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弁護士職務基本規程違反訴訟行為への異議を認めない最高裁決定紹介

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令和 3年11月15日(月):初稿
○相手方らを原告とし、抗告人を被告とする訴訟(本件訴訟)において、相手方らが、A弁護士及びB弁護士らが抗告人の訴訟代理人として訴訟行為をすることは弁護士職務基本規程(平成16年日本弁護士連合会会規第70号)57条に違反すると主張して、B弁護士らの各訴訟行為の排除を求めました。A弁護士は,平成20年から相手方企業内弁護士として所属して,平成30年2月から令和元年10月までの間,本件訴訟の提起のための準備を担当していたので、職務基本規程第27条1号に該当し同57条で職務を行うことができないとの理由です。

○関連する弁護士職務基本規程57条と27条は以下の通りです。
第57条(職務を行い得ない事件)
所属弁護士は、他の所属弁護士(所属弁護士であった場合を含む)が、第27条又は第28条の規定により職務を行い 得ない事件については、職務を行ってはならない。ただし、職務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りでない。
第27条(職務を行い得ない事件)
弁護士は、次の各号のいずれかに該当する事件については、その職務を行ってはならない。ただし、第三号に 掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。
一 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件


○第一審令和2年3月30日東京地裁決定(判時2491号42頁)は本件規程57条ただし書の「職務の公正を保ち得る事由」があり、B弁護士らの訴訟行為が本件規程57条に違反しないとして申立を却下し、原審(抗告審)令和2年8月3日知財高裁決定(判時2491号32頁)は、基本事件が本件事務所に所属していたA弁護士が本件基本規程27条1号により職務を行い得ない事件に該当するため本件基本規程57条に違反し、B弁護士らは訴訟代理をしてはならないとしていました。

○これに対し、弁護士職務基本規程57条に違反する訴訟行為については、相手方である当事者は、同条違反を理由として、これに異議を述べ、裁判所に対しその行為の排除を求めることはできないというべきであり、これと異なる原審の判断には、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとし、原決定を破棄し、本件申立てを却下した原々決定は、結論において是認することができるとした令和3年4月14日最高裁決定(許可抗告審、裁判所時報1766号1頁)全文を紹介します。

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主   文
原決定を破棄し,原々決定に対する抗告を棄却する。
抗告手続の総費用は相手方らの負担とする。

理   由
 抗告代理人○○○○,同○○○の抗告理由について
1 本件は,相手方らを原告とし,抗告人を被告とする訴訟(以下「本件訴訟」という。)において,相手方らが,B弁護士及びC弁護士(以下,併せて「B弁護士ら」という。)が抗告人の訴訟代理人として訴訟行為をすることは弁護士職務基本規程(平成16年日本弁護士連合会会規第70号。以下「基本規程」という。)57条に違反すると主張して,B弁護士らの各訴訟行為の排除を求める事案である。

2 記録によれば,本件の経緯等は次のとおりである。
(1)基本規程は,日本弁護士連合会が,弁護士の職務に関する倫理と行為規範を明らかにするため,会規として制定したものである。基本規程57条は,本文において,共同事務所の所属弁護士は,他の所属弁護士(所属弁護士であった場合を含む。)が,基本規程27条1号の規定により職務を行い得ないものとされている「相手方の協議を受けて賛助し,又はその依頼を承諾した事件」等については,職務を行ってはならないと定め,ただし書において,職務の公正を保ち得る事由があるときは,この限りでないと定めている。

(2)相手方らは,令和元年11月20日,本件訴訟を東京地方裁判所に提起した。本件訴訟は,発明の名称を「HIVインテグラ―ゼ阻害活性を有する多環性カルバモイルピリドン誘導体」とする特許の特許権者である相手方らが,抗告人によって上記特許に係る特許権が侵害されている旨主張して,抗告人に対し,不法行為に基づく損害賠償を求めるものである。

(3)A弁護士は,平成20年から相手方S株式会社に組織内弁護士として所属し,平成30年2月から令和元年10月までの間,本件訴訟の提起のための準備を担当していた。A弁護士は,同年12月31日,相手方Sを退社し,令和2年1月1日,B弁護士らの所属するB国際総合法律事務所(以下「本件事務所」という。)に入所した。

(4)B弁護士らは,抗告人から令和2年1月8日付け委任状の交付を受けて本件訴訟の訴訟代理人となった。

(5)相手方らは,令和2年2月7日,東京地方裁判所に対し,本件事務所の所属弁護士であるA弁護士は基本規程27条1号の規定により本件訴訟につき職務を行い得ないのであるから,本件訴訟においてB弁護士らが抗告人の訴訟代理人として訴訟行為をすることは,基本規程57条に違反すると主張して,B弁護士らの各訴訟行為の排除を求める申立て(以下「本件申立て」という。)をした。なお,A弁護士は,同月10日,本件事務所を退所した。

3 原審は,次のとおり判断して,本件訴訟におけるB弁護士らの各訴訟行為を排除する旨の決定をした。
(1)弁護士法25条1号に違反する訴訟行為については,相手方である当事者は,これに異議を述べ,裁判所に対しその行為の排除を求めることができるものと解される(最高裁昭和35年(オ)第924号同38年10月30日大法廷判決・民集17巻9号1266頁,最高裁平成29年(許)第6号同年10月5日第一小法廷決定・民集71巻8号1441頁参照)。

(2)弁護士法25条1号は,先に弁護士を信頼して協議又は依頼をした当事者の利益を保護するとともに,弁護士の職務執行の公正を確保し,弁護士の品位を保持することを目的とするものである。そして,基本規程57条が,共同事務所の所属弁護士は,他の所属弁護士等が基本規程27条1号の規定により職務を行い得ない事件について職務を行ってはならないとするのも,これと同様の目的に出たものである。そうすると,弁護士法25条1号の場合と同様,基本規程57条に違反する訴訟行為についても,相手方である当事者は,これに異議を述べ,裁判所に対しその行為の排除を求めることができるものと解するのが相当である。

(3)本件訴訟におけるB弁護士らの各訴訟行為について,職務の公正を保ち得る事由があるものとは認められず,同各訴訟行為は基本規程57条に違反する。

4 しかしながら,原審の上記3(2)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 基本規程は,日本弁護士連合会が,弁護士の職務に関する倫理と行為規範を明らかにするため,会規として制定したものであるが,基本規程57条に違反する行為そのものを具体的に禁止する法律の規定は見当たらない。民訴法上,弁護士は,委任を受けた事件について,訴訟代理人として訴訟行為をすることが認められている(同法54条1項,55条1項,2項)。

 したがって,弁護士法25条1号のように,法律により職務を行い得ない事件が規定され,弁護士が訴訟代理人として行う訴訟行為がその規定に違反する場合には,相手方である当事者は,これに異議を述べ,裁判所に対しその行為の排除を求めることができるとはいえ,弁護士が訴訟代理人として行う訴訟行為が日本弁護士連合会の会規である基本規程57条に違反するものにとどまる場合には,その違反は,懲戒の原因となり得ることは別として,当該訴訟行為の効力に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。

 よって,基本規程57条に違反する訴訟行為については,相手方である当事者は,同条違反を理由として,これに異議を述べ,裁判所に対しその行為の排除を求めることはできないというべきである。

5 以上と異なる原審の判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。上記の趣旨をいう論旨は理由があり,その余の論旨につき判断するまでもなく,原決定は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば、本件申立てを却下した原々決定は,結論において是認することができるから,原々決定に対する抗告を棄却することとする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官草野耕一の補足意見がある。 

 裁判官草野耕一の補足意見は,次のとおりである。
 本件に関する私の見解は法廷意見記載のとおりであるが,これはB弁護士らがA弁護士の採用を見合わせることなく本件訴訟を受任したことが弁護士の行動として適切であったという判断を含意するものではない。

 ある事件に関して基本規程27条又は28条に該当する弁護士がいる場合において,当該弁護士が所属する共同事務所の他の弁護士はいかなる条件の下で当該事件に関与することを禁止または容認されるのかを,抽象的な規範(プリンシプル)によってではなく,十分に具体的な規則(ルール)によって規律することは日本弁護士連合会に託された喫緊の課題の一つである。日本弁護士連合会がこの負託に応え,以って弁護士の職務活動の自由と依頼者の弁護士選択の自由に対して過剰な制約を加えることなく弁護士の職務の公正さが確保される体制が構築され,裁判制度に対する国民の信頼が一層確かなものとなることを希求する次第である。
(裁判長裁判官 草野耕一 裁判官 菅野博之 裁判官 三浦守 裁判官 岡村和美)
以上:3,913文字

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