地方裁判所第5民事部 裁判長裁判官 小佐田潔 裁判官 中垣内健治


以上:6,578文字

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