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業務災害の雇用主安全配慮義務違反損害賠償を認めた最高裁判決紹介

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令和 4年11月19日(土):初稿
○「業務災害の雇用主安全配慮義務違反損害賠償を認めた高裁判決紹介」の上告審平成4年7月14日最高裁判決(労働判例615号9頁)全文を紹介し、事案をまとめます。熊野電報電話局事件として有名な事件ですが、一審では、日本電信電話公社でしたが、控訴審・上告審では日本電信電話株式会社となっています。昭和63年3月30日名古屋高裁判決に、日本電信電話株式会社側が上告し、上告棄却の結論が出たのが平成4年7月14日で4年以上かかっています。

○上告審判決も、電話交換手の頚肩腕症候群につき、変形性頚椎症と併存競合するものであるが、昭和47年4月ころから同55年7月ころまでは業務起因性を認めることができ、労働組合での問題視や専門家の学術論文等から昭和45年7月ころには、業務起因性の認められる頚肩腕症候群の発症につき予見可能性があったとして、会社の安全配慮義務違反を肯定しました。

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主   文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理   由
 上告代理人○○○○、同○○○○の上告理由について
 被上告人が昭和47年4月ころから同55年7月ころまでの間電話交換業務に起因する頸肩腕症候群に罹患し、当時上告人の使用者であった日本電信電話公社にはその発症ないし増悪を防止すべき注意義務に違反した債務不履行責任があるとした原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実関係の下において、右債務不履行に基づいて被上告人に生じた損害は150万円とするのが相当であるとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づき若しくは原判決は正解しないでこれを論難するものにすぎず、採用することができない。
 よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第三小法延 裁判長裁判官 園部逸夫 裁判官 坂上壽夫 裁判官 貞家克己 裁判官 佐藤庄市郎 裁判官 可部恒雄


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以下、事案のまとめです。

・X(原告・控訴人・被控訴人・被上告人)は、昭和26年12月からY(被告・被控訴人・控訴人)の三重県熊野電報電話局に勤務し、主として電話交換手として働いていた者
・Xは、昭和38年ころから頸肩腕障害を思わせるような症状が現われ、昭和47年4月、症状が悪化して頸肩腕症候群の診断を受け、同月から休職
・Xは、昭和49年2月、業務上災害の認定を申請したが、中部労災病院では、Xの僧帽筋部、斜角筋部左に病的とはいえない程度の圧痛と頸部X線所見で軽度変形性頸椎症を認めたのみで、他に特段の他覚的異常はなく、変形的頸椎症として業務外災害と認定
・Xは、昭和50年10月、勤務軽減の扱いで復職したが、改善の兆しがみられなかったため、昭和51年に至って、Xの頸肩腕障害の罹患は電話交換業務にあり、YはXの健康保護義務に違反したとし、Yに対し、1000万円の損害賠償の支払を求めた

・第一審昭和58年3月31日津地裁判決は、
Xの主張をほぼ認め、柳山診療所の向井医師が診断を下した昭和47年4月から、中部労災病院の小菅医師の診断した昭和49年2月までのXの症状は、主として頸肩腕障害であるとしてその業務起因性を認めた
Yは、健康管理規程を制定し、健康管理所等の設置、職場における健康管理の実施、一般検診、特殊検診等の健康診断の実施、休憩室の設置など環境衛生に対する配慮を行い、Xに対しても各種の休暇を付与してきたことなども認められるが、熊野局において頸肩腕障害が多発し、電話取扱量が増えているにもかかわらず、要員の増員措置もとらなかったということ等を考え合わせれば、Yが、電話取扱要員に対して適切な頸肩腕症候群予防対策を講じてきたものとは認め難いとし、Yの債務不履行責任を認めて、Yに対し、120万円の損害賠償を支払うよう命じた。

・控訴審昭和63年3月30日名古屋高裁判決は
Xの症状に対する医師の診断評価には見解の対立があるが、頸肩腕障害と加齢的変形性頸椎症の疾患が相半ばして競合していたものとみるのが相当であるとしたうえ、昭和47年4月ころから昭和55年7月までの症状は、頸肩腕症候群としてその業務起因性を認めうるとし
Yでは、昭和48年以降頸肩腕症候群に対する医療上、労務上、保健上の総合的網羅的諸対策を鋭意推進したため、同年以後の罹患者数に著しく減少したが、それまで右のような対策を執らなかった点に安全配慮義務に関する債務不履行、義務違反は明らかであるとし、Yに対し、一審より多い150万円の損害賠償金を支払うよう命じた。

・頸肩腕症候群は、交換手のほか手指や上腕を酷使するキーパンチャーなどに多くみられる職業病で、昭和40年代初めころから多発し、労働省では昭和44年と50年の2回にわたって認定基準の通達を出し、各企業が各種の発症防止策を取るなどしたことから、次第に沈静化したが、頸肩腕障害に罹患したことを理由にして、使用者に対し損害賠償を請求する事件は少なくなかった

・頸肩腕症候群と業務起因性の有無の判断については、労働省の59号通達「キーパンチャー等上肢作業に基づく疾病の業務外の認定基準について」があり、おの通達に依拠する裁判例もないではないが、本判決は、この通達にとらわれず、他の要素もくわえた総合的判断を下した点に重要な意義を有するとともに、業務上災害の認定を受けられない電話交換手の頸肩腕症候群の業務起因性と使用者の安全配慮義務違反の責任を認めたものとして、他の同様患者らに対する影響するところが極めて大きい
以上:2,402文字

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