令和 4年 8月25日(木):初稿 |
○「不法行為損害賠償債務遅延損害金民法405条適用否認最高裁判決紹介」の続きで、その第一審平成30年3月22日東京地裁判決(判タ1472号234頁)関連部分を紹介します。 被告会社Y1の株主であった原告が、被告会社Y1の違法な新株発行等により自己の保有する株式の価値が低下して損害を被ったとして、被告会社Y1の代表取締役である被告Y2に対しては民法709条等に基づき、被告会社Y1に対しては会社法350条等に基づき、約7億8543万円の損害賠償金及び内金約7億2063万円に対する遅延損害金の連帯支払を求めました。 ○これに対し一審平成30年3月22日東京地裁判決は、約5億7469万円と内約5億2769万円に対する平成27年6月26日から支払済みまで、と内4700万円に対する平成25年3月28日から支払済みまでそれぞれ年5分の割合による金員を支払を被告Y1・Y2に命じました。 ○主な論点は、新株発行の違法性とこれによる損害で、判決文は相当長文ですが、判決の結論と民法第405条の適用についての部分のみ紹介します。判決は、原告は,平成27年6月25日,被告らに対し,弁護士費用を除く損害賠償請求権につき発生した遅延損害金を元本に組み入れる意思表示をしているところ,不法行為に基づく損害賠償債務は,損害の発生と同時になんらの催告を要することなく遅滞に陥るものと解するのが相当であり、民法405条に基づき,当該損害賠償請求権4億7440万4550円につき本件新株発行がされた日である平成25年3月28日から平成27年6月25日までに生じた年5分の遅延損害金5328万9278円(=4億7440万4550円×0.05×(2年+90日/365日))を元本に組み入れると、405条適用を当然の前提として、結論だけ示しています。 ****************************************** 主 文 1 被告らは,原告に対し,連帯して,5億7469万3828円並びにうち5億2769万3828円に対する平成27年6月26日から支払済みまで及びうち4700万円に対する平成25年3月28日から支払済みまでそれぞれ年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用はこれを10分し,その7を被告らの負担とし,その余を原告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告らは,各自,原告に対し,7億8543万2784円並びにうち7億2063万8352円に対する平成27年6月26日から支払済みまで及びうち6479万4432円に対する平成25年3月28日から支払済みまでそれぞれ年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は,被告会社の代表取締役である被告Y2が,平成25年3月28日に被告会社の募集株式の発行を行い,同年5月13日にその発行する普通株式を全部取得条項付株式とする旨の決議を経た上でその取得を行ったところ,被告会社の株主であった原告が,主位的にこれら一連の行為が,原告の保有する株式価値を希釈化した後に全部取得を行うことで低廉な対価で原告を被告会社から追い出すという著しく不当な目的でされた違法な行為であって,仮にこれら一連の行為が違法なものといえないとしても,予備的に上記募集株式の発行が同様に違法な行為であって,これにより原告は保有していた被告会社株式の価値が低下して損害を被ったと主張して,被告Y2に対しては不法行為又は会社法429条1項による損害賠償請求権に基づき,被告会社に対しては会社法350条又は被告Y2との共同不法行為による損害賠償請求権に基づき,各自,7億8543万2784円及びうち7億2063万8352円に対する遅延損害金の元本組入れをした日の翌日である平成27年6月26日から,6479万4432円に対する上記発行の日(払込期日)である平成25年3月28日から,それぞれ支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 (中略) 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 (中略) 3 争点(2)(本件新株発行及び本件株式取得が一連の行為として違法か)について (中略) (4)原告が損害として請求する弁護士費用については,上記の原告の損害額に加え,本件に現れた諸般の事情を考慮し,原告が本件損害賠償請求に要した弁護士費用として,同損害額の約1割に相当する4700万円を本件新株発行と相当因果関係がある損害と認める。 (5)そして,前記前提事実(8)のとおり,原告は,平成27年6月25日,被告らに対し,弁護士費用を除く損害賠償請求権につき発生した遅延損害金を元本に組み入れる意思表示をしているところ,不法行為に基づく損害賠償債務は,損害の発生と同時になんらの催告を要することなく遅滞に陥るものと解するのが相当である。よって,民法405条に基づき,当該損害賠償請求権4億7440万4550円につき本件新株発行がされた日である平成25年3月28日から平成27年6月25日までに生じた年5分の遅延損害金5328万9278円(=4億7440万4550円×0.05×(2年+90日/365日))を,元本に組み入れる。 (6)したがって,被告Y2は,原告に対し,民法709条に基づき,5億7469万3828円(=4億7440万4550円+5328万9278円+4700万円)並びにうち5億2769万3828円に対する平成27年6月26日から支払済みまで,うち4700万円に対する平成25年3月28日から支払済みまでそれぞれ民法所定年5分の割合による金員を支払う義務を負う。 7 被告らの損害賠償責任について 以上によると,被告Y2は,被告会社の代表取締役として行った違法な本件新株発行により,原告に対して原告保有株式の経済的価値の希釈化という前記の損害を与え,被告会社に対する任務懈怠が認められるから,不法行為ないし会社法429条1項の責任を負い,被告会社もまた,原告に対し,会社法350条に基づき,本件新株発行による損害を賠償する責任を負い,被告Y2の損害賠償責任とは不真正連帯の関係となる。 8 結論 以上により,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求は主文第1項の限度で理由があるからこれを認容し,その余の部分については理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について民訴法64条本文,61条を,仮執行の宣言につき同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第8部 裁判長裁判官 岩井直幸 裁判官 千葉健一 裁判官 太田慎吾 以上:2,777文字
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