令和 3年 9月18日(土):初稿 |
○共有不動産についてたまに共有物分割訴訟を依頼されることがあります。不動産共有物分割訴訟は、共有当事者で分割方法について協議が整わないときに訴訟提起になりますが、方法としては①現物分割、②代償分割、③競売売得金分割の順になります。共有不動産に建物が含まれる場合は、現物分割は、現実的では無く、代償分割か、競売になります。 ○42年の弁護士生活で、実際共有物分割訴訟を提起した例は、ここ10年程では3件ほどしかありません。それ以前は記憶がありません。ここ10年内に提起した3件は、いずれも結論は、代償分割の和解で終了し、競売まで至ったものはありません。 ○共有土地について、主位的請求で現物分割を求めたところ、現物分割は,土地の分筆ないし合筆,更には新たな道路の設置を前提とするものであり,それらのために必要な手続等を考慮すると,判決をもって,現物で分割するというのは実現が困難として、予備的請求の競売での代金分割を認めた令和元年10月31日東京地裁判決(LEX/DB)を紹介します。建物(居宅2棟と3階建てアパート1棟)について、「原告及び被告らが各4分の1の割合により,それぞれ分割せよ。」とされていますが、どうやって分割するのか疑問です。 民法第258条(裁判による共有物の分割) 共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる。 2 前項の場合において、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。 ******************************************** 主 文 1 原告の主位的請求を棄却する。 2 別紙物件目録(1)及び同(2)記載の各土地及び各建物は,これを競売に付し,その売得金より競売手続費用を控除した金額を,別紙物件目録(1)記載1ないし10の各土地については原告が51.25パーセント及び被告らが各16.25パーセントの割合により,別紙物件目録(2)記載1ないし3の各建物については原告及び被告らが各4分の1の割合により,それぞれ分割せよ。 3 訴訟費用はこれを4分し,その1を原告の負担とし,その余を被告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 主位的請求 (1)別紙物件目録(1)記載1ないし10の土地を次のとおり分割する。 ア 別紙分割図面記載のZDD9,ZKK68,ZDD8,ZDD7,ZDD6,Z14,ZKK74,ZKK75,ZKK76,Z72,ZDD4,Z39,ZZ7,ZZ2,MG1,J5及びZDD9を各結んだ範囲の土地を原告の単独所有とする。 イ 別紙分割図面記載のJJ9,ZA2,ZDD9,J5,J3,J2,J1,JJ21及びJJ9を各結んだ範囲の土地を被告bの単独所有とする。 ウ 別紙分割図面記載のJ10,J11,J12,J13,J14,Z37,ZDD10,ZGP1,Z26,JJ20及びJ10を各結んだ範囲の土地を被告cの単独所有とする。 エ 別紙分割図面記載のJ13,MG1,ZZ2,ZZ7,Z39,ZDD5,Z37,J14及びJ13を各結んだ範囲の土地を被告dの単独所有とする。 オ 別紙分割図面記載のJ1,J2,J3,J5,MG1,J13,J12,J11,J10及びJ1を各結んだ範囲の土地を原告及び被告らの各4分の1の割合での共有とする。 カ 別紙分割図面記載のZ26,ZGP1,ZDD10,P4,P3及びZ26を各結んだ範囲の土地を原告及び被告らの各4分の1の割合での共有とする。 2 予備的請求 主文同旨 第2 事案の概要 1 本件は,共有となっている土地及び建物の共有持分を有する原告が,その他の共有持分を有する被告らを相手方として,共有物分割を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがない事実) (1)e(以下「e」という。)は,平成18年11月3日当時,別紙物件目録(1)記載1ないし10の土地(以下「本件土地」という。)及び別紙物件目録(2)記載1ないし3の建物(以下「本件建物」といい,本件土地と併せて以下「本件不動産」という。)を所有していた。 (2)eは,平成18年11月3日,死亡した。 f(以下「f」という。)は,eの妻であり,原告及び被告らは,eとfの子である。 eの遺産についての遺産分割協議の結果,本件建物についてはfが単独で所有権を取得し,本件土地については,fが100分の65,原告が100分の35を各共有持分とする共有となった。 (3)fは,平成24年4月10日,死亡した。 本件土地についての100分の65の持分及び本件建物全部が相続財産となって,原告及び被告らで遺産分割協議を行い,遺産分割調停に進んだが,話合いでの解決には至らず,審判により,法定相続分での共有となった。 すなわち,本件土地については,原告が51.25パーセント,被告らが各16.25パーセントを,本件建物については,原告及び被告らがそれぞれ4分の1を共有持分とする共有となった。 3 争点及び争点に関する当事者の主張 本件における争点は,本件土地について,現物分割が可能か否かである。 (1)原告の主張 10筆の土地それぞれについて建物の建築が可能なように現物分割する必要はなく,分割後,原告及び被告らそれぞれの取得土地が複数であれば,それを合筆等することで,最終的に建築基準法43条1項に定められた接道義務をみたすことで,原告及び被告らは建物を建築することが可能な土地を得ることができ,十分に目的を達することが可能である。 原告提示の別紙分割図面のとおり現物分割することは,共有物の性質・形状・位置又は分割後の管理・利便性等を考慮したものとして合理的であり,実際に,当該方法により現物分割が可能である。 (2)被告らの主張 本件土地について現物分割することはできない。 原告提示の別紙分割図面では,分割線と各土地との関係が明らかでなく,分割後に各土地について誰が所有者になるのか明らかではない。 原告の求める分割では,複数の土地を,縦断又は横断して分割することになるところ,そのためには,それらの土地の分筆をしなければならない。分筆するためには,分筆前の各土地について,境界を明示した地積測量図の作成と隣地所有者の同意が必要になるが,本件においては,10筆の土地全体をひとまとめとして,その全体の外周について,隣地所有者と原告・被告らが立ち会って測量が行われているが,10筆の各土地について筆界の確定は行っていない。そのため,原告の求める判決での分割は実行することができない。 原告提示の別紙分割図面では,道路を設置することを予定しており,そのためには開発許可が必要であるが,予定されている内容では,開発許可基準をみたしていない。開発許可については強制手段がない。接道しない無価値な土地と,利用価値のない道路予定地を作ることは,本件土地の有効利用に著しく反するし,無価値な土地を分割の結果所有することになるのは,著しく公平に反する。 第3 当裁判所の判断 1 証拠(乙1,15,16の1・2,19)及び弁論の全趣旨によれば,前記前提事実に加え,以下の事実が認められる。 本件土地は,全体の面積が約2697.789平方メートルであり広大なものである上,全体として不整形であり,かつ,全体の外周の長さに比して接道している部分が少ない。 別紙分割図面では,本件土地について,分筆ないし合筆を行うことが予定されている。 別紙分割図面では道路部分を設置することが予定されているところ,開発許可を得る必要がある。道路部分を含んでいる被告ら提出の図面(乙19)は,開発許可の審査基準を満たしているものとして作成されている。 2 検討 民法258条2項は,共有物分割の方法として,現物分割を原則としつつも,共有物を現物で分割することができないか,又は現物で分割することによってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは,競売による分割を命じることができる旨を規定している。 原告提示の別紙分割図面による現物分割は,土地の分筆ないし合筆,更には新たな道路の設置を前提とするものであり,それらのために必要な手続等を考慮すると,判決をもって,現物で分割するというのは実現が困難といわざるを得ない。また,全体として広大かつ不整形な土地であり,原告及び被告らがそれぞれ単独で取得することになる土地について,経済的価値も踏まえて公平が確保されているか明らかではなく,このような観点からみても,現物分割が可能とはいい難い。 このように,原告提示の別紙分割図面のとおり現物分割することはできないというべきであり,その他,本件不動産について,現物分割が可能であり,かつ,現物で分割することによって著しく価格を減少させるおそれがないと解すべき事情は見当たらない。 したがって,本件においては,本件不動産について,競売に付し,その売得金より競売手続費用を控除した金額を,別紙物件目録(1)記載1ないし10の各土地については原告が51.25パーセント及び被告らが各16.25パーセントの割合により,別紙物件目録(2)記載1ないし3の各建物については原告及び被告らが各4分の1の割合により,それぞれ分割することとするのが相当である。 第4 結論 以上の次第であるから,原告の予備的請求を認容することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第7部 裁判官 木村匡彦 (別紙) 物件目録(1) (土地) 1 所在 東京都板橋区α×丁目 地番 ××××番 地目 山林 地積 416平方メートル 2 所在 東京都板橋区α×丁目 地番 ××××番× 地目 畑 地積 589平方メートル 3 所在 東京都板橋区α×丁目 地番 ××××番× 地目 宅地 地積 132.23平方メートル 4 所在 東京都板橋区α×丁目 地番 ××××番× 地目 宅地 地積 114.32平方メートル 5 所在 東京都板橋区α×丁目 地番 ××××番× 地目 宅地 地積 61.28平方メートル 6 所在 東京都板橋区α×丁目 地番 ××××番× 地目 宅地 地積 85.85平方メートル 7 所在 東京都板橋区α×丁目 地番 ××××番× 地目 宅地 地積 269.05平方メートル 8 所在 東京都板橋区α×丁目 地番 ××××番× 地目 宅地 地積 82.64平方メートル 9 所在 東京都板橋区α×丁目 地番 ××××番× 地目 宅地 地積 628.99平方メートル 10 所在 東京都板橋区α×丁目 地番 ××××番× 地目 宅地 地積 53.12平方メートル 物件目録(2) (建物) 1 所在 東京都板橋区α×丁目 ××××番地× 家屋番号 ××××番× 種類 居宅 構造 木造亜鉛メッキ鋼板葺平屋建 床面積 36.30平方メートル 2 所在 東京都板橋区α×丁目 ××××番地 家屋番号 ××××番× 種類 居宅 構造 木造瓦葺二階建 床面積 1階 109.32平方メートル 2階 33.05平方メートル 3 所在 東京都板橋区α×丁目 ××××番地×,××××番地× 家屋番号 ××××番×の× 種類 共同住宅 構造 鉄骨造陸屋根三階建 床面積 1階 75.06平方メートル 2階 75.06平方メートル 3階 64.84平方メートル 別紙図面 以上:4,641文字
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