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10㎝の段差付個室トイレに土地工作物責任を認めた地裁判決紹介

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令和 4年 9月 8日(木):初稿
○久しぶりに民法第717条工作物責任に関する令和4年1月18日横浜地裁判決(判時2520号53頁)関連部分を紹介します。

○店舗内の個室トイレに入室しようとした67歳の女性がトイレ内の段差に足を取られて転倒し傷害を負ったとして、同店舗の運営会社に対し約860万円の損害賠償を求め、過失相殺減額5割で認定損害金額半額約228万円の支払を認められました。

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主   文
1 被告は、原告に対し、227万8100円及びこれに対する平成30年1月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを4分し、その1を被告の、その余を原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

1 被告は、原告に対し、860万5441円及びこれに対する平成30年1月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言

第2 事案の概要等
1 本件は、原告(昭和25年×月×日生の女性、当時67歳)が、神奈川県大和市《番地等略》所在建物において被告が運営する「A店」(以下「本件店舗」という。)を訪れた際、同店舗内の男女兼用トイレ(以下「本件トイレ」という。)内で転倒し(以下「本件事故」という。)、右大腿骨頚部内側骨折の傷害(以下「本件傷害」という。)を負ったことは、被告の従業員(被用者)である同店店長の過失によるものであるとともに、本件トイレの設置上の瑕疵によるものであるとして、民法715条及び同法717条1項に基づき、治療費、休業損害、後遺障害慰謝料等合計860万5441円及びこれに対する本件事故日である平成30年1月20日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前の民法。以下同じ。)所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。

2 前提事実(掲記の各証拠、当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1)被告は、株式会社Bが所有する平成5年築の4階建てテナントビルの1階部分を賃借し、平成28年6月頃内装工事を実施し、同年7月1日、本件店舗を開店した。本件店舗内は、別紙図面《略》のとおり、約154平方メートルのワンフロア内が壁と扉でショップエリア(約110平方メートル)とバックヤード(約44平方メートル)とに仕切られ、客が立ち入るショップエリアは、店舗入口を入った部分にスロープが設置され、スロープを上がった床(以下「フロア」という。)は全体にタイルカーペットが敷かれたバリアフリー構造になっている。ショップエリアの奥、バックヤードへ続く扉の直前には、本件店舗の客も使用することが想定された本件トイレが1か所設置されており、同トイレまでの動線もタイルカーペットが敷かれたフロアの延長線となっている。

(2)本件トイレは男女兼用の個室である。入口には向かって右側に取っ手が付いている内開きの扉(開けたら自動で閉まるタイプの扉。以下「トイレ扉」という。)が設置されており、トイレ扉を押して開くと、対面右にシャワートイレの便器が1機設置されている。本件トイレ内のトイレ扉がおよそ90度開閉する範囲の床面はフロアと同一平面の長方形(いわゆる土間のような形状。以下「トイレ土間」という。)であるが、トイレ土間の一角(トイレ扉が取り付けられている角の対角)を挟んだ2辺には約10cmの垂直の段差(以下「本件段差」という。)があり、その奥の便器,手洗器、鏡及びベビーベッド等が設置されているトイレの床(以下「トイレ床」という。)は本件段差の約10cmの分トイレ土間よりも高い段にあるため、トイレ利用者は、トイレ扉を開けて便器等で用を足すまでには、本件段差を登ってトイレ床に上がる必要がある。トイレ床のカーペットはやや黄味がかったベージュ色をしており、白色気味のトイレ土間のカーペットよりも濃色である。本件段差の段鼻には、2辺を縁取るようにシルバー色のすべり止め(以下「本件すべり止め」という。)が張られている。
 本件事故当時、本件トイレ入口付近等のどこにも、本件トイレ内に本件段差があることについて注意喚起する旨の注意書きは掲示されていなかった。 

(3)原告は、平成30年1月20日、携帯電話の手続のため、本件店舗を訪れた。これは、前日に引き続き2度目の訪問であった。
 原告は、それまで本件トイレを使用したことがなかったため、被告従業員のC氏(本件店舗の店長。以下「C店長」という。)に対しトイレの場所を尋ね、本件トイレに向かった。その際、C店長は、原告に対し、本件トイレ内の本件段差のことについて口頭等での注意喚起を何もしなかった。
 その後、原告は、本件トイレ内で転倒し(本件事故)、救急車で社会医療法人社団D病院(以下「D病院」という。)へ救急搬送されて入院し、右大腿骨頚部内側骨折(本件傷害)と診断され、同月23日、手術(人工骨頭置換術)を受けた。

3 争点及びこれに関する当事者の主張

         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 被告の使用者責任(民法715条1項)(争点(1))について

 本件店舗においては、後記2のとおり本件トイレが安全性を欠く構造をしていたとはいえ、開店から1年半余りの間に、本件事故と同程度の転倒事故が起こったことを認めるに足りる証拠はないことなどに鑑みると、本件トイレ内の本件段差について注意喚起をするような注意書きを掲示せず、トイレの場所を聞いた原告に対して注意喚起をしなかったC店長に、原告に対する損害賠償義務を負わせるまでの不法行為が成立するとはいえない。
 したがって、原告の民法715条1項に基づく請求には理由がない。

2 被告の土地工作物責任(民法717条1項)(争点(2))について
 原告は、本件トイレについて、通常備えているべき安全性が欠けており、民法717条1項にいう土地の工作物の設置に瑕疵があるというべきであると主張するため、以下検討する。

(1)本件トイレの配置、構造等は前提事実(1)及び(2)のとおりであるところ、本件トイレに入ろうとする者からすると、トイレ扉が内開きのため、扉を開けて中に入った者は視野が狭まり本件トイレ内を俯瞰することが困難なため、そもそも本件段差を認識しづらい構造である上に、利用者がトイレ扉を必要な分だけ開けて身体をトイレ内に入れトイレ扉を閉めて施錠をしようと考えると、入って右側のスペースに身体を逃がす動きを取るのが自然であるが(なお、トイレ扉は開けたら自動で閉まるタイプであるため、なおのこと利用者としてはこのような動きとなりやすい。)、そう考えて本件トイレ内を右に進もうとすると、動線上にはすぐ足下に本件段差があることとなり、尚更に本件トイレ内に踏み入れた足を本件段差に取られる危険性が高い構造であるというべきである。

 また、トイレ利用者は、差し迫った便意を催しているか否かにかかわらず、目的物であるトイレの便器に視線が行きがちであるところ、本件トイレ内の配置上、トイレ扉を開けるとまず目に飛び込んでくるのが対面右に設置されたシャワートイレの便器であるため、心理的にも、すぐ足下にある本件段差を認識できない危険性があるといえる。

さらに、本件店舗のショップエリア内のフロアは入口付近のスロープを除いて全体に平坦なバリアフリー構造になっており、トイレ土間まではフロアと同一平面上にある(トイレ扉がフロアと同一平面に設置されている)ことも、トイレ利用者をして、トイレ床までもバリアフリー構造で同一平面であるとの錯覚を抱かせ、本件段差を認識できない可能性を高めさせているといえる。

 加えて、本件店舗は老若男女が訪れる施設であるところ、一般に、高齢者の視野はそうでない者のそれよりも狭まる傾向にあることからすれば、そういった利用者にとって、本件段差を認識できない可能性はさらに高まるといえる。

 以上からすれば、本件トイレは、その構造や利用者の心理等の要因により、利用者が本件段差を認識できない可能性も十分に認められるというべきであるところ、10cm程度の段差でも、不意に足を取られて転倒すれば重大な傷害結果を伴う事故に発展する危険性は優に認められる。

(2)これに対し、被告は、本件段差は本件すべり止めなどにより、利用者にとって一見して明らかであるなどと主張する。確かに、トイレ土間とトイレ床とは若干色彩が異なる上に、本件段差の段鼻にはシルバー色の本件すべり止めが張られている事実が認められる。

しかしながら、トイレ土間とトイレ床の色彩の違いは微妙である上、内開きのトイレ扉を開けて本件トイレ内に入ろうとしている者にとって足下直下のトイレ扉が開閉する範囲にしかないトイレ土間やトイレ土間を縁取るような位置に張られた本件すべり止めは視界に入らない可能性もあることから、そもそもこれらの色彩の違いが本件段差に気づく端緒とならないことも十分に考えられる。

被告はトイレ扉を開けた状態で本件トイレ外側からトイレ内を撮影した写真を基に本件段差が目立つと評価するようであるが、前示のとおり、本件トイレを使用する者がそのような視点で本件トイレ内を俯瞰的に見ることは困難である(被告自身が主張するとおりトイレ扉は自動で閉まるタイプであるから、なおさらである。)から、本件段差が目に入りやすいと評価することはできない。本件トイレを初めて利用する者にとってはトイレ扉を開けるまで中の構造は未知のものであることから、まず目に飛び込んでくる対面の便器に目を奪われることによって足下の本件段差部分が視野に入らないことはむしろ自然ともいえる。

(3)現に、本件事故当時67歳であった原告は、トイレ扉を右手で開けて対面右側にある便器を目にしながら本件トイレ内に入ろうとした一歩目で本件段差に足を取られて突然ばたんと転倒した記憶である旨供述しているが、これは上記のような構造・心理等に起因する本件トイレの危険性に合致した転倒態様であるといえるため、同供述の信用性は高いというべきであるところ、原告はこのような転倒により右大腿骨頚部内側骨折という重大な傷害を負ったのであるから、そのような本件トイレは、一般的にも危険性が高いというべきである。

 被告は、原告の本件事故に至る経緯に係る供述には以下のように不自然な点があり、客観的証拠との矛盾もあるとして、実際の事故態様は、原告がトイレを利用後本件段差を降りる際に発生したものである可能性が高いと主張するが、その指摘は以下のとおりいずれも失当である。
 まず、原告が転倒後に尿意を訴えたり尿失禁をしていたりしていた事実を認めるに足りる証拠がないことは被告が指摘するとおりではあるものの、この点は、元々原告は本件トイレに向かった際に差し迫った尿意を催していなかったとの供述に合致するところ、そのような供述が不自然であるとまではいえない。

また、原告の視線が便器に集中し足下に行かなかったという供述が不自然であるとの指摘は、本件事故当時67歳という原告の年齢や、たとい差し迫った尿意を催していなかったとしても本件トイレに向かった目的が便器に座って用を足すことであったことなどからすれば、原告の供述はむしろ自然であるというべきであり、失当である。

さらに、本件トイレに入ろうとした一歩目でつまずくこと自体は、本件トイレの構造等から想定される前示のような利用者の動線からして不自然とはいえないし、転倒後にトイレ扉が閉まってきて挟まれたりしたことはなかった旨の原告の供述も、扉が閉まって困った記憶はないという供述にとどまっていることや、右大腿骨を骨折するような転倒をした直後の原告においてその点について正確に記憶できたとは想定しがたいこと、原告の供述による転倒態様によっても、本件傷害の部位等も合わせて考えれば、原告は右足を本件段差に取られてトイレ床の上に身体の右側を下にして倒れこんだものと考えるのが自然であるところ、そうであればトイレ扉が自動的に閉まる際には原告はトイレ床の上におり支障とならなかったはずであることなどに鑑みれば、特段不自然とはいえない。

 逆に、仮に被告が主張するように本件段差を降りる際の転倒であればトイレ扉の鍵はまだ解錠されず施錠されていたと考えるのが自然であるが、被告自身、本件トイレの方向から原告の声が聞こえたため被告従業員が本件トイレに向かいトイレ扉を開けたところ原告が横たわっていたと主張しているところ、これはトイレ扉が施錠されていなかったことが前提となっており、自身の主張と矛盾している(むしろ、本件トイレに向かった原告が入ろうとした際につまずいて本件事故が起こったため、トイレ扉を施錠する間もなかったという経緯に整合的である)上に、仮に被告が主張するような転倒態様であれば、駆け付けた被告従業員においてトイレ扉を開けようとしてもトイレ土間に転倒している原告がいて支障が生じたはずであるが、そのような事態が生じたことについて、当時冷静であったはずの被告側から主張も立証もないことは、被告の主張が失当である証左であるというべきである。

         (中略)

(5)以上によれば、本件トイレは、本件事故当時、客観的にみて、土地の工作物が通常備えているべき性状、設備、すなわち安全性を欠いており、民法717条1項にいう設置に瑕疵がある土地の工作物であったというべきであるから、本件トイレの占有者である被告としては、本件店舗についてバリアフリー法等の適用がないとしても、本件トイレの利用者が本件段差で転倒し傷害を負うような結果とならないよう、トイレ扉等本件トイレ利用者の目に入る場所に本件段差についての注意書きを張ったり、本件トイレに向かう利用者に口頭で注意喚起をしたりするなどの、適切なオペレーションをすべきであった(そのような適切なオペレーションが尽くされていれば、同条項の「占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたとき」といい得る)にもかかわらず、本件で、被告においてそのようなオペレーションをしていたことを認めるに足りる証拠はない(そればかりか、本訴において、被告は、そのようなオペレーションは不要である旨主張し続けている)のであるから、被告には同条項による土地工作物責任が認められ、原告に生じた損害を賠償する責任がある。

3 原告の過失相殺について
 本件トイレにおいて、約1年半余りの間に、本件事故と同程度の転倒事故が起こったことを認めるに足りる証拠はないこと(もっとも、トイレは閉鎖的な空間であって、利用客の動静は外からはうかがい知れないところ、転倒して身体の一部をぶつけた程度であったり、転倒しそうになって踏みとどまったりしただけでは、利用客が逐一被告に申告しないことも考えられることからすれば、軽微な転倒事故やヒヤリハット事例が全く発生しなかったとまでは認めることができない。)などからすれば、原告は、本件トイレ内に入る際、足下の注意がおろそかであったきらいもあるのであるから、原告にも過失があるというべきであり、その過失は、損害の公平な分担という観点から本件に顕れた事情を総合的に勘案して、5割とするのが相当である。

         (中略)

5 以上によれば、原告の請求は、被告に対し、民法717条1項に基づき、損害賠償金227万8100円及びこれに対する本件事故発生日である平成30年1月20日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので一部認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。(裁判官 島田英一郎)
以上:6,481文字

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