令和 2年 3月19日(木):初稿 |
○コロナウィルス騒動での売上低下で仕事を打ち切られた人から、雇用契約か業務委託契約かが争われている相談を受けています。「労働者」に該当するか否かは、実態として使用者の指揮命令の下で労働し、かつ、「賃金」を支払われていると認められるか否かにより決まる(労基法9条、労契法2条1項)とされていますが、ちと微妙な事案です。労働者性(使用従属性)の判断は、 ①仕事の依頼、業務の指示等に対する諾否の自由の有無、 ②業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無、 ③勤務場所・時間についての指定・管理の有無、 ④労務提供の代替可能性の有無、 ⑤報酬の労働対償性、 ⑥事業者性の有無(機械や器具の所有や負担関係や報酬の額など)、 ⑦専属性の程度、 ⑧公租公課の負担(源泉徴収や社会保険料の控除の有無) の諸要素を総合的に考慮して行われると解説されています。 ○土木工事業等を目的とする被告会社の従業員であった原告が、被告に対し、労働基準法20条1項に基づき、解雇予告手当及びこれに対する遅延損害金、被告による解雇が原告の権利又は法律上保護に値する利益を侵害したとして、不法行為に基づき、慰謝料100万円とこれに対する遅延損害金の各支払を求めた事案があります。 ○これに対し、令和2年1月16日大阪地裁判決(LEX/DB)は、原告と被告との間の労働契約は、日雇ではなく、継続的なものであったものと認められ、被告には、解雇日の直前の賃金締切日に基づく解雇予告手当の支払義務が存在するが、被告による解雇により、損害賠償請求を認めるほどの原告の何らかの権利又は法律上保護に値する利益侵害があったとまでは認められず、また、被告に故意又は過失があったとも認められないとして、原告の請求を一部認容しました。 ******************************************** 主 文 1 被告は,原告に対し,36万5733円及びこれに対する平成31年3月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,これを4分し,その3を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 4 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告に対し,41万3640円及びこれに対する平成31年3月31日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告に対し,100万円及びこれに対する平成31年3月31日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,土木工事業等を目的とする被告の従業員であった原告が,被告に対し,労基法20条1項に基づき,解雇予告手当41万3640円及びこれに対する平成31年3月31日から支払済みまで賃金の支払の確保等に関する法律所定の年14.6%の割合による遅延損害金,被告による解雇が原告の権利又は法律上保護に値する利益を侵害したとして,不法行為に基づき,慰謝料100万円及びこれに対する平成31年3月31日から支払済みまで商事法定利率年6%の割合による遅延損害金の各支払を求める事案である。 2 前提事実 (1)被告は,土木工事業等を目的とする株式会社である(弁論の全趣旨)。 (2)原告は,被告との間で,平成29年2月1日,日給制,毎月末日締め,翌月6日払いの約定で,労働契約を締結した(争いのない事実)。 (3)原告は,被告に対し,平成30年12月1日から平成31年3月30日の間,労務を提供し,被告から,以下の賃金を得た(争いのない事実)。 平成30年12月1日から同月31日 30万6700円 平成31年1月1日から同月31日 38万1000円 平成31年2月1日から同月28日 40万9500円 平成31年3月1日から同月30日 45万0375円 3 争点 (1)解雇予告手当請求 ア 解雇の意思表示の有無(争点1) イ 解雇予告手当額(争点2) (2)損害賠償請求 ア 原告の権利又は法律上保護に値する利益侵害の有無及び被告の故意又は過失の有無(争点3) イ 原告の損害の有無及び因果関係の有無(争点4) 4 争点に対する当事者の主張 (1)争点1(解雇の意思表示の有無)について ア 原告 被告は,原告に対し,平成31年3月30日,原告が従事していた役所からの受託業務が終了することを理由に原告を解雇する旨意思表示をした。 イ 被告 争う。原告は,日雇労働者であって,次に依頼する仕事がないことを告げたにすぎない。 (2)争点2(解雇予告手当額)について ア 原告 解雇予告手当の額は,以下のとおり,41万3640円となる。 解雇前3か月間の賃金計124万0875円÷90日=1万3788円(円未満四捨五入) 1万3788円×30日=41万3640円 イ 被告 争う。 (3)争点3(原告の権利又は法律上保護に値する利益侵害の有無及び被告の故意又は過失の有無)について ア 原告 被告による解雇は,被告の故意又は過失により,原告の権利又は法律上保護に値する利益を侵害するものである。 イ 被告 争う。 (4)争点4(原告の損害の有無及び因果関係の有無)について ア 原告 被告による解雇により,原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料として100万円が相当である。 イ 被告 争う。 第3 争点に対する判断 1 争点1(解雇の意思表示の有無)について 原告の賃金が毎月末日締め翌月6日払いであったこと(前提事実(2))に加え,証拠(甲1の1ないし22,甲2の1ないし17)及び弁論の全趣旨によれば,原告が平成29年4月以降平成31年3月まで毎月20日前後勤務していたこと,被告がその間の原告の労働時間・出勤状況等をタイムカードや出勤簿兼賃金計算簿によって管理していたことが認められ,これらの事実からすれば,原告と被告との間の労働契約は,日雇ではなく,継続的なものであったものと認められる。そして,被告代表者が原告に対し,平成31年3月30日,「もう来てもらわなくてよい」旨伝えたこと(争いのない事実)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,原告に対し,同日,解雇の意思表示をしたものと認めるのが相当である。 2 争点2(解雇予告手当額)について (1)原告と被告との間の労働契約において賃金締切日が定められているところ(前提事実(2)),解雇日の直前の賃金締切日は,平成31年2月28日であるから,その以前3か月間(平成30年12月1日から平成31年2月28日)が平均賃金算定期間となり、その間の賃金総額は,109万7200円である(前提事実(3))。そうすると,原告の解雇予告手当の額は,以下のとおり,36万5733円となる。 109万7200円÷90日×30日=36万5733円(円未満四捨五入) (2)解雇予告手当の遅延損害金について 解雇予告手当は,労働契約に基づいて発生するものではなく,法律が特に認めたものであり,商行為性があるとはいえず,賃金ともいえないから,遅延損害金の額は,民法所定の年5分の割合となる。 3 争点3(原告の権利又は法律上保護に値する利益侵害の有無及び被告の故意又は過失の有無)について 原告が被告に対し,解雇から間もない令和元年5月29日に解雇を理由とする損害賠償請求を求める労働審判手続申立てを行っている(労働契約上の権利を有する地位の確認は求めていない)ところ,原告と被告との間の労働契約が継続したのが締結から約2年間にとどまること,原告が解雇直後の平成31年4月以降,被告以外の設備会社や友人のところで働いている旨認めていることも考慮すると,被告による解雇により,損害賠償請求を認めるほどの原告の何らかの権利又は法律上保護に値する利益侵害があったとまでは認められず,また,被告に故意又は過失があったとも認められない。 第4 結論 以上によれば,原告の請求のうち,被告に対し,労基法20条1項に基づき,解雇予告手当36万5733円及びこれに対する平成31年3月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,その余はいずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第5民事部 裁判官 松本武人 以上:3,377文字
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