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住宅型有料老人ホーム窓からの転落事故での施設責任否認地裁判決紹介

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令和 4年10月26日(水):初稿
○「住宅型有料老人ホーム窓からの転落事故での施設責任否認高裁判決紹介」の続きで、その原審令和2年10月30日鹿児島地裁判決(判時2526号43頁)関連部分を紹介します。
本件は、住宅型有料老人ホームの注意義務に関するもので、有料老人ホームの定義も紹介されており、この点は別コンテンツで検討します。

○亡Bは、平成25年5月に被告Y1に入所し、認知症が進行し、平成27年10月に被告Y2と訪問診療契約を締結し、平成28年5月8日2階居室窓から転落し胸椎破裂骨折などの傷害を負い、E病院に入院し、同年6月3日「治癒に近い状態」となり、F病院に転院し、同年8月14日、急性心肺不全により死亡したことについて、Y1・Y2の安全配慮義務違反等を理由に損害賠償請求がなされました。

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主   文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求

1 被告らは、原告X1に対し、連帯して1235万9652円及びこれに対する平成28年5月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、原告X2に対し、連帯して1235万9652円及びこれに対する平成28年5月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は、被告Y1が運営する住宅型老人ホームに入居し、被告Y2から訪問介護サービスの提供を受けていた亡Bが、入居していた居室の窓から転落して胸椎破裂骨折などの傷害を負い、その後死亡した事故について、亡Bの妻である亡A及び子である原告らが、亡Bの被告らに対する債務不履行又は共同不法行為(被告Y1に対しては、これらに加えて工作物責任)に基づく損害賠償請求権を相続により承継したと主張し、さらに、亡Aの承継した上記損害賠償請求権について、同人が本件訴訟提起後に死亡したことにより、同人の子である原告らが承継したとして、原告らがそれぞれ、被告らに対し、連帯して1235万9652円及びこれに対する平成28年5月8日(不法行為の日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うよう求めた事案である。
1 前提事実

         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 証拠《略》及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
(1)本件施設について
ア 本件施設は、生活支援などのサービスが付いた高齢者向けの居住施設である「住宅型有料老人ホーム」である(前提事実(6))。
 なお、有料老人ホームには、
〔1〕上記「住宅型有料老人ホーム」(生活支援等のサービスが付いた高齢者向けの居住施設。介護が必要となった場合、入居者自身の選択により、地域の訪問介護等の介護サービスを利用しながら当該有料老人ホームの居室での生活を継続することが可能)のほか、
〔2〕「介護付有料老人ホーム(一般型特定施設入居者生活介護)」(介護等のサービスが付いた高齢者向けの居住施設。介護が必要となっても、当該有料老人ホームが提供する特定施設入居者生活介護を利用しながら当該有料老人ホームの居室で生活を継続することが可能。介護サービスは有料老人ホームの職員が提供)、
〔3〕「介護付有料老人ホーム(外部サービス利用型特定施設入居者生活介護)」(有料老人ホームの職員が安否確認や計画作成等を実施し、介護サービスは委託先の介護サービス事業所が提供するほかは、上記「介護付有料老人ホーム(一般型特定施設入居者生活介護)」と同じ)、
〔4〕「健康型有料老人ホーム」(食事等のサービスが付いた高齢者向けの居住施設。介護が必要となった場合には、契約を解除し退去しなければならない。)がある。

イ 被告Y1作成に係る本件施設のパンフレットには、本件施設について「有料老人ホーム(住宅型)」と記載される一方で、「医療・介護でお困りの方へ たとえば…(略)認知症・寝たきりなどで在宅介護に限界を感じられている方 このような医療・介護にお困りの方は ぜひ、一度ご相談ください。」、「医療・介護連携で安心の生活をサポートする有料老人ホームです」などといった勧誘文言や、本件施設の入居対象者を「要支援1・2、要介護1ないし5の方」とする記載もされていた。また、訪問診療については、24時間365日対応可能な体制を取っている旨記載されていた。

(2)被告らの関係
ア 被告Y1と被告Y2は、業務提携契約を締結し、被告Y2は、本件施設内に「ヘルパーステーションD」を開設し、被告Y2の職員が駐在していた(前提事実(1)イ)。
 本件施設においては、日中は、被告Y1の職員が、管理人として1人常駐しており、同人が、本件施設の正面玄関の施錠、解錠、郵便物の受け渡し、共用部の清掃、外線電話の対応等を行っていた。また、各居室からのナースコールへの対応は、同人及び被告Y2の職員が協力して行っていた。

 他方、夜間の業務については、被告Y1の職員がいないため、ヘルパーステーションDに駐在する被告Y2の職員が行っていた。
 被告Y2の職員は、概ね午後6時、午後9時、午前0時、午前3時、午前6時を目安として、各入居者の安否確認のための巡視を行っており、午後9時の巡視の際は主に就寝確認を行っていた。

イ 被告らは、1か月に1回、連携会議を行い、本件施設における問題について協議しており、その他の機会にも、本件施設の施設長であり被告Y1の職員であるGやヘルパーステーションDの管理者であり被告Y2の職員であるHらが、必要な情報共有等を適宜行っていた。

ウ 本件施設の入居者において、訪問介護サービスに関し、被告Y2以外と契約することは可能であった。しかし、実際に被告Y2以外の業者と契約している入居者はいなかった。

(3)本件入居契約の内容
 亡Bは、平成25年4月27日、被告Y1との間で、次の内容の本件入居契約を締結した。

         (中略)


(6)亡Bの入居後の状況
 亡Bには、平成25年5月の本件施設入居当初から、外出希望や意味不明な行動等が見られ、これらの頻度は次第に増えていった。そして、亡Bには、平成28年3月以降、室内での放尿や、徘徊、他の入居者の居室を深夜に訪問する等の行動が繰り返し見られ、支離滅裂な言動をすることもあり、時折、帰宅願望を示すことがあった。亡Bは、同時期において、しばしば眠剤であるゾルピデム酒石酸塩錠を服用していた。
 ヘルパーステーションDの管理者であるH及び本件施設の施設長であるGは、平成28年3月頃において、亡Bの認知症が進行していることを認識していた。
 なお、亡Bは、平成27年10月、被告Y2との間で、訪問診療契約を締結した。

(7)本件事故当日の状況
 亡Bは、平成28年5月8日、本件居室内を徘徊するなどして、眠剤を服用した。被告Y2職員は、亡Bが、同日午後7時30分から午後10時頃までの間、何度か廊下に出たり、本件居室の入口の鍵の施錠、解錠を繰り返したり、同日午後10時から午後11時20分頃までの間、本件居室内で、独り言を述べたり、窓やトイレの鏡に映った自分に話し掛けたりしている様子を確認した。その後、亡Bは、本件窓から転落し、同日午後11時25分頃、本件施設の1階にいた職員が発見した。
 その際、本件居室の入口の鍵は施錠されており、他方、本件ストッパーは使用されていなかった。また、亡Bは、転落時、コート、帽子及び靴を着用していた。

(8)本件事故後の状況
 亡Bは、本件事故後、E病院に入院し、平成28年6月3日、「治癒に近い状態」となり、F病院に転院し、同年8月14日、急性心肺不全により死亡した。

2 争点〔1〕(被告らの安全配慮義務違反の有無)に対する判断
(1)本件入居契約及び本件訪問介護契約に基づく被告らの義務違反の有無について
 原告らは、本件入居契約及び本件訪問介護契約に基づき、被告らが、入居者について、居室内の動静や介護サービス提供時以外の動静についても注意し、本件ストッパーの使用状況を適宜調査・確認し、本件ストッパーを掛けるなどして亡Bが本件窓から転落することを回避する措置をとる義務(本件安全配慮義務)を負っていた旨主張する。

ア そこで、まず、本件入居契約及び本件訪問介護契約の内容や性質の観点から検討する。
(ア)本件入居契約について
 上記1(3)で認定した本件入居契約の内容によれば、同契約上の被告Y1の義務は、本件施設や本件居室を利用させるほかは、生活サービスの提供に留まるものであり、居室への立ち入りについても、基本的には入居者の承諾を得て行われるとされている。そうすると、被告Y1が、本件施設の入居者の身体の安全に配慮する義務を負うとしても、それはあくまで提供した生活支援サービスに付随する部分に限られるというべきであり、その範囲を超えて、常時亡Bの動静を注視し、その身体等の安全への危害を予見してそれを防止するような注意義務まで負うものとはいえない。

(イ)本件訪問介護契約について
 上記認定事実によれば、本件施設は、介護等のサービスが付いた「介護付有料老人ホーム」ではなく、介護が必要となった場合、別途、入居者自身の選択により、地域の訪問介護等の介護サービスを利用するという「住宅型有料老人ホーム」であり(上記1(1)ア)、現に、亡Bも、被告Y1との間の本件入居契約とは別に、被告Y2との間で、本件訪問介護契約を締結し,被告Y2の職員から、個別の訪問介護サービスを受けており、その対価である料金の額も利用回数によって増減されるものである(上記1(4))。このような本件施設や訪問介護の性質からすると、本件訪問介護契約のサービスが365日24時間提供可能との趣旨は、ヘルパーステーションDに被告Y2職員が常駐しているために、コールボタンで呼出しがあった場合等には対応可能であるというものにすぎず、本件訪問介護契約の内容から、介護サービス提供時以外に被告Y2が本件安全配慮義務を負うものとはいえない。

(ウ)被告らの提携関係について
 原告らは、被告らが業務提携をしていることなどから、被告らの提供するサービスを一体として捉えるべきであり、それにより、本件安全配慮義務を負う旨主張する。しかしながら、上記1で認定した事実関係に照らすと、被告らの業務提携によっても、通常施設外に設置される介護サービスの拠点が施設内に置かれることで入居者の利便性が高まるにすぎず、これによって、住宅型有料老人ホームに外部の介護サービスが付加されたに留まる本件施設の性質が変容するものではないし、被告らが負うべき義務が加重されるということもできない。 

イ 次に、原告らは、被告らが本件安全配慮義務を負う根拠として、被告Y2の職員が居室の巡視を行っていたことや、本件施設が要介護5の者まで対象にしていることを主張しているので、それらの点について検討する。
 上記1で認定した本件訪問介護契約の内容に照らすと、上記巡視が同契約の内容になっているとは認められないし、契約の範囲外の巡視を行っていた事実から、直ちに契約に基づく介護サービス提供時以外に入居者の動静を注視すべき義務が基礎付けられるものでもない。また要介護5の者に対応している点についても、その上記ア(イ)で説示したとおり、要介護度の高い者を含む利用者の具体的な状況に応じて、訪問介護サービスの内容、頻度等が選択されるのであって、要介護度が高い者を受け入れていることから直ちに、本件安全配慮義務が基礎付けられるものでもない。

ウ さらに、原告らは、亡Bに関する徘徊、施錠、帰宅願望、眠剤の処方、本件ストッパーの使用状況等の具体的事情をも考慮すると、被告らが本件安全配慮義務を負う旨主張するので、以下、本件事故当時の亡Bの具体的状況及びこれに対する被告らの認識(予見可能性)について検討する。
 上記認定のとおり、亡Bは、平成28年3月以降、しばしば本件施設内を徘徊し、時折帰宅願望を示すことがあり、また、本件事故当日である同年5月8日の午後7時頃においても、眠剤を処方され、その後、鏡に映った自分に話し掛ける等の行動があった(認定事実(6)及び(7))。しかし、本件事故以前にも、眠剤を服用した上で徘徊するなど、本件事故直前と類似する状況にありながら、亡Bが本件窓から外に出ようとした様子はうかがわれないこと、亡Bは、本件事故当日も、自ら本件居室の出入口の鍵を開閉したり、本件居室から出て、廊下を徘徊したりしていたこと(認定事実(7))からすると、被告らにおいて、亡Bが、本件居室の出入口から退室できないため、本件窓から退室しようとするなどして転落すると予見できたとは認められない。

 なお、原告X1は、被告らによって本件居室の出入口の鍵が掛けられていたかのような供述ないし陳述をするが、これを否定する証人Hの証言に加えて、本件事故直前、亡Bが本件居室の入口の鍵の施錠に固執し、施錠や解錠を繰り返していたことからすると(認定事実(7))、亡Bが自ら本件居室の入口の鍵を施錠した可能性も否定できないのであって、原告X1の上記供述ないし陳述部分は採用することができず、他に被告らが本件居室に施錠した事実を認めるに足りる証拠はない。

 また、原告らは、本件ストッパーが日常使用されていたとも主張するが、これまで説示したところと後記(2)及び(3)で説示した内容を総合すると、本件ストッパーの使用や鍵の保管に関連する原告らの主張を考慮したとしても、被告らが本件安全配慮義務を負うことにはならないというべきである。
 さらに、原告らは、認知症高齢者等が窓から転落する危険性があることから、対処が必要であるとも主張しているが、安全の観点から対策を取ることが望ましい場合があるとしても、そのことから直ちに対策を取る義務があるとはいえない。

エ なお、上記アないしウでは、原告らの主張を内容ごとに分けて説示したが、原告らの主張する各点を総合的に判断したとしても、被告らが亡Bとの各契約に基づく安全配慮義務を負わないとする判断は動かない。

(2)本件特約に基づく安全配慮義務違反について
 原告らは、被告らが本件ストッパー及び居室出入口の鍵の管理を被告らが行うことが前提とされていたことから、本件入居契約及び本件訪問介護利用契約には、黙示的に被告らが本件ストッパーを管理する旨の本件特約が付されていた旨主張する。
 確かに、本件ストッパーの鍵は、被告らが管理していたことが認められるが(認定事実(5))、本件ストッパーの鍵は共用部及び全ての居室に共通しているのであって(認定事実(5))、施設管理の観点からこの鍵の管理を被告らが行うのは当然であり、その鍵の管理の事実は、何ら本件ストッパーの使用に関する管理を被告らが引受けたことを示すものではない。したがって、被告らによる本件ストッパーの鍵の管理の事実をもって、本件ストッパー自体の管理を被告らが引き受けるという特約が成立した旨の原告らの主張も理由がない。

(3)本件委任契約に基づく安全配慮義務違反について
 原告らは、ストッパーが使用されていて、ストッパーの鍵が開かないことについて、原告X1が被告Y2職員に確認し、また、施設側職員から聞かされたのであるから、この時点で、被告らが安全対策のためにストッパーとその鍵について管理していることを認識し、それを承諾したものといえ、亡Bと被告らとの間で、ストッパー及びその鍵について黙示的に委任契約が成立した旨主張し、原告X1は、これに沿う供述をするとともに、原告X1及び原告X2は、被告らによって、常時、本件ストッパーが使用されていた旨供述する。

 しかし、原告X1と被告Y2職員との間で、上記やり取りがされたと認めるに足りる客観的な証拠はなく、かえって、本件ストッパーが作動していれば窓は15cmほどしか開かないところ、平成27年9月、本件居室の窓がそれ以上開いていると認められることからすると、本件ストッパーが日常的に作動されていた点についても、疑問が残るといわざるを得ない。また、仮にそのようなやり取りがなされたとしても、これをもって本件ストッパーの使用について亡Bと被告らとの間で管理を委任する黙示の合意が成立したとは到底いえない。
 したがって、被告らにおいて本件ストッパーの管理に関する本件委任契約に基づく義務違反がある旨の原告らの主張は理由がない。

(4)事務管理に基づく安全配慮義務違反について
 原告らは、被告らが義務なく本件ストッパー及びその鍵についての管理を開始したといえ、これらの管理について事務管理上の善管注意義務の一内容として、本件ストッパーを使用する義務を負っていた旨主張するが、上記(2)、(3)において説示したところによると、被告らが本件ストッパーの管理という事務を開始したということはできないから、本件ストッパーの管理について事務管理が成立するとはいえず、この点に関する原告らの主張も理由がない。

(5)以上のとおりで、争点〔1〕に関する原告らの主張はいずれも理由がない。

3 争点〔2〕((被告Y1関係)工作物責任の有無)について
 原告らは、本件窓が土地の工作物に当たり、本件ストッパーが使用されていない状況について、通常有すべき安全性を欠いていた旨主張する。
 しかし、そもそも本件ストッパーが使用されているか否かは、それを人為的に使用するか否かの問題であり、工作物自体の瑕疵の有無の問題ではない。したがって、争点〔2〕に関する原告らの主張も理由がない。

第4 結論
 よって、その余の争点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官 古谷健二郎 裁判官 武智舞子 加藤伸明)

別紙 当事者目録《略》
以上:7,348文字

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