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住宅型有料老人ホーム窓からの転落事故での施設責任否認高裁判決紹介

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令和 4年10月25日(火):初稿
○被控訴人Y1社が運営する住宅型有料老人ホームに入居し、医療法人である被控訴人Y2から訪問介護サービスの提供を受けていた亡Bが、入居していた2階居室の窓から転落して傷害を負い、その後死亡したことについて、亡B及びその妻である亡Aの相続人である控訴人らが、亡Bから被控訴人らの債務不履行、共同不法行為又は被控訴人Y1の工作物責任に基づく損害賠償請求権を承継したとして、被控訴人らに対し、それぞれ連帯して約1236万円の損害賠償金等の支払を求めましたが、原審令和2年10月30日鹿児島地裁判決は、控訴人らの請求をいずれも棄却したため、控訴人らが控訴しました。控訴審の令和3年4月21日福岡高裁宮崎支部判決(判時2526号39頁)関連部分を紹介します。

○控訴審判決も、本件施設は、介護サービスが付いていない住宅型有料老人ホームであり、施設内に被控訴人Y2の訪問介護事業所が開設されることで入居者の利便性が高まったとはいえ、その性質が介護付き有料老人ホームに変容するものではなく、被控訴人らが介護サービス提供時以外にも一体として、入居者の生活全般についてあらゆる危険を予測し、入居者に対する安全を配慮すべき義務を負うということはできないし、また、本件窓及び本件ストッパー自体に不備はなく、亡Bが本件窓から転落することを予見し得ない本件の具体的状況において、本件事故時に本件ストッパーが使用されていなかったからといって、本件窓が通常有すべき安全性を欠いていたということはできないとして控訴人らの請求を棄却しました。

○有料老人ホームとは「老人福祉法29条」で定義される「常に1人以上の高齢者の入居のある、都道府県等へ届け出た施設」を指し、提供されるサービスは、食事・介護などの生活支援サービスですが、住宅型有料老人ホームは「介護サービスを必要に応じて外部から提供してもらう」ため基本的に、介護スタッフは常駐していないとのことです。

○控訴人は、2階の居室窓から転落した亡Bは重度の認知症の症状が見られたので、有料老人ホーム施設としては、亡Bが本件窓から転落する危険性を容易に予見することができるのだから安全配慮義務に違反したと主張しました。しかし、判決は窓から転落することまでは予見できないとしましたが、介護スタッフが常駐しない施設としては、やむを得ない判断と思われます。

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主   文
1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは、控訴人X1に対し、連帯して1235万9652円及びこれに対する平成28年5月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人らは、控訴人X2に対し、連帯して1235万9652円及びこれに対する平成28年5月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 以下、略称は、本判決で定めるもののほかは、原判決のものによる。
1 本件は、被控訴人Y1が運営する住宅型有料老人ホーム(本件施設)に入居し、被控訴人Y2から訪問介護サービスの提供を受けていた亡Bが、入居していた居室(本件居室)の窓から転落して傷害を負い(本件事故)、その後死亡したことについて、亡B及びその妻である亡Aの相続人である控訴人らが、亡Bから被控訴人らの安全配慮義務違反の債務不履行、共同不法行為又は被控訴人Y1の工作物責任に基づく損害賠償請求権を承継したとして、被控訴人らに対し、それぞれ連帯して1235万9652円及びこれに対する平成28年5月8日(本件事故日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 原審が控訴人らの請求をいずれも棄却したところ、控訴人らがこれを不服として本件各控訴を提起した。

2 前提事実並びに争点及び当事者の主張は、下記(1)のとおり補正し、当審における控訴人らの補充主張を下記(2)に加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中「第2 事案の概要」の1及び2に記載のとおりであるから、これを引用する。

         (中略)


第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人らの請求はいずれも理由がないと判断する。
その理由は、下記2のとおり補正し、当審における控訴人らの補充主張に対する判断を下記3に加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中「第3 当裁判所の判断」(以下「原判決第3」という。)に記載のとおりであるから、これを引用する。

2 原判決の補正
(1)原判決12頁13行目の「《証拠略》」を「《証拠略》」と、14行目の「《証拠略》」を「《証拠略》」とそれぞれ改める。

(2)原判決13頁24行目の「ナースコール」を「コールボタンによる呼出し」と改める。

(3)原判決14頁20行目の「健康管理、」の次に「食事の提供、」を、25行目の「上記イの」の次に「生活相談や」をそれぞれ加える。

(4)原判決16頁15行目の「保管していた。」の次に「本件ストッパーを使用すると、本件窓は15cm程度しか開けることができず、本件窓から人が出入りするのを防止することができた。」を、16行目の「されていた(」の次に「《証拠略》」をそれぞれ加え、22行目の「眠剤」を「入眠剤」と改め、26行目の末尾に「被控訴人Y2の職員は、亡Bが本件施設内を徘徊したときに他の居室に立ち入ることがあり、他の入居者から苦情を受けたことがあったことから、亡Bが徘徊した際に他の居室の出入口を施錠して、亡Bが立ち入らないよう対処したことがあった。」を加える。

(5)原判決17頁4行目の「眠剤」を「入眠剤」と、6行目の「廊下に出たり、本件居室の入口の鍵の施錠、解錠を」を「廊下を徘徊したり、本件居室の入口の鍵を施錠し、職員が解錠すると再び施錠することを」と、12行目の「使用されていなかった」を「使用されておらず、向かって左側の窓が全開となっていた」とそれぞれ改める。

(6)原判決18頁4、5行目の「生活サービスの」から6行目の「行われる」までを「生活相談を行ったり各種生活サービスを提供したりすることにとどまり、居室の利用方法は、原則として入居者やその親族の自由に委ねられ、被控訴人Y1は、災害その他の緊急やむを得ない場合を除けば、施設管理上特に必要があるときでも入居者の承諾を得て居室に立ち入ることができるにすぎず、入居者の行動を制限することはできない」と、8行目の「あくまで」から11行目の末尾までを「本件施設及び各居室の設備の利用や生活支援サービスの提供に当たって、入居者の状況に応じて具体的な危険性が予見できる場合に限られるというべきであり、その範囲を超えて、居室内を含めたあらゆる生活場面につき、入居者の身体等の安全を害することがないよう配慮する一般的な注意義務を負うということはできない。」とそれぞれ改める。

(7)原判決19頁20行目の「さらに、」を削り、20行目及び26行目の各「眠剤」をいずれも「入眠剤」と改める。

(8)原判決20頁1行目の「本件事故以前」から3行目の「うかがわれないこと」までを「亡Bは、本件事故以前にも入眠剤を服用した上で本件居室や本件施設内を徘徊したことがあり、徘徊中にふらつき転倒する危険性が指摘されていたほか、帰宅願望を示したこともあったものの、亡Bが窓から外に出ようとするなどの危険な行動を取ったことやそのような行動を取るおそれがあることを具体的にうかがわせる事情を認めるに足りる証拠はない。また」と、5行目の「していたこと(認定事実(7))からすると」を「していた(認定事実(7))。そうすると」とそれぞれ改め、8行目の「なお、」を削り、15行目から25行目までを以下のとおり改める。

 「控訴人らは、本件ストッパーが日常的に使用されていたとも主張し、控訴人らの陳述書及び原審における各本人尋問の結果には、これに沿う部分がある。しかし、本件ストッパーが作動した場合には本件窓は15cmほどしか開かないところ(認定事実(5))、平成27年9月、本件窓はそれ以上に開いた状態であったことが認められるから、本件ストッパーが日常的に使用されていたとするには疑問があり、本件ストッパーが使用されていたことを被控訴人Y2の職員が否定していることに照らしても、上記控訴人らの陳述書等を直ちに採用することはできず、他に、本件ストッパーが日常的に使用されていたことを認めるに足りる証拠はない。したがって、本件ストッパーが日常的に使用されていたことから、被控訴人らが本件事故時にも本件ストッパーを使用して亡Bの転落を防止すべき本件安全配慮義務を負っていたとする控訴人らの主張は理由がない。

 さらに、控訴人らは、一般に認知症の高齢者等が窓から転落する危険性があることから、被控訴人らは本件ストッパーを使用するなどの対処をすべき義務を負うかのようにも主張するところ、高齢者施設が上記一般的な転落の危険性を考慮して、安全の観点から転落防止の措置を取ることがあるとしても、本件のように転落の危険性を具体的に予見することができたとはいえない場合にまで、上記一般的な危険性を理由として、居室内における転落防止の措置を取るべき義務を負うと解することは相当ではない。

エ 以上によれば、本件事故が発生したことにつき、被控訴人らに本件入居契約及び本件訪問介護契約に基づく本件安全配慮義務違反があったとする控訴人らの主張は、理由がない。」

(9)原判決21頁1行目の「原告らは、被告らが」を「控訴人らは、」と、2行目の「本件訪問介護利用契約」を「本件訪問介護契約」と、13行目、15行目及び17行目の各「ストッパー」をいずれも「本件ストッパー」と、21行目の「証拠はなく」から25行目の「得ない」までを「証拠はない上に、本件ストッパーが日常的に使用されていたと認めることはできないことについては前記(1)ウで説示したとおりである」とそれぞれ改める。

(10)原判決22頁6行目の「これらの管理について事務管理上の善管注意義務」を「事務管理に基づく善管注意義務」と改め、16行目の「ではない。」の次に「また、本件窓が認知症の高齢者も入居することのある居室に設置されたものであることを考慮しても、前記2(1)のとおり、亡Bが本件窓から外に出ようとするなどして転落することを具体的に予見することができたとはいえない本件事故当時の状況からすれば、本件事故時に本件ストッパーが使用されていなかったからといって、本件窓が通常有すべき安全性を欠いていたということはできない。」を加える。

3 当審における控訴人らの補充主張について
(1)
ア 控訴人らは,被控訴人らが連携して本件施設に認知症の高齢者を受入れているから、被控訴人らは、介護サービス提供時に限らず入居者の状態に応じて事故の危険性等を正しく想定し、それに応じた適切な対応を実施すべき義務を一体的に負っていたと主張する。 
 しかし、前記補正して引用した原判決第3の2(1)のとおり、本件施設は、介護サービスが付いていない住宅型有料老人ホームであり、施設内に被控訴人Y2の訪問介護事業所が開設されることで入居者の利便性が高まっているとはいえ、その性質が介護付き有料老人ホームに変容するものではないから、被控訴人らが介護サービス提供時以外にも一体として、居室内を含めた入居者の生活全般についてあらゆる危険を予測し、入居者に対する安全を配慮すべき義務を負うということはできない。

イ 控訴人らは、亡Bに重度の認知症の症状が見られた上に入眠剤が処方されており、不穏状態であったことなどから、被控訴人らは、亡Bが本件窓から転落する危険性を容易に予見することができたとして、被控訴人らは本件安全配慮義務に違反したと主張する。
 しかし、前記補正して引用した原判決第3の2(1)のとおり、亡Bには本件事故以前から徘徊や帰宅願望などが見られたものの、窓から外に出ようとするなどの危険な行動を取ったことやそのような行動を取るおそれがあることを具体的にうかがわせる事情は認められず、亡Bは本件事故当日にも自ら本件居室の出入口の鍵を操作していたというのであるから、亡Bが本件居室の出入口から退室できず本件窓から外に出ようとして転落することを被控訴人らが予見することができたとは認められない。被控訴人らが本件ストッパーを日常的に使用していたことや本件居室の出入口を施錠したことを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、被控訴人らに本件安全配慮義務違反があったとする上記控訴人らの主張は理由がない。

(2)控訴人らは、本件ストッパーを使用していなかった本件窓には、通常有すべき安全性を欠く瑕疵があったと主張する。
 しかし、前記補正して引用した原判決第3の3のとおり、本件窓及び本件ストッパー自体に不備はなく、亡Bが本件窓から転落することを予見することができたとはいえない本件の具体的状況において、本件事故時に本件ストッパーが使用されていなかったからといって、本件窓が通常有すべき安全性を欠いていたということはできない。
 したがって、控訴人らの上記主張は理由がない。

第4 結論
 以上によれば、その余の点につき判断するまでもなく、控訴人らの請求はいずれも理由がないから、これを棄却すべきである。
 よって、上記判断と同旨の原判決は相当であり、控訴人らの本件各控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官 高橋亮介 裁判官 小崎賢司 新城博士)

以上:5,615文字

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