平成31年 2月15日(金):初稿 |
○「NHK受信料債権と民法第168条1項前段適用に関する地裁判決紹介」の続きで、その控訴審の平成29年9月8日大阪高裁判決(判タ1453号68頁、判時2390号51頁)全文を紹介します。 ○高裁判決も、被控訴人が上記放送を受信可能とする義務を負担していることに対応して,受信設備の設置者である控訴人が,放送受信契約を締結し,同契約関係を継続し,同契約の重要な内容として放送受信料の支払義務を負担していることからすると,上記基準により例外的に放送受信料が免除の対象とされる場合を除き,放送受信契約には必ず放送受信料の支払義務が伴うものであり,放送受信料の支払義務の伴わない放送受信契約の存在を認める余地はないので、民法168条1項は適用されないとして控訴を棄却しました。 ****************************************** 主 文 1 控訴人の本件控訴を棄却する。 2 控訴人は,被控訴人に対し,7860円及びこれに対する平成29年8月1日から,支払済みの日が奇数月に属するときはその月の前々月末日まで,支払済みの日が偶数月に属するときはその月の前月末日まで,2か月当たり2%の割合による金員を支払え。 3 当審における訴訟費用は,控訴人の負担とする。 4 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人の請求を棄却する。 第2 附帯控訴の趣旨(当審追加請求) 主文第2項と同旨 第3 事案の概要 1 本件反訴は,被控訴人が,控訴人との間で締結した放送受信契約に基づき,放送受信料及び遅延損害金の支払を求めた事案である。控訴人は,本件本訴として,被控訴人に対する債務不存在確認請求訴訟(大阪地方裁判所平成28年(ワ)第7351号)を提起したが,同事件は訴えの取下げにより終了した。 原判決は,被控訴人の本件反訴請求を認容した。 控訴人は,原判決に対して控訴し,被控訴人の本件反訴請求を棄却するよう求めた。 被控訴人は,附帯控訴し,控訴人との間で締結した放送受信契約に基づき,上記以降の放送受信料及び遅延損害金の支払を求める当審追加請求をした。 2 前提事実 次の事実は,当事者間に争いがないか,下記証拠及び弁論の全趣旨により認めることができる。 (1)放送法及び本件規約 ア 被控訴人の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は,被控訴人とその放送の受信についての契約(以下「放送受信契約」という。)を締結しなければならない(放送法64条1項本文,平成22年法律第65号による改正前の同法〔以下「旧放送法」という。〕32条1項本文)。 イ 被控訴人は,放送受信契約の条項については,予め総務大臣の認可を受けなければならない(放送法64条3項,旧放送法32条3項)。被控訴人が放送受信契約の条項として予め総務大臣の認可を受けた日本放送協会放送受信規約(乙5,以下「本件規約」という。)6条は,放送受信料につき月額又は6か月若しくは12か月前払額で定め,その支払方法につき1年を2か月ごとの期に区切り(第1期が4月及び5月,第2期が6月及び7月であり,以下第6期まで同様である。),各期に当該期分の放送受信料を一括して支払う方法又は6か月分若しくは12か月分の放送受信料を一括して前払する方法によるものとしている。 (2)本件受信契約及び放送受信料の支払 ア 控訴人は,被控訴人とカラーの放送受信契約を締結し(以下「本件受信契約」という。),被控訴人に対し,少なくとも平成7年7月分の放送受信料を支払った。 イ 控訴人は,平成7年8月分以降の放送受信料の支払をしない。 (3)控訴人による消滅時効の援用 ア 控訴人は,平成28年9月14日の原審第1回口頭弁論期日において,被控訴人の放送受信料の請求に対し,20年の経過による消滅時効(民法168条1項)を援用した。 イ 控訴人は,平成28年10月26日の原審弁論準備手続期日において,平成23年8月より前の放送受信料に係る被控訴人の請求に対し,5年の経過による消滅時効(民法169条)を援用した。 3 争点(民法168条1項所定の消滅時効の成否) (1)控訴人 放送受信料債権は定期金債権に当たるから,民法168条1項が適用される。放送受信料債権について,永小作料債権や賃料債権と同様に解することはできない。 (2)被控訴人 定期金債権には,永小作料債権や賃料債権のように民法168条1項が適用されないものがあるところ,放送受信料債権もこれらと同様に解すべきであるから,放送受信料債権に同項は適用されない。 第4 当裁判所の判断 1 民法168条1項所定の消滅時効の成否について (1)民法168条1項は,定期金の債権は第1回の弁済期から20年間行使しないときは消滅する旨定めている。同項にいう定期金の債権とは,定期に一定の給付をさせることを目的とする債権であり,各期の給付の債権(支分権)を発生させる基となる基本権をいう。 賃貸借契約に基づく賃料債権は,定期に一定の給付をさせることを目的とするという意味では,定期金の債権の性質を有するが,賃借権は必ず賃料の支払を伴うものであり,賃料の支払を伴わない賃貸借契約を認めることはできないから,定期金の債権の消滅時効を定めた同項は,賃料債権には適用されないと解される。 (2)放送法15条,16条は,被控訴人が,公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内基幹放送を行うとともに,放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行い、あわせて国際放送及び協会国際衛星放送を行うことを目的とする法人であることを定めている。 他方,放送法64条1項本文及び旧放送法32条1項本文は,被控訴人の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は,被控訴人と放送受信契約を締結しなければならないと定め,上記各条2項は,被控訴人は,予め総務大臣の認可を受けた基準によるのでなければ,上記契約の締結者から徴収する放送受信料を免除してはならないと定めている。 このように,被控訴人が上記放送を受信可能とする義務を負担していることに対応して,受信設備の設置者である控訴人が,放送受信契約を締結し,同契約関係を継続し,同契約の重要な内容として放送受信料の支払義務を負担していることからすると,上記基準により例外的に放送受信料が免除の対象とされる場合を除き,放送受信契約には必ず放送受信料の支払義務が伴うものであり,放送受信料の支払義務の伴わない放送受信契約の存在を認める余地はないものというべきである。 そうすると,被控訴人が控訴人との放送受信契約に基づいて有する放送受信料債権(基本権)については,民法168条1項は適用されないと解するのが相当である。 2 控訴人が支払うべき放送受信料の金額(被控訴人原審請求分) (1)認定事実 前記前提事実,証拠(乙1,乙2,乙7,乙8)及び弁論の全趣旨によると,次の事実を認めることができる。 ア 控訴人は,平成7年6月30日,被控訴人に対し,本件受信契約につき少なくとも同年7月分の放送受信料1370円を支払った。 イ 被控訴人は,平成28年4月4日,控訴人に対し,その時点で未払となっている平成7年8月~平成28年5月の放送受信料合計34万1480円の支払を求める書面を発送し(乙8),平成28年4月上旬に控訴人に到達した。 ウ 被控訴人は,平成28年9月9日,控訴人に対し,平成7年8月~平成28年7月の放送受信料合計34万4100円及び遅延損害金の支払を求める反訴を提起した。 エ 控訴人は,平成28年10月26日の原審弁論準備手続期日において,被控訴人の上記請求について,5年の経過による消滅時効(民法169条)を援用する旨の意思表示をした。 オ 被控訴人は,平成28年12月21日の原審弁論準備手続期日において,反訴請求を平成23年4月~平成28年11月の放送受信料合計8万9080円及び遅延損害金の支払を求めるものに減縮した。 カ 平成23年4月~平成28年11月の本件受信契約による放送受信料は,後記(ア)~(ウ)の合計8万9080円である。 (ア)平成23年4月~平成24年9月の毎期払による放送受信料は2万4210円である(月額1345円×18か月)。 (イ)平成24年10月~平成26年3月の継続振込等・毎期払による放送受信料は2万2950円である(月額1275円×18か月)。 (ウ)平成26年4月~平成28年11月の継続振込等・毎期払による放送受信料は4万1920円である(月額1310円×32か月)。 (2)前記(1)の認定事実によれば,控訴人が平成28年10月26日に5年の経過による消滅時効(民法169条)を援用したことにより,平成23年3月以前の放送受信料債権(支分権としてのもの,以下同じ。)は時効により消滅したものといえる(最高裁判所第二小法廷平成26年9月5日判決・裁判集民事247号159頁参照)。 他方,平成23年4月~9月の放送受信料債権については平成28年4月上旬の催告(前記(1)イ)及び同年9月9日の反訴提起により消滅時効が中断し,平成23年10月以降の放送受信料債権については平成28年9月9日の本件反訴提起により消滅時効が中断しており,いずれも消滅時効が完成していない。 そうすると,本件受信契約に基づき,控訴人に対し,平成23年4月~平成28年11月の未払放送受信料合計8万9080円の支払を求める被控訴人の請求は理由がある。また,本件受信料契約の条項に当たる本件規約の6条,12条の2によれば,控訴人に対し,上記未払放送受信料に対する平成28年12月19日付け訴えの変更申立書の送達の日である平成28年12月21日の翌々月初日である平成29年2月1日から原判決主文第1項掲記の遅延損害金の支払を求める被控訴人の請求は理由がある。 3 控訴人が支払うべき放送受信料の金額(被控訴人当審追加請求分) (1)認定事実 前記前提事実及び弁論の全趣旨によると,平成28年12月~平成29年5月の継続振込等・毎期払による放送受信料は7860円である(月額1310円×6か月)ことを認めることができる。 (2)前記(1)の認定事実によれば,本件受信契約に基づき,控訴人に対し,平成28年12月~平成29年5月の未払放送受信料合計7860円の支払を求める被控訴人の請求は理由がある。また,本件受信料契約の条項に当たる本件規約の6条,12条の2によれば,控訴人に対し,上記未払放送受信料に対する附帯控訴状の送達の日である平成29年6月23日の翌々月初日である平成29年8月1日から本判決主文第2項掲記の遅延損害金の支払を求める被控訴人の請求は理由がある。 第5 結論 以上によれば,原判決は相当であり,控訴人の本件控訴は理由がなく,被控訴人の本件附帯控訴に基づく当審追加請求は理由がある。 よって,主文のとおり判決する。(大阪高等裁判所第11民事部) 以上:4,536文字
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