平成31年 3月29日(金):初稿 |
○私は医療過誤訴訟は原則として受任しておらず、医療過誤の相談を受けた場合は、医療過誤を多く扱っている弁護士を紹介しています。耳に関する医療過誤裁判例を集める必要性が生じて私が加入している判例データベースで集めてみました。 判決期日と要旨は、以下の通りです。 ******************************************* ・平成17年6月30日名古屋地裁判決(判例タイムズ1216号253頁) 突発性難聴に罹患し被告病院に入院し、被告Bの治療を受けた原告が、被告B医師がステロイド療法を行わなかったために高度難聴等の障害が固定した等と主張して、被告らに対し損害賠償を求めた事案で、確立された治療法が存在しないが、ある程度有効性が認められた治療法がいくつか存在する場合に、いずれの治療法を選択するかについては、各治療法のメリット、副作用の程度等を総合的に考慮し、医師としての専門的判断に基づいて最も適切と考える治療法を選択するよりほかなく、その選択に合理性がある限り、医師の裁量の範囲内であり、注意義務を尽くしたといえるとするのが相当であり、被告B医師ら被告病院医師は、被告病院の基本的診療方針に沿って治療をしたものと認められ、同治療行為に注意義務違反は認められないとし、請求を棄却 ・平成16年11月11日東京地裁(新日本法規) 鼓膜穿孔に対する鼓膜形成術を受けた結果、聴力が回復せず、かえって手術器具が鼓索神経に触れたために味覚障害の生じた患者が、手術適応のなかったこと、手技上の過誤、手術目的が聴力の回復ではなく将来の感染防止にあることや手術によって味覚障害が生じる危険について事前説明のなかったことを主張して、不法行為ないし債務不履行に基づく損害賠償を請求した事案において、医師の説明義務違反及び手技上の過誤により味覚障害が生じたことなどの因果関係を認定し、請求の一部を認容 ・平成15年4月22日福岡地裁(判タ1176号253頁、判時1837号87頁) 耳鼻咽喉科で耳の治療を受けた患者が、リンデロンA液を相当期間投与されて難聴になった場合に、医師が添付文書記載の注意事項を看過して右薬剤を長期間投与したことに過失があったとし、病院側の損害賠償責任が認められた ・平成11年8月31日横浜地裁(判タ1054号246頁) 耳介付近の腫瘍の摘出手術を受けた患者に顔面麻痺、耳下部の腫れ等の後遺症が発症した場合、担当医師に過失がないとして病院側の損害賠償責任が認められなかった ・平成6年2月16日東京地裁(判時1522号97頁) 慢性中耳炎の女性患者に対する左鼓室形成術に用いられたハローセンにより劇症肝炎を惹起し、患者が死亡した事故について、医師にハローセンの投与を回避すべき義務があったと認めないとされた ・昭和63年3月25日大阪高裁(新判例体系) 感音難聴者に対し硫酸ストマイ投与により生じた右障害増強につき、医師に過失があるとされた ・昭和60年12月5日名古屋地裁一宮支部(判タ612号112頁、判時1215号109頁) 中耳炎の治療につき保存的療法をとらず鼓膜形成術をした医師の過失を認めた 混合難聴者に対する中耳鼓膜形成手術後の聴力喪失の結果につき、医師による右療法選択に過失があつたとしてその賠償責任を肯定 ・昭和58年12月16日札幌地裁(判タ526号241頁、判時1104号113頁) 耳漏の小児が緑膿菌に感染して失明するに至つた事故について、医療水準上医師に診療上の過失がないとされた 診療当時の医療水準のもとでは、緑膿菌に感染していることを発見することは不可能であるとされた ・昭和56年1月30日京都地裁(判タ442号149頁、判時1015号113頁) 慢性中耳炎患者に対する聴力検査等の実施が不十分なため、右耳につき難聴増悪の結果を招来したとして、担当医師及び病院の責任が肯定された 慢性中耳炎に対するクロマイ投与と聴力障害との間に因果関係がないとされた 慢性中耳炎の治療に当たり、その病状に適した検査診断を怠り適切な治療措置を講じなかったため聴力障害を起こしたとして医師の過失を肯定した ・昭和43年3月13日東京地裁(判時525号67頁) 中耳炎手術により生じた顔面神経麻痺につき医師の過失を否定した 以上:1,754文字
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