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算定表上限2000万円超過年収義務者婚姻費用を算定した高裁決定紹介

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平成31年 3月28日(木):初稿
○「算定表上限2000万円超過年収の義務者養育費を算定した家裁審判紹介」で、算定表上限2000万円を遙かに超える年収6171万円の前夫の養育費について紹介していますが、今回は、年収1億5000万円を超える夫に対する婚姻費用について判断した平成29年12月15日東京高裁決定(判タ1457号101頁)全文を紹介します。

○原審では、平成27年9月から平成29年12月までは月額120万円,平成30年1月からは月額125万円と認定され高額所得者の夫(抗告人)が即時抗告を提起しました。東京高裁は、本件の義務者である抗告人の年収は標準算定方式の上限をはるかに上回っており,標準算定方式を応用する手法によって婚姻費用分担金の額を算定することは困難であるとして、抗告人と相手方の同居時の生活水準,生活費支出状況等及び別居開始後の相手方の生活水準,生活費支出状況等を中心とする本件に現れた諸般の事情を踏まえ,家計が二つになることにより双方の生活費の支出に重複的な支出が生ずること,婚姻費用分担金は従前の贅沢な生活をそのまま保障しようとするものではないこと等を考慮して、婚姻費用分担金の額を月額75万円に減額しました。

○抗告人夫の平成27年の給与収入は約1億5320万円ですが、公租公課約7680万円もあり、給与収入は,賞与が大半を占め,平成29年の月次給与は月額約251万円(手取り約138万円)であるため,抗告人の年収は会社の業績等により変動が生じる可能性があると認定されています。

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主   文
1 原審判を次のとおり変更する。
2 抗告人は,相手方に対し,1339万円を支払え。
3 抗告人は,相手方に対し,平成29年12月から当事者双方の別居解消又は離婚まで,毎月末日限り,月額75万円を支払え。
4 手続費用は第1,2審とも各自の負担とする。

理   由
第1 抗告の趣旨

1 原審判を取り消す。
2 抗告人が相手方に対し支払うべき婚姻費用分担金につき,原審判に代わる相当の裁判を求める。

第2 事案の概要
1 本件は,妻である相手方が別居中の夫である抗告人に対し婚姻費用分担金の支払を求める事案である。
2 原審が,要旨,抗告人が相手方に対し支払うべき婚姻費用分担金を平成27年9月から平成29年12月までは月額120万円,平成30年1月からは月額125万円と定めたところ,抗告人は,即時抗告を提起した。
3 相手方は,答弁書において,婚姻費用分担金を平成29年8月までの未払分は2912万6619円,同年9月から12月までは月額152万円,平成30年1月からは月額157万円と定めるよう求めた。

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,要旨,抗告人が相手方に対し支払うべき婚姻費用分担金を月額75万円と定めるのが相当であると判断する。その理由は,次のとおりである。

2 一件記録及び手続の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) 抗告人(昭和39年○○月○○日生)と相手方(昭和40年○○月○○日生)とは,平成6年4月22日に婚姻した夫婦であり,両名の間には,平成7年○○月○○日に長女が,平成10年○○月○○日に二女がそれぞれ出生した。
 抗告人は,婚姻当時,外資系証券会社に勤務していたが,転職を繰り返した後,現在,○○会社の○○支店長として勤務し,平成27年の給与収入は約1億5320万円(公租公課約7680万円)である。ただし,抗告人の給与収入は,賞与が大半を占め,平成29年の月次給与は月額約251万円(手取り約138万円)であるため,抗告人の年収は会社の業績等により変動が生じる可能性がある。

 相手方は,婚姻後間もなく当時の勤務先を退職し,以後,抗告人の求めに応じた名目的な会社役員就任を除き,専業主婦として家事・育児全般を担当し,現在,無職無収入である。
 抗告人と相手方は,抗告人が平成26年6月15日に相手方現住居である自宅マンションを出て抗告人現住居である賃貸マンションで暮らし始めた時から別居している。
 長女は,抗告人と相手方との別居当初は相手方と暮らしていたが,平成26年10月から抗告人と同居し,平成27年9月からは海外留学をしている。二女は,長女に先立ち平成24年から海外留学をしている。長女及び二女は,海外留学後も1年のうち5か月前後は帰国して抗告人又は相手方と過ごしている。

 抗告人と相手方は,同居時に犬2匹を飼育していたところ,別居開始後の一時期を除き,相手方がこれらの飼育を継続している。
 なお,相手方の現住居である自宅マンション(床面積約360平方メートル)は,抗告人が全株式を保有する夫婦共有財産の管理会社である株式会社C(平成24年設立。○○)が所有している。

(2) 抗告人と相手方の同居中の家族生活の基本的部分は,主として,相手方が,相手方において管理する○○銀行○○支店の抗告人名義の口座(以下「D口座」という。)から引き出した現金及び相手方名義のクレジットカード(Eカード,Fカード,Gカード。後2者は,抗告人を正会員とする家族カード)の利用によりその費用を賄っていた。Eカードの利用代金は抗告人において管理する○○銀行○○支店の相手方名義の口座(以下「H口座」という。)から引き落とされ,Fカード及びGカードの利用代金はD口座から引き落とされたが,抗告人は,相手方の現金引出し及びカード代金決済に必要な額を各口座に入金していた。

 抗告人と相手方との同居中,相手方がD口座から引き出した現金は月額約30万円(平成25年6月から平成26年5月までの平均)であり,上記各クレジットカードの利用代金はEカード月額約70万円(支払期平成25年9月から平成26年6月までの平均),Fカード月額約49万円(支払期平成25年7月から平成26年6月までの平均。ただし,基本的な生活費を算定する観点からして,利用代金が突出する平成25年8月を除く。),Gカード月額約17万円(支払期平成25年7月から平成26年6月までの平均)であった。これらのうち犬の飼育に充てられた費用は月額約12万円であり,主としてクレジットカードが利用されていた。

 抗告人又はC社は,以上のほかに,自宅マンションの電気料金,水道料金,ガス料金,電話料金,ケーブルテレビ料金,ダスキン利用代金,水サーバー料金及びハウスキーピング(家政婦)料金のほか,二女の海外留学に要する学費,生活費等及び家族での外食費用,旅行(海外・国内)費用等も負担していた。
 なお,自宅マンションの賃料は月額330万円であり,抗告人がこれを負担していた。

(3) 抗告人は,別居後,相手方の求めに応じて,D口座に月額60万円を送金するとともに,同居時に引き続き,相手方が利用する3枚のクレジットカードの利用代金を負担した。
 別居から平成27年2月までの相手方のクレジットカードの利用代金はEカード月額約46万円(支払期平成26年8月から平成27年1月までの平均。ただし,前同様に利用代金が突出する平成26年12月を除く。),Fカード月額約11万円(支払期平成26年8月から平成27年2月までの平均),Gカード月額約5万円(前同)であった。
 抗告人又はC社は,以上のほかに,自宅マンションの電気料金,水道料金,ガス料金,電話料金,ケーブルテレビ料金,ダスキン利用代金及び水サーバー料金(合計月額約10万円),ハウスキーピング料金(月額約12万円)を負担した。

(4) 抗告人は,平成27年2月16日付け書面により,相手方に対し,それまでの相手方名義のクレジットカードの利用代金が莫大であるなどとして,相手方名義の3枚のクレジットカードの利用代金の負担をやめ,これに伴い,Eカードの利用代金の引落口座であるH口座を相手方に移管し,Fカード及びGカード(いずれも家族カード)を解約し,以後,月額60万円の送金と光熱費の負担のみとすると通知した上,これを実行した。相手方は,これを受けて,Fカード及びGカードの正会員となり,その後,これらのカードの利用代金を自ら管理するH口座等から引き落とすようになった。

 相手方は,この頃,抗告人の意向に従い節税対策として名目的に就任していたC社の代表取締役を退任したため,平成27年2月から,事実上C社の負担とできなくなった国民健康保険料,国民年金保険料及び地方税を負担することになった。相手方が婚姻費用分担調停を申し立てた平成27年9月以降に支払うべきこれらの公租公課の額は,国民健康保険料(平成28年3月まで合計約32万円,同年4月から年額約1万8000円),国民年金保険料(平成28年4月から年額約18万3000円)及び地方税(平成28年3月まで9万6000円)である。

(5) 抗告人は,相手方との別居後も,長女及び二女の海外留学後の学費,生活費等を負担しているが,長女及び二女の帰国時には,相手方が帰国時の生活費の一部を負担している。
 なお,相手方は,平成29年1月,留学先で骨折した長女の看病のため渡航し,そのための費用として約94万円を負担した。

(6) 抗告人は,平成27年,相手方が使用する自動車の維持費(車検費用,自動車税,保険料等)として,メルセデスベンツにつき約59万円,レクサスにつき約20万円を負担し,メルセデスベンツについては,平成28年も負担した。
 なお,抗告人と相手方は,これまでに,メルセデスベンツを売却して,財産分与の前払金に充てること,レクサスを代金120万円で相手方名義とし,自動車税を含む諸費用とともに財産分与の際に清算することを合意した。

(7) 抗告人は,平成27年9月から,相手方に対する送金を月額30万円に変更し,相手方は,同月11日,婚姻費用分担調停を申し立てた。


(1) 一般に,婚姻費用分担金の額は,いわゆる標準算定方式を基本として定めるのが相当であるが,本件では,義務者である抗告人が年収1億5000万円を超える高額所得者であるため,年収2000万円を上限とする標準算定方式を利用できない。高額所得者については,標準算定方式が予定する基礎収入割合(給与所得者で34ないし42パーセント)に拘束されることなく,当事者双方の従前の生活実態もふまえ,公租公課は実額を用いたり,家計調査年報等の統計資料を用いて貯蓄率を考慮したり,特別経費等についても事案に応じてその控除を柔軟に認めるなどして基礎収入を求める標準算定方式を応用する手法も考えられる。しかし,抗告人の年収は標準算定方式の上限をはるかに上回っており,職業費,特別経費及び貯蓄率に関する標準的な割合を的確に算定できる統計資料が見当たらず,一件記録によっても,これらの実額も不明である。したがって,標準算定方式を応用する手法によって,婚姻費用分担金の額を適切に算定することは困難といわざるを得ない。

 そこで,本件においては,抗告人と相手方との同居時の生活水準,生活費支出状況等及び別居開始から平成27年1月(抗告人が相手方のクレジットカード利用代金の支払に限度を設けていなかったため,相手方の生活費の支出が抑制されなかったと考えられる期間)までの相手方の生活水準,生活費支出状況等を中心とする本件に現れた諸般の事情を踏まえ,家計が二つになることにより抗告人及び相手方双方の生活費の支出に重複的な支出が生ずること,婚姻費用分担金は飽くまでも生活費であって,従前の贅沢な生活をそのまま保障しようとするものではないこと等を考慮して,婚姻費用分担の額を算定することとする。
 なお,手続の全趣旨によれば,相手方は,当事者双方の別居解消又は離婚までの間,自宅マンションに自己の負担なく居住を継続することができると見込まれるから,以下,このことを前提として検討する。

(2) 上記認定事実によれば,抗告人及び相手方は,長女と共に自宅マンションで同居していた当時,基本的な生活費(自宅マンションに係る公共料金等を除く。なお,抗告人が負担していた家族での外食費用,旅行費用等は,別居後は発生しないと見込まれるので,考慮しない。)として,H口座から引き出した現金月額約30万円及び3枚のクレジットカード利用代金月額約136万円の月額合計約166万円を支出しており,これから犬の飼育費月額約12万円を控除すると月額約154万円となる。これを基礎とし生活費指数を抗告人及び相手方を各100,長女を90として相手方の生活費相当額を算出すると,月額約53万円となり(なお,家族の基本的生活費としての月額約154万円の支出には,二女の帰国時の生活費も含まれるため,この点を考慮すると,より多額になると考えられるが,この点は諸般の事情として考慮する。),これに犬の飼育費月額約12万円を加算すると,相手方の基本的な生活費は,自宅マンションに係る公共料金,ハウスキーピング料金等を除き月額65万円となる。これに自宅マンションの公共料金,ハウスキーピング料金等の額を別居後と同額の月額約22万円とみて加算すると,月額約87万円となる。

 次に,相手方が抗告人との別居時から平成27年1月までに生活費として支出した金員は,H口座から引き出した現金及び3枚のクレジットカード利用代金月額約62万円となるが,現金引出額については実額が不明なので同居時と同額の約30万円(抗告人及び長女の生活費(長女については,相手方と同居していない期間分)に充てる分がないため,この点を考慮すると,より少額になると考えられるが,この点は諸般の事情として考慮する。なお,現金引出額を月額約30万円とみてFカードとGカードの利用代金月額合計約16万円を加算しても,抗告人がD口座に入金した月額60万円に満たないので,相手方が抗告人と同居時と同程度の水準の生活をしていれば,余剰が生じていたことになる。)とみると,月額合計約92万円となる。これに抗告人が負担した自宅マンションの公共料金,ハウスキーピング料金等の額月額約22万円を加算すると,この間の相手方の基本的な生活費は,月額約114万円となる。

 以上のとおり,相手方の基本的な生活費は,同居時の生活水準,生活費支出状況等を前提にすると月額約87万円,別居開始から平成27年1月までの相手方の生活水準,生活費支出状況等を前提にすると月額約114万円となるが,上記で指摘した事情のほか上記検討の際に捨象した諸般の事情に鑑みると,相手方が従前の生活水準を維持するために必要な費用は月額105万円程度(公租公課を除く。)とみるのが相当である。

(3) 続いて,相手方が従前の生活水準を維持するために必要な費用(月額105万円程度)を修正すべき事情について,検討する。
 上記認定事実によれば,上記事情として,①別居に伴い抗告人においても同居時には必要がなかった賃貸マンション賃料,公共料金等の支出が生じること(なお,抗告人が主張する賃貸マンションの賃料月額37万円は,抗告人の年収,相手方自宅マンションの賃料等に照らし不合理とはいい難い額である。これに相手方と同程度の公共料金等の月額約10万円を加えると,月額47万円になる。),②相手方は専業主婦であるが,犬の飼育を考慮に入れてもおよそ稼働が困難とはいい難く(平成28年賃金構造基本統計調査によると女性の短期労働者の時給は約1000円であり,仮に月20日,1日当たり4時間稼働した場合,月収約8万円になる。),しかも,自宅マンションの床面積が広大とはいえハウスキーピング(月額約12万円。ただし,相手方は,その後,抗告人の送金が減額されたため,その回数を減少させた。)を利用していること,他方,③相手方には,上記(2)で考慮した支出以外に公租公課の負担が生じたこと(平成28年4月からは,国民健康保険料及び国民年金保険料の年額合計約20万1000円)が挙げられる。

 そこで,これらの事情その他本件に現れた諸般の事情を考慮すると,抗告人が相手方に支払うべき婚姻費用分担金は月額75万円(なお,この額は,相手方が自宅マンションに自己の負担なく居住を継続することができることを考慮すると,実質的には相当高額ということができる。)と定めるのが相当である。

(4) 婚姻費用分担金支払の始期は,相手方が婚姻費用分担調停を申し立てた平成27年9月とするのが相当であるが,上記認定事実によれば,平成29年11月までの未払額の算定に当たっては,抗告人が月額30万円の送金を継続したことのほか,相手方がC社代表取締役退任に伴い,平成28年3月までに通常よりも高額の公租公課の負担を余儀なくされたこと(平成28年4月以降と比べて約30万円多額),相手方は,長女の看病のための渡航費用等約94万円を負担したこと等の本件に現れた諸般の事情を考慮すべきである。そうすると,平成29年11月までの未払額は,1215万円(上記月額75万円から送金月額30万円を控除した月額45万円の27か月分)に124万円を加算した1339万円と定めるのが相当である。

4 抗告人は,婚姻関係の破綻の原因は相手方の不貞にあるから,婚姻費用分担金の額を定めるに当たり,これを減額要素として考慮すべきであると主張する。
 しかし,婚姻費用分担金の支払義務は夫婦間の協力扶助義務(民法752条)に基づき発生するものである。したがって,夫婦の一方が,およそ別居を開始せざるを得ない事情がないにもかかわらず,他方を遺棄して別居を開始した上で婚姻費用分担金の支払を求めたなどの信義則に反するような特段の事情がない限り,別居を巡る夫婦間の事情は婚姻費用分担金の支払義務の有無及び額に消長を来すものではない。これを本件についてみるに,一件記録によっても,上記特段の事情は認められない。
 したがって,抗告人の上記主張は採用することができない。

5 よって,以上と異なる原審判を変更することとし,主文のとおり決定する。
 東京高等裁判所第20民事部 (裁判長裁判官 畠山稔 裁判官 畑一郎 裁判官 池下朗)
以上:7,377文字

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