令和 3年12月 7日(火):初稿 |
○「パワハラ行為一部に消滅時効を認めた地裁判決紹介1」を続けて、パワハラ行為一部に消滅時効を認めた平成30年8月7日岡山地裁判決(LEX/DB)を紹介します。 ○パワーハラスメント被害者である准教授は、パワハラ具体的行為を本件行為1ないし11として、本件各行為は,加害者A及びBらによって,強固な悪意に基づき,間断なく反復継続して行われた一連一体のものであり,これにより生じた損害も不可分一体のものであるから,本件行為1ないし10についても,消滅時効の起算点は,本件行為12を知った時とすべきである旨主張しました。 ○これに対し判決は、A及びBの各行為は,必ずしも一連一体のものとは認められないから,不可分一体のものとはいえず,本件各行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は,准教授が,本件行為1ないし10及び12の各行為について,加害者及び損害を知った時から個別に進行すると解するのが相当であるから,准教授の被告に対する本件行為1ないし10を原因とする国家賠償請求権は,時効により消滅したというべきであるとしました。 ******************************************** 主 文 1 被告は,原告に対し,22万円及びこれに対する平成27年10月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,これを10分し,その9を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告は,原告に対し,550万円及びこれに対する平成27年10月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 本件は,被告法人の設置,運営する岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の准教授である原告が,いずれも同研究科の教授であったZ3(以下「Z3」という。)及びZ4(以下「Z4」という。)による別紙1中の項番1ないし10及び12のハラスメント行為(以下「本件各行為」といい,項番1の行為を「本件行為1」,項番2の行為を「本件行為2」などという。)により精神的苦痛を被ったとして,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料等550万円及びこれに対する違法行為後である訴状送達の日の翌日の平成27年10月29日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 争いのない事実等 (1)当事者 ア 原告は,平成20年10月から,岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(以下「医歯薬学総合研究科」という。)において,准教授として勤務している者である。 イ Z3は,平成10年11月1日付けで岡山大学の教授に採用され,平成23年4月1日付けで医歯薬学総合研究科系長(薬学部長)及び医歯薬学総合研究科副研究科長に就任し,平成26年9月26日付けで上記の薬学部長及び副研究科長の職を解任された者である。 ウ Z4は,平成20年10月から,医歯薬学総合研究科において,教授として勤務していた者である。 エ 被告は,岡山大学を設置し,管理する法人である。 (2)本件行為1 Z4は,平成24年5月23日,薬学部の教員らを宛先に含め,原告に対し,「広報委員会を公然と批判されるので受けて立ちます」,What‘s Newへの掲載を「断ったのは,(中略)学術会議などで公認団体でない私的研究会に分類される会議の賞を載せようとしたり,学生が取った賞をあたかも自分の賞のように偽ったことが分かったからです。」,「詐欺的行為は困るという意味です。全く信用していません。ですから先生(中略)の宣伝などはブラックリストです。」,「過去にZ1先生が広報委員会の公金で自身のDVDを作成する暴挙をされたことなど,犯罪行為に近いことは枚挙にいとま無く,全く信用してません。」等と記載したメールや,「What‘s Newの掲載基準に関してお知らせしておきます。」,「過去に以下のようなことが一部不埒,不見識,非常識な教員から掲載を求められた事例があり,掲載を削除,拒否した経緯があります。ご本人は認識されていると思いきや,いまだ盗っ人猛々しく勝手な主張を繰り返していル殊(ママ)が判明しました。」等と記載したメールを送信した(甲1)。 (3)本件行為2 (中略) 2 争点及び当事者の主張 本件の争点は,本件各行為の有無及び違法行為該当性(争点1),消滅時効の成否(争点2),損害の発生及び額(争点3)である。 (中略) (2)争点2について (被告の主張) 原告が本件各行為を知った時から消滅時効が進行するところ,当該各時点から3年経過した行為については,消滅時効が完成しているから,これを援用する。 原告は,被告が原告に対してZ4及びZ3によるハラスメント行為を認定した旨を連絡したことをもって,被告が原告に対する国家賠償法上の責任があることを承認(民法147条3号)した旨主張するが,上記連絡行為は,その認定の存在を表示する行為に過ぎないものであり,ハラスメント被害者が国家賠償法の権利を有しているか否かに関する認識を表示する行為とはいえないから,時効の中断は認められない。 また,原告は,ハラスメント防止委員会によるハラスメント認定に時間を要したことから,被告が消滅時効を援用することが信義則に違反する旨主張するが,同委員会の認定がされたのは平成26年7月29日であるところ,この時点では,本件各行為全てについて消滅時効が完了しておらず,原告が時効中断措置を講じる余裕は十分にあったし,そもそも,ハラスメント委員会によるハラスメント認定の有無は,原告の権利行使を何ら妨げるものではない。 (原告の主張) 本件各行為は,それぞれが別個独立に行われたものではなく,Z4及びZ3の一貫した強固な悪意に基づいて行われたものである。したがって,本件各行為は,平成24年5月から同年11月までの間,Z4,Z3及びZ6により間断なく反復継続して行われた一連一体の行為と評価されるべきであり,これにより原告に生じた精神的損害も不可分のものであるから,消滅時効の起算点は,別紙1の最終行為時である平成24年11月12日とされるべきである。 仮に,消滅時効の起算点が,原告が本件各行為を知った時であるとしても,被告のハラスメント防止委員会は,平成26年7月29日,本件各行為がハラスメント行為である旨認定し,被告がこれを原告に伝えることは,被告が国家賠償法上の責任を認めたに等しいというべきであるから,これをもって自らの債務を承認したものといえる。また,ハラスメント防止委員会の審理は,平成24年11月5日の申立てから平成26年7月29日のハラスメント認定までの間,1年9か月を要しており,原告は,事実上,ハラスメント防止委員会の判断を待った上で訴訟提起をせざるを得なかったのであるから,被告が消滅時効を援用することは,信義則上許されない。 (中略) 第3 当裁判所の判断 1 前提事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。 (中略) 3 争点2 (1)証拠(甲36,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件行為1ないし10については,各行為が行われた後の間もない頃に各行為が行われたことを知り,本件行為12については,平成24年10月18日頃知ったことが認められるから,本件行為1ないし10については,原告がそれらの行為を知った時から3年が経過した後に,本件訴えが提起されたことになる。 (2)この点,原告は,本件各行為は,Z4,Z3及びZ6によって,強固な悪意に基づき,間断なく反復継続して行われた一連一体のものであり,これにより生じた損害も不可分一体のものであるから,本件行為1ないし10についても,消滅時効の起算点は,本件行為12を知った時である平成24年10月18日とすべきである旨主張する。 しかし,Z4及びZ3の各行為は,必ずしも一連一体のものとは認められないから,これにより原告が被る精神的苦痛も,本件行為1ないし10及び12に対応して,個別に把握することができ,不可分一体のものとはいえない。したがって,本件各行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は,原告が,本件行為1ないし10及び12の各行為について,加害者及び損害を知った時から個別に進行すると解するのが相当である。 (3)以上によれば,原告の被告に対する本件行為1ないし10を原因とする国家賠償請求権は,時効により消滅したというべきである。 4 争点3 (1)本件行為12が,原告の外部に対する信用を毀損する行為であり,原告が本件研究プロジェクトに参加することの可否を左右する可能性が十分にあったことや,本件研究プロジェクトが最終的には実施されたものの,上記1(14)のとおり,研究期間が当初予定されていた7か月間から約4か月間に短縮されたことに加え,本件行為12に到った経緯等に鑑みれば,原告の精神的苦痛を慰謝するための慰謝料としては,20万円が相当と認める。 (2)本件事案の難易,請求額,認容額及びその他諸般の事情を考慮すれば,弁護士費用は2万円と認めるのが相当である。 5 結論 以上によれば,原告の請求は,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権として22万円及びこれに対する違法行為後の訴状送達の日の翌日である平成27年10月29日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 岡山地方裁判所第1民事部 裁判長裁判官 善元貞彦 裁判官 松永晋介 裁判官 後藤沙彩 以上:4,016文字
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