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労働契約法第19条2号の適用が認められた地裁判決紹介

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令和 2年11月26日(木):初稿
○労働契約法第19条について判断した令和2年3月17日福岡地裁判決(判時2455号75頁)を紹介します。被告会社との間で、昭和63年4月から、1年毎の有期雇用契約を締結し、これを29回にわたって更新、継続してきた原告が、被告会社との間の有期雇用契約は労働契約法19条1号又は2号に該当し、被告会社が原告に対して平成30年3月31日の雇用期間満了をもって雇止めしたこと(本件雇止め)は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないから、従前の有期雇用契約が更新によって継続している旨主張して、被告会社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と本件雇止め後の賃金及び賞与等の支払を求め、地位確認と判決確定までの賃金・賞与の支払が認められました。

○該当条文は以下の通りです。
労働契約法第19条(有期労働契約の更新等)
 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。



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主  文
1 本件訴えのうち,原告が,被告に対し,⑴本判決確定の日の翌日以降,毎月25日限り25万円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払を求める部分,⑵本判決確定の日の翌日以降,毎年6月25日及び12月25日限り25万円並びにこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払を求める部分をいずれも却下する。
2 原告が,被告に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
3 被告は,原告に対し,50万円及びうち25万円に対する平成30年4月26日から,うち25万円に対する同年5月26日から,それぞれ支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
4 被告は,原告に対し,平成30年6月から本判決確定の日まで毎月25日限り25万円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
5 被告は,原告に対し,平成30年6月から本判決確定の日まで毎年6月25日及び12月25日限り25万円並びにこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
6 訴訟費用は,被告の負担とする。
7 この判決は,第3項ないし第5項に限り,仮に執行することができる。 
 
事実及び理由
第1 請求

1 主文第2項及び第3項と同旨
2 被告は,原告に対し,平成30年6月から毎月25日限り25万円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告に対し,平成30年6月から毎年6月25日及び12月25日限り25万円並びにこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 本件は,原告において,原告が被告との間で,昭和63年4月から,1年毎の有期雇用契約を締結し,これを29回にわたって更新,継続してきたところ,原・被告間の有期雇用契約は,労働契約法19条1号又は2号に該当し,被告が原告に対し,平成30年3月31日の雇用期間満了をもって雇止め(以下「本件雇止め」という。)したことは,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であるとは認められないから,従前の有期雇用契約が更新によって継続している旨主張して,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに,本件雇止め後の賃金として,平成30年4月から毎月25日限り月額25万円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払,本件雇止め後の賞与として,平成30年6月から毎年6月25日及び12月25日限り各25万円並びにこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで同割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。

2 前提事実(争いのない事実,後掲の各証拠(枝番号を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 事実関係

 前提事実に加え,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ,この認定に反する証拠はいずれも採用することができない。

         (中略)

2 争点(1)(労働契約終了の合意の有無)について
(1)被告は,平成25年4月1日付の雇用契約書において,平成30年3月31日以降は契約を更新しないことを明記し,そのことを原告が承知した上で,契約書に署名押印をし,その後も毎年同内容の契約書に署名押印をしていることや,転職支援会社への登録をしていることから,原告が平成30年3月31日をもって雇用契約を終了することについて同意していたのであり,本件労働契約は合意によって終了したと主張する。

 確かに,原告は,平成25年から,平成30年3月31日以降に契約を更新しない旨が記載された雇用契約書に署名押印をし,最終更新時の平成29年4月1日時点でも,同様の記載がある雇用契約書に署名押印しているのであり,そのような記載の意味内容についても十分知悉していたものと考えられる。

(2)ところで,約30年にわたり本件雇用契約を更新してきた原告にとって,被告との有期雇用契約を終了させることは,その生活面のみならず,社会的な立場等にも大きな変化をもたらすものであり,その負担も少なくないものと考えられるから,原告と被告との間で本件雇用契約を終了させる合意を認定するには慎重を期す必要があり,これを肯定するには,原告の明確な意思が認められなければならないものというべきである。

 しかるに,不更新条項が記載された雇用契約書への署名押印を拒否することは,原告にとって,本件雇用契約が更新できないことを意味するのであるから,このような条項のある雇用契約書に署名押印をしていたからといって,直ちに,原告が雇用契約を終了させる旨の明確な意思を表明したものとみることは相当ではない。

 また,平成29年5月17日に転職支援会社であるキャプコに氏名等の登録をした事実は認められるものの,平成30年3月31日をもって雇止めになるという不安から,やむなく登録をしたとも考えられるところであり,このような事情があるからといって,本件雇用契約を終了させる旨の原告の意思が明らかであったとまでいうことはできない。むしろ,原告は,平成29年5月にはεに対して雇止めは困ると述べ,同年6月には福岡労働局へ相談して,被告に対して契約が更新されないことの理由書を求めた上,被告の社長に対して雇用継続を求める手紙を送付するなどの行動をとっており,これらは,原告が労働契約の終了に同意したことと相反する事情であるということができる。

 そして,他に,被告の上記主張を裏付けるに足る的確な証拠はない。

(3)以上からすれば,本件雇用契約が合意によって終了したものと認めることはできず,平成25年の契約書から5年間継続して記載された平成30年3月31日以降は更新しない旨の記載は,雇止めの予告とみるべきであるから,被告は,契約期間満了日である平成30年3月31日に原告を雇止めしたものというべきである。

3 争点(2)(労働契約法19条1号又は2号該当性が認められるか)
(1)原告は,昭和63年4月に新卒で被告に入社した以降,平成30年3月31日に雇止めとなるまでの間,九州支社の計画管理部において経理業務を中心とした業務に携わり,本件雇用契約を約30年にわたって29回も更新してきたものである。この間,被告は,平成25年まで,雇用契約書を交わすだけで本件雇用契約を更新してきたのであり,平成24年改正法の施行を契機として, 平成25年以降は,原告に対しても最長5年ルールを適用し,毎年,契約更新通知書を原告に交付したり,面談を行うようになったものである。

 このような平成25年以降の更新の態様やそれに関わる事情等からみて,本件雇用契約を全体として見渡したとき,その全体を,期間の定めのない雇用契約と社会通念上同視できるとするには,やや困難な面があることは否めず,したがって,労働契約法19条1号に直ちには該当しないものと考えられる。

(2)
ア そこで,原告に本件雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるか否か(同条2号)について検討を進めるに,まず,被告は,原告が昭和63年4月に新卒採用で入社した以降,平成25年まで,いわば形骸化したというべき契約更新を繰り返してきたものであり,この時点において,原告の契約更新に対する期待は相当に高いものがあったと認めるのが相当であり(原告が定年まで勤続できるものと期待していたとしても不思議なことではない。),その期待は合理的な理由に裏付けられたものというべきである。

また,被告は,平成25年以降,原告を含めて最長5年ルールの適用を徹底しているが,それも一定の例外(例えば,原告に配布された「事務職契約社員の評価について」(甲17)には,「6年目以降の契約については,それまでの間(最低3年間)の業務実績(目標管理による評価結果・査定)に基づいて更新の有無を判断する。」とされているなど)が設けられており,そのような情報は,原告にも届いていたのであるから,上記のような原告の契約更新に対する高い期待が大きく減殺される状況にあったということはできないのである。

イ 他方,原告は,αから,前記1⑷アの④ないし⑦の説明を受けていない,あるいは,α,β又はδなどから,契約更新は大丈夫である旨の話を聞いたなどと主張し,その旨の供述をするところ,雇用期間を5年に限る旨説明にやって来たαが,上記④ないし⑦の説明をしないとは考え難いし,まして,原告の契約更新を肯定するような発言をすることは考え難いことである。また,βらにおいても,軽々にそのような発言ができる立場にあるとは認め難いのであり,原告の上記供述は採用し難いものである。

 しかし,前記アのとおり,原告は,既に平成25年までの間に,契約更新に対して相当に高い期待を有しており,その後も同様の期待を有し続けていたものというべきであるから,原告が契約更新に期待を抱くような発言等が改めてされたとは認められないとしても,原告の期待の存在やその期待が合理性を有するものであることは揺るがないというべきである。

ウ したがって,原告の契約更新に対する期待は,労働契約法19条2号により,保護されるべきものということができる。


(3)これに対し,被告は,平成25年以降の契約書や契約更新通知書において毎年平成30年3月31日以降は契約の更新がないことを確認していることから,契約更新に対する合理的期待はないと主張するが,それ以前の契約更新の状況等を顧みないものであり,その点で既に採用の限りではない。

4 争点(3)(本件雇止めにおける客観的に合理的な理由及び社会的相当性の有無)
(1)被告は,九州支社が長年赤字状態にあり,人件費の削減を行う必要性があったこと,九州支社には計画管理部の他に原告が従事できる業務は存在しないこと,原告の担当していた業務が人員を1名必要とするほどのものではなく外注によってもまかなえるものであったことなどを主張するとともに,原告に対する評価は,期待水準通りといったものであるばかりか,コミュニケーション能力に問題があることが繰り返し指摘されており,原告のコミュニケーション不足が原因でグループ会社の担当者からクレームが来たこともあったことなどを指摘する。

(2)ところで,被告の主張するところを端的にいえば,最長5年ルールを原則とし,これと認めた人材のみ5年を超えて登用する制度を構築し,その登用に至らなかった原告に対し,最長5年ルールを適用して,雇止めをしようとするものであるが,そのためには,前記3で述べたような原告の契約更新に対する期待を前提にしてもなお雇止めを合理的であると認めるに足りる客観的な理由が必要であるというべきである。

 この点,被告の主張する人件費の削減や業務効率の見直しの必要性というおよそ一般的な理由では本件雇止めの合理性を肯定するには不十分であると言わざるを得ない。また,原告のコミュニケーション能力の問題については,上記⑴に述べるような指摘があることを踏まえても,雇用を継続することが困難であるほどの重大なものとまでは認め難い。むしろ,原告を新卒採用し,長期間にわたって雇用を継続しながら,その間,被告が,原告に対して,その主張する様な問題点を指摘し,適切な指導教育を行ったともいえないから,上記の問題を殊更に重視することはできないのである。そして,他に,本件雇止めを是認すべき客観的・合理的な理由は見出せない。

 なお,被告は,転職支援サービスへの登録をしたり,転職のためパソコンのスキルを上げようとしていたにもかかわらず,雇用継続を要求することは信義則上許されないとも主張するが,前記2⑴で検討したとおり,雇用継続を希望しつつも,雇止めになる不安からそのような行動に出ることは十分あり得ることであって,信義に反するものということはできない。

(3)以上によれば,原告が本件雇用契約の契約期間が満了する平成30年3月31日までの間に更新の申込みをしたのに対し,被告が,当該申込みを拒絶したことは,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないことから,被告は従前の有期雇用契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなされる。

(4)そうすると,原・被告間では,平成30年4月1日以降も契約期間を1年とする有期雇用契約が更新されたのと同様の法律関係にあるということができる。そして,原告は本件訴訟において,現在における雇用契約上の地位確認を求めていることから,その後も,有期雇用契約の更新の申込みをする意思を表明しているといえる。他方,被告は,原告の請求を争っていることから,それを拒絶する意思を示していたことも明らかであるところ,争点(2)及び(3)で説示したところと事情が変わったとは認められないから,平成31年4月1日以降も,被告は従前の有期雇用契約の内容である労働条件と同一の労働条件で,原告による有期雇用契約の更新の申込みを承諾したものとみなされる。

 したがって,原告の請求は,被告に対し,雇用契約上の地位確認並びに平成30年4月1日から本判決確定の日までの賃金及び賞与の支払を求める限度で理由がある。
 なお,原告の請求のうち,本判決確定の日の翌日以降の賃金及び賞与を求める部分は,将来請求の訴えの利益を認めることができないから,不適法である。

5 結論
 以上によれば,原告の請求のうち,本判決確定の日の翌日以降の賃金及び賞与を求める部分は,不適法であるから却下し,その余の請求は,いずれも理由があるから認容すべきである。
 よって,主文のとおり判決する。
 福岡地方裁判所第5民事部  (裁判長裁判官 鈴木博 裁判官 柵木澄子 裁判官 細田裕司) 
以上:6,592文字

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