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相続分譲渡者は遺産確認訴訟当事者適格なしとした最高裁判例紹介

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令和 1年 7月 8日(月):初稿
○共同相続人のうち自己の相続分の全部を譲渡した者は、遺産確認の訴えの当事者適格を有しないとした平成26年2月14日最高裁判決(判タ1410号75頁、判時2249号32頁)全文を紹介します。

○民法第938条「相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。」の規定により相続放棄をした者は、同939条で「初めから相続人とならなかったものとみなす。」とされて相続人ではなくなります。相続登記をする場合、その者については相続放棄申述証明書を提出すれば、相続登記手続にその者の署名押印は不要です。

○しかし、被相続人死亡を知って3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をしない者は民法第915条及び同921条で単純承認をしたとみなされ家庭裁判所に相続放棄申述はできなくなります。この単純承認をしたと見なされた者は、後に相続人間で「相続放棄証明書」を提出しても相続登記手続には相続人としての署名押印が必要になります。遺産分割協議書を作成し、遺産は取得しないとすれば、その遺産分割協議の提出で相続登記手続では相続人としての署名押印は不要です。

○遺産分割協議書を作成しないで相続人の1人を相続手続から外す簡明な方法は、「相続分譲渡証明書」に実印で署名押印し、印鑑登録証明書を添付することです。この相続分譲渡証明書を提出すれば、その者は相続登記等の相続手続上は、相続人ではなくなるからです。遺産分割を依頼され、相続は放棄すると言う方が居る場合、私はいつも相続分譲渡証明書の提出をお願いしています。これによりその方は相続人でなくなりその後の相続手続が簡単になるからです。このことを明らかにしたのが上記最高裁判例です。

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主   文
原判決中上告人らに関する部分を破棄する。
前項の部分につき,本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。 

理   由
 上告代理人片山主水,同青葉憲一,同杉山泰一郎の上告受理申立て理由(ただし,排除された部分を除く。)について
1 本件は,亡Aの共同相続人(代襲相続人又は共同相続人の権利義務を相続した者を含む。以下同じ。)である被上告人らが,同じくAの共同相続人である上告人らとの間で第1審判決別紙物件目録記載の各土地建物(以下「本件不動産」という。)がAの遺産であることの確認を求める事件(以下「第1事件」という。)と,上告人Y1が,同物件目録記載11の建物の一部を占有している被上告人X1に対し,所有権に基づき,上記占有部分の明渡し等を求める事件(以下「第2事件」という。)が併合審理された訴訟である。なお,上告人Y1,同Y2及び同Y3は原審口頭弁論終結後に死亡した亡Bの,被上告人X2,同X3,同X4及び同X5は同じく原審口頭弁論終結後に死亡した亡Cの各地位をそれぞれ承継した。

2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) Aは,本件不動産を所有していたが,昭和28年1月26日に死亡した。

(2) Aの共同相続人である被上告人X1,C,被上告人X6及び同X7(以下,この4名を併せて「原告ら」という。)は,同じくAの共同相続人である亡D(第1審係属中に死亡し,上告人Y4がその地位を承継した。),B,上告人Y1,同Y2及び同Y3(以下,上告人ら4名及びBを併せて「被告ら」という。)のほか,その余のAの共同相続人であるE,F,G及びH(以下,この4名を併せて「Eら」という。)を被告として第1事件の訴えを提起した。第1事件には,第2事件が併合された。

(3) 第1事件の係属後,Eらが自己の相続分の全部をそれぞれ他の共同相続人に譲渡していたことが明らかになったため,原告らは,Eらに対する訴えを取り下げる手続をした。

3 上記事実関係の下で,第1審は,第1事件につき,原告らの訴えの取下げによりEらが当事者ではなくなったことを前提に,原告らの請求を棄却する旨の判決をし,第2事件につき,上告人Y1の請求を棄却する旨の判決をした。これに対し,原審は,次のとおり判断して,第1審判決を取り消し,被告らに関する部分につき本件を第1審に差し戻した。

 固有必要的共同訴訟である遺産確認の訴えの係属中にした共同被告に対する訴えの取下げは効力を生じないと解されるところ,自己の相続分の全部を譲渡したEらも共同相続人として遺産確認の訴えの当事者適格を失うものではないから,第1事件につき,Eらに対する訴えの取下げが効力を生じないことを看過してされた第1審の訴訟手続には違法がある。また,第2事件は,第1事件と整合的・統一的に解決すべきである。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 遺産確認の訴えは,その確定判決により特定の財産が遺産分割の対象である財産であるか否かを既判力をもって確定し,これに続く遺産分割審判の手続等において,当該財産の遺産帰属性を争うことを許さないとすることによって共同相続人間の紛争の解決に資することを目的とする訴えであり,そのため,共同相続人全員が当事者として関与し,その間で合一にのみ確定することを要する固有必要的共同訴訟と解されているものである(最高裁昭和57年(オ)第184号同61年3月13日第一小法廷判決・民集40巻2号389頁,最高裁昭和60年(オ)第727号平成元年3月28日第三小法廷判決・民集43巻3号167頁参照)。

 しかし,共同相続人のうち自己の相続分の全部を譲渡した者は,積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する割合的な持分を全て失うことになり,遺産分割審判の手続等において遺産に属する財産につきその分割を求めることはできないのであるから,その者との間で遺産分割の前提問題である当該財産の遺産帰属性を確定すべき必要性はないというべきである。そうすると,共同相続人のうち自己の相続分の全部を譲渡した者は,遺産確認の訴えの当事者適格を有しないと解するのが相当である。

(2) これを本件についてみると,Eらは,いずれも自己の相続分の全部を譲渡しており,第1事件の訴えの当事者適格を有しないことになるから,原告らのEらに対する訴えの取下げは有効にされたことになる。

5 以上と異なり第1事件につき第1審の訴訟手続には違法があるとし,また,第2事件につき本案の審理をせず第1事件と整合的・統一的に解決すべきであるとして,第1審判決を取り消した原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人らに関する部分は破棄を免れない。そして,本件については,本案の審理をさせるため,原審に差し戻すのが相当である。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 小貫芳信 裁判官 千葉勝美 裁判官 鬼丸かおる 裁判官 山本庸幸) 
以上:2,850文字

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