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建物建築設計で敷地・擁壁調査を怠った建築士の責任を認めた判例紹介

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平成30年12月20日(木):初稿
○建物の建築設計を依頼した1級建築士に対する建物の敷地・擁壁調査を怠った責任追及の相談を受けており、関連判例を探しています。40年前の古い判例ですが、敷地調査義務を尽くさなかったことについて責任を認めた昭和53年11月2日大阪地裁判決(判タ387号86頁)が見つかりましたので関連部分を紹介します。

○関連規定は次の通りです。
建築士法第18条(設計及び工事監理)
 建築士は、設計を行う場合においては、設計に係る建築物が法令又は条例の定める建築物に関する基準に適合するようにしなければならない。
2 建築士は、設計を行う場合においては、設計の委託者に対し、設計の内容に関して適切な説明を行うように努めなければならない。
3 建築士は、工事監理を行う場合において、工事が設計図書のとおりに実施されていないと認めるときは、直ちに、工事施工者に対して、その旨を指摘し、当該工事を設計図書のとおりに実施するよう求め、当該工事施工者がこれに従わないときは、その旨を建築主に報告しなければならない。

建築士法第2条(定義)
この法律で「建築士」とは、一級建築士、二級建築士及び木造建築士をいう。
2 この法律で「一級建築士」とは、国土交通大臣の免許を受け、一級建築士の名称を用いて、建築物に関し、設計、工事監理その他の業務を行うものをいう。
(中略)
8 この法律で「工事監理」とは、その者の責任において、工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認することをいう。

建築基準法施行令第38条(基礎)
 建築物の基礎は、建築物に作用する荷重及び外力を安全に地盤に伝え、かつ、地盤の沈下又は変形に対して構造耐力上安全なものとしなければならない。


○昭和53年11月2日大阪地裁判決(判タ387号86頁)は
①建築物の基礎の不同沈下によって上部構造に生じた欠陥について、一級建築士に敷地調査義務を尽さなかった設計上の過失
②工事施工者の手抜き工事について、一級建築士に工事施工者に対する指導監督義務を怠った監理上の過失
③建築物の設計監理を委託された建築事務所及びその担当者である一級建築士に、この設計監理義務違反によって建築主に生じた損害の賠償責任
と認めました。参考になります。

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主   文
一 被告らは各自原告に対し、金465万0165円とこれに対する昭和41年9月19日から支払いずみまで年5分の割合による金員を支払え。
二 原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は被告らの負担とする。
四 この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事   実
第一 当事者の求めた裁判

一 原告
1 被告らは各自原告に対し、金489万3985円とこれに対する昭和41年9月19日から支払いずみまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの連帯負担とする。
3 仮執行宣言

二 被告ら
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二 当事者の主張
一 請求の原因

1 被告株式会社Y1(以下被告会社という)は、建築設計、施行監理を目的とする株式会社であり、被告Y2は被告会社に勤務する一級建築士である。

2 原告は、昭和39年11月20日、被告会社との間で、○○市○○二丁目1828番2(旧表示同市○○○○1828番2)の土地と同番7(旧表示同市○○○○1828番7)の土地(以下、単に2の土地、7の土地といい、二筆の土地を合わせて本件土地という)上に木造瓦葺二階建居宅(以下本件建物という)と付属建物を新築するについて設計監理契約を締結し、被告Y2がその担当者となつた。

3 訴外A田工務店ことAは、原告との間の建築請負契約に基づき、被告Y2が作成した設計図に従い、その監理の下に本件建築工事を施工した。
 右工事は昭和40年4月末、完成し、原告は同年5月2日、本件建物に入居した。

4 右入居後まもなく雨漏りがしたのを初め、同年5月26日の大雨を契機に本件建物の柱と床、壁の間などに徐々に隙間ができ、本件建物全体が東南方向にゆがむなど本件建物に種々欠陥が生じた。
 その原因は、本件建物の東南部分の基礎が大雨を契機に不同沈下を起こしたためと、小屋組を初めとして本件建物の木工事全体に手抜き工事があつたためである。


(中略)


理   由
一 請求の原因第一項ないし第三項の各事実は当事者間に争いがない。
二 本件建物に欠陥が生じた原因についての検討
1 本件建物に原告主張の欠陥が生じたことは当事者間に争いがない。

2 右の当事者間に争いがない事実や、《証拠略》を総合すると次の事実が認められ(る。)《証拠判断略》
(一)建物の基礎は、建築後しばらくの間は時間の経過とともに荷重そのものによつてある程度自然に沈下する。建物の各点の沈下量が同じである場合にはその上部構造にひずみは生じないが、建物が硬質地盤と軟弱地盤にまたがつて建築された場合には、軟弱地盤上の建物の基礎の沈下量が硬質地盤上のそれより大きいため、いわゆる不同沈下をおこし、上部構造全体が軟弱地盤の方向にひずみを生じ、建物不良の原因となる。

(二)本件土地は、大東土地が昭和39年1月ころから同年夏ころにかけて造成したばかりの砂層の土地である。
 その切土と盛土の各範囲と本件建物の建築位置はおよそ別紙添付図面のとおりであり、これによると、本件建物の基礎のうち、書斎を中心とした東南部分は右造成直後の盛土の上にあるのに対し、その他の部分はほぼ切土の上にその基礎がある。

(三)本件建物は書斎を中心に全体が東南方向にねじれるように変形している。そして、書斎のガラス戸は自然にゆるやかに東へ移動するほど東寄りに傾斜し、かつ、その床部分が沈下し、さらに和室八畳間の南側廊下や南側鴨居の高さが中央と比較して東側に行くほど低くなつているなど、建物の東側全体が沈下している。

(四)他方、一級建築士訴外Bが書斎と東側擁壁の間で敷地を1メートル掘り下げて調査した結果、東側擁壁の裏側には亀裂はなかつたし、敷地と擁壁の間には擁壁が移動または沈下したと認められる隙間はなかつた。
 また、訴外Cの調査によつても、本件土地の土が擁壁外に流出したと認められる痕跡はなかつた。
 さらに、原告が昭和42年に4か月間にわたり某大手建築会社に依頼して擁壁の移動があるかどうか測定させたところ、その移動は全然認められなかつた。

(五)ところで、本件建物の施工には次のとおり欠陥がある。すなわち、本件建物の基礎の割栗石の幅は布基礎幅より狭いし、基礎自体と基礎上端の均しモルタルが水平を欠いている。また、本件建物に相応の建築材料を使用しているのに、小屋組、軸組など木工事の主要部分が通常の工法で施工されず、手抜きされている。

3 このような本件土地の地盤状況、本件建物の建築位置、本件建物におけるひずみのあらわれ方などに、擁壁の移動・損傷により土砂が擁壁外に流出した事実が認められないことを総合すると、本件建物に欠陥が生じた主たる原因は硬質地盤と軟弱地盤にまたがつて本件建物を建築したことによる不同沈下にあると認めるほかはない。
 そして、この不同沈下に前記2(五)で認定した基礎工事の施工の不完全と木工事の手抜き工事が加わつて本件建物の欠陥を拡大したというべきである。

4 被告らは本件地盤沈下の原因について、大東土地が施工した擁壁工事はその水抜きが不足していたため大雨によつて地中に浸透した水を含んだ土の圧力が増加して東側擁壁を移動・損傷させ、本件土地の土が右損傷箇所と擁壁下部から擁壁外に流出したため本件土地の土量が減少して地盤が沈下した旨主張し、《証拠略》中にはこれに沿う部分があり、《証拠略》によると東側擁壁と南側擁壁にいずれも亀裂があることが認められる。

 しかし、前記認定のとおり、東側擁壁が移動したことは認められないし、右亀裂があることから直ちに被告ら主張のように土砂が流出したと推認することはできない。また、被告Y2は実際に土砂の流出を現認していないし、流出量を測定したわけでもなく、単なる推論を述べているにとどまるから採用できない。

 また、《証拠略》によると被告らの擁壁移動論の根拠は要するに基礎工事施工の際、東側擁壁に接着させておいたコンクリート基礎が約1センチメートル離れていたということに帰着するが、被告Y2はその本人尋問において、基礎コンクリートを打つ時には現場に居合わせなかつた旨供述しており、さらに後記認定のとおり、被告Y2は基礎工事の際、一度も現場に行かず、電話でコンクリートのベースを倍にせよと指示したにとどまり、擁壁に接着させるように指示したことは認められないし、Aが擁壁に接着させて工事をしたことも認められない。そのほかに擁壁と基礎コンクリートが被告ら主張のように接着していたことが認められる証拠はないから、この主張はその前提を欠くというほかはない。

 鑑定人Dの鑑定の結果は、本件擁壁が建築基準法上の確認手続を経ていないとの事実から擁壁に構造的欠陥があると断じ、本件において被告Y2が基礎を補強するため、基礎コンクリートの幅を広げさせたことは相当であつたから、もし擁壁に欠陥がなければこのような建物の欠陥は生じないことを前提に立論している。しかし、同鑑定人自ら擁壁の設計図、強度計算書の資料などを検討していないことを認めているから、建築基準法上の確認手続を経ていないとの一事から直ちにその構造に欠陥があることを推認することは難しいというべきである。

 また、被告Y2の前記指示については、《証拠略》によると、Eは、本件の場合コンクリートの幅を広げても効果はなく、地山まで基礎を掘り下げるべきであつた旨の見解を示していることが認められ、被告Y2の指示の妥当性については見解の相違もある。そうすると、この鑑定の結果は、その前提に疑問があるから直ちには採用できない。
 以上のとおり、被告らのこの主張は具体性、合理性に乏しく理由がないというほかはない。

三 責任原因についての判断
1 《証拠略》を総合すると次の事実が認められ(る。)
《証拠判断略》
(一)原告は昭和38年6月5日、2の土地をAから買受けたとき同訴外人に要望されて本件建築工事を同訴外人に請負わせることにしたが、同訴外人の人柄に不安があつたので、妻Fの父の紹介により被告会社に設計監理を委託することとし、昭和39年6月20日、原告、F、その弟の3名で被告会社を訪れ、訴外Gと被告Y2に右委託の趣旨を話し、その場で被告Y2に大東土地から入手していた本件土地の図面を交付して本件土地と周囲の状況について説明した。

(二)原告ら3名と被告Y2は同日、その足で本件土地を見に行つたが、未だ造成中であつた。すなわち、7の土地の造成工事は大分進んでいたが、まだ全体に盛土されておらず、南側擁壁のうち下部コンクリート部分は完成し、そこまで盛土されていたが、上部ブロツク部分はまだ積まれておらず、したがつて盛土もまだであり、本件土地は2の土地から7の土地へ向つて斜面になつていた。

 被告Y2は本件土地のこのような状況および本件土地の西側に道路があることは一目でわかつたが、本件土地上で、右図面の9ポイントを確認しなかつたため、右道路が本件土地に含まれている私道であることに気づかなかつた。
 被告Y2は擁壁に水抜きがあるかどうかについては勿論、擁壁の状況について何も調査しなかつたし、原告に擁壁や地盤に関する資料の提供を求めなかつた。

(三)被告Y2は、設計図を作成するまでにもう一度本件土地を踏査したが、本件建物のような木造建物では地盤の調査は不要と考えていたので、このときも盛土と地山の範囲については勿論、擁壁の状況について調査しなかつた。

(四)被告Y2は、このような2度の調査と原告らの要請をもとにして同年8月ころ、本件土地の設計図を作成したが、その際、地盤が盛土が切土かどうかはまつたく顧慮せず、均一地盤に建築するものとして基礎構造を考え、建築位置を決定した。

(五)同年11月23日、本件土地上で地鎮祭が行なわれ、Gも出席した。このとき、本件土地は、一目で造成完成直後であることがわかる状況であつた。
 ところで、右設計図に従つて縄張りしたときに初めて、被告Y2が私道部分を本件建物の敷地に含めて設計していることが判明し、大騒ぎになつたため、この日、原告と被告Y2らは擁壁を見てまわる余裕はなかつたし、被告Y2ないしGから擁壁に水抜きが少ない旨の指摘はまつたくなかつた。

(六)被告Y2は設計にひきつづき監理を担当したが、基礎工事の際、一度も現場へ行かなかつた。本件建物の基礎の東南部分の土地は掘つても掘つてもやわらかいからどうしたらよいかと電話で指示を求められた際にも、電話でコンクリートのベースを倍にせよと指示しただけであつた。
 被告Y2はその後も材料の検査は一応行なつたものの現場から特に要請されない限り、現場へ出向かなかつた。

(七)Aが施工した本件建築工事には次のとおり欠陥があつた。すなわち、本件建物の布基礎下の割栗石の幅は設計図に反し、布基礎幅よりも狭く、基礎自体と基礎上端の均しモルタルが水平を欠いていた。また、小屋組、軸組など木工事の主要な部分に手抜き工事がされていた。

(八)被告らが、擁壁に水抜きが少なく、擁壁に原因があることを指摘したのは昭和40年10月27日が初めてであつた。

(九)なお、本件設計監理契約の報酬については、GからFの父の紹介ということで特別に安くしておく旨の注釈があつたが、原告は被告会社の請求どおり金40万円を支払つたもので、原告の方から値切つたことはない。

2 右認定の事実から、被告Y2に設計監理者としての注意義務を怠つた過失があるかどうかについて検討する。
(一)設計上の過失について

(1)建築士法18条2項は、建築士は、設計を行う場合においては、これを法令又は条例の定める建築物に関する基準に適合するようにしなければならない旨規定し、建築基準法施行令38条1項は、建築物の基礎は、建築物に作用する荷重及び外力を安全に地盤に伝え、かつ、地盤の沈下又は変形に対して構造耐力上安全なものとしなければならないと規定している。
 したがつて、被告Y2は、一級建築士として設計にあたり、現地を十分調査し、敷地上に完全な建築物が建築されるように基礎構造を十分検討して設計すべき注意義務があるというべきである。


(2)被告Y2は、本件土地が造成地であり切土と盛土の硬軟両質の地盤で構成されていることを認識していたから、建築位置と基礎構造を十分検討しないと不同沈下がおこり、本件建物がひずむ危険があることを容易に予見できたのに、地盤の状態をまつたく無視して基礎構造を初め本件建物の設計図を作成したから、設計にあたり、敷地調査義務を十分に尽さなかつた過失がある。

(3)もつとも鑑定人Dの鑑定の結果によると、本件報酬に照らすと敷地の調査はいわゆる予備調査で足りるとされているが、前記認定の本件設計監理報酬決定の経過に照らすと右報酬額をもつて直ちに本件の場合にも予備調査で足りるとすることはできない。さらに、被告Y2は設計にあたり、本件建物のような木造建物ではそもそも地盤調査は不要と考え、これをしなかつたのであり、しかも、本件の場合には、費用のかかる本調査をするまでもなく、被告Y2は本件土地が盛土と切土から構成されていることを認識しており、容易に大東土地に造成の事情を確認でき、その障害もなかつたのにこれをしなかつた。そうすると、本件の場合、被告Y2は本調査をしなくても不同沈下のおこる危険性を容易に認識できたというほかはないから、予備調査の義務しかないことを理由に過失を免れることはできない。

(二)監理上の過失について
(1)建築士法2条5項は、この法律で「工事監理」とは、その者の責任において、工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認することをいうと規定し、同法18条3項は、建築士は、工事監督を行う場合において、工事が設計図書のとおりに実施されていないと認めるときは、直ちに、工事施工者に注意を与え、もし工事施工者がこれに従わないときは、その旨を建築主に報告しなければならないと規定している。
 したがつて、被告Y2は、一級建築士として監理にあたり、設計図どおりに工事が施工され、いやしくも手抜き工事が行なわれないように工事施工者であるAを指導監督すべき注意義務があつたというべきである。


(2)被告Y2は、基礎工事中一度も現場に行かなかつたため、基礎工事の欠陥を発見できなかつたし、誠実に監督しなかつたため、木工事の手抜き工事を発見できなかつたから,監理者として工事施工者に対する指導監督義務を怠つた過失がある。

3 本件建物の欠陥は前記認定のとおり、不同沈下と施工不完全にその原因があるところ、被告Y2が一級建築士として誠実に設計監理義務を尽していたなら不同沈下の発生をさけることができたし、施工の不完全も是正できたといえる。
 従つて、被告Y2の過失と本件建物に欠陥が生じたことの間には相当因果関係があるから、被告Y2は民法709条に基づき、本件建物に欠陥が生じたことによつて原告の被つた損害を賠償する責任がある。

4 被告会社は、従業員である被告Y2に本件設計監理を担当させたから、民法715条に基づき原告の被つた損害を賠償する責任がある。

5 被告らは、被告Y2は設計監理者としての注意義務を尽しており、本件建物に欠陥が生じた原因は大東土地の擁壁工事に欠陥があつたためで不可抗力である旨主張している。
 しかし、被告Y2には前記認定のとおり過失があつたものであり、本件建物の欠陥が擁壁工事に起因するものでないことも前記認定のとおりであるから、被告らの主張は理由がない。
以上:7,331文字

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