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民法第235条”目隠し”設置要求が一部認められた判決紹介1

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平成30年11月 6日(火):初稿
○民法第235条の「目隠し」に関する質問を受けました。滅多にない質問で、条文は以下の通りです。
第235条
境界線から1メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側(ベランダを含む。次項において同じ。)を設ける者は、目隠しを付けなければならない。
2 前項の距離は、窓又は縁側の最も隣地に近い点から垂直線によって境界線に至るまでを測定して算出する。


○隣人の私生活を保護する規定で要件に当てはまる場合隣人は目隠しの設置を裁判上強制することができますが、裁判例を調べると結構出てきますが、典型例として、3階建アパートの窓及びベランダの一部について、民法235条に基づき、目隠設置請求が認められた平成5年3月5日東京地裁判決(判タ844号178頁)を紹介します。

○本件小窓及び3階に設置されたベランダについては、通常の状態で原告A宅地内を眺望しうるものではないから、民法235条にいう「他人の宅地を観望すべき窓」に該当しないといわざるを得ない。さらに、2階ベランダと本件引戸窓のうち(6)、(12)及び(15)を除く窓については、原告B宅地内を眺望しうるものではなく、また、(6)及び(15)の本件引戸については原告A宅地内を眺望しうるものではないから、右各原告との関係においては、いずれも同様に、民法235条にいう「他人の宅地を観望すべき窓」に該当しないといわざるを得ない。しかしながら、本件引戸窓のうち(1)、(7)及び(12)の各窓及び二階ベランダからは原告A宅地内の一部を、本件引戸窓(6)、(12)及び(15)からは原告B宅地内の一部をそれぞれ眺望しうるものであるから、民法235条にいう「他人の宅地を観望すべき窓」に該当する。もつとも、本件引戸窓は、いずれも曇り硝子がはめこまれていて締め切つた状態では硝子を通して外部を見ることができないものの、右各窓はいわゆるはめ殺し窓ではなく、換気のため等の理由で開けることを日常的に予定されているものと考えられるから、本件引戸窓が曇りガラスであるというだけでは右の判断を左右するものではないとしています。

○プライバシー侵害に基づく損害賠償請求については、原告Aが日常生活上不便を感じたことは推認できるが、本件全証拠によっても、原告Aのプライバシー侵害の程度が社会生活上一般に受忍すべき限度を超えるものであったことを認めることができず、その他本件の各窓やベランダの設置によって原告らのプライバシーが侵害されたことを認めるに足りる証拠はないとして請求が棄却されています。

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主  文
一 被告は、原告Aに対し、
1 別紙物件目録記載二の建物の一階及び二階に設置された窓のうち、別紙図面記載の(1)及び(7)の各窓に接着してその窓全面に高さ1.2メートル、幅1.8メートルの
2 同図面の二階北東側に面するベランダの端の手すりに高さ1.5メートル、幅1.2メートルの
 アルミまたはステンレス製の格子状フレーム付きの不透明のアクリル樹脂製波板又はこれに類するものをもって目隠塀を設置せよ。
二 原告Aのその余の請求及び原告Bの請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用中、原告Aと被告との間に生じたものはこれを2分し、その1を原告Aの負担その余を被告の負担とし、原告Bと被告との間に生じたものは全部同原告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事  実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨

1 被告は、原告らに対し、別紙物件目録記載二の建物の一階、二階及び三階に設置された窓及びベランダのうち、
(一) 別紙図面記載の(1)(6)(7)(12)(15)の各窓に高さ1.2メートル、幅1.8メートルの、
(二) 同図面記載の(2)ないし(5)、(8)ないし(11)、(13)(14)の各窓に高さ0.7メートル、幅0.4メートルの、
(三) 二階及び三階の北東側に面するベランダの端の手すりに高さ1.5メートル、幅1.2メートルの
 アルミまたはステンレス製の格子状フレーム付きの不透明のアクリル樹脂製波板又はこれに類するものをもって目隠塀を設置せよ。
2 被告は、原告ら各自に対し、それぞれ金50万円及びこれに対する平成2年12月2日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 仮執行宣言

二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二 当事者の主張
一 請求原因
1 目隠設置請求
(一) 民法235条に基づく目隠設置請求

(1) 原告A(以下「原告A」という。)は、東京都文京区○二丁目○番○所在の宅地(以下「原告A土地」という。)上に建物(以下「原告A建物」という。)を所有して居住しており、原告Bは、原告A建物に隣接して原告A土地上に建物(以下「原告B建物」という。)を所有し、居住している。

(2) 被告は、平成2年12月2日、原告A土地に隣接して、別紙物件目録記載一及び三の宅地(以下「被告土地」という。)上に同目録記載二のアパート(以下「被告建物」という。)を建築完成させ、これを所有している。

(3) 被告建物の一階から三階部分には、原告A土地との境界線から1メートル未満の位置に、窓(別紙図面記載の(1)ないし(16)の各窓。以下「本件窓」という。)及びベランダ(別紙図面記載の二階及び三階部分のベランダ。以下「本件ベランダ」という。)がそれぞれ設置されている。

(4) 別紙図面記載の(16)の窓を除く本件窓及び本件ベランダは、それぞれ原告A及び原告Bの各宅地内を観望すべき窓及び縁側に該当し、被告は、民法235条により目隠を設置すべき義務を負っている。

(二) 合意に基づく目隠し設置請求
 被告は、平成2年7月2日、被告建物建築に関して原告らと話し合った際、原告らに対し、本件窓のうち別紙図面記載の(1)(6)(7)及び(16)の各窓及び本件ベランダに目隠を設置することを約し(以下「本件合意」という。)、平成3年4月20日ころ、別紙図面記載の(16)の窓については目隠を設置した。

2 プライバシー侵害に基づく損害賠償請求
(一) 本件窓及び本件ベランダから常に原告らの居宅が観望されることによって原告らのプライバシーが侵害されており、それによる精神的苦痛は、原告らにおいて受忍すべき程度を超えている。

(二) 右プライバシー侵害により原告らが被った精神的苦痛を慰謝するには、それぞれ金50万円が相当である。

3 よって、原告らは、被告に対し、民法235条に基づき、本件窓のうち別紙図面記載の(1)ないし(15)の各窓及び本件ベランダについて、又は、本件合意に基づき、同図面記載の(1)(6)及び(7)の各窓及び本件ベランダについて、このうち同図面記載の(1)(6)(7)(12)(15)の各窓には高さ1.2メートル、幅1.8メートルの、(2)ないし(5)、(8)ないし(11)、(13)(14)の各窓には高さ0.7メートル、幅0.4メートルの、二階及び三階の北東側に面するベランダの端の手すりに高さ1.5メートル、幅1.2メートルの、アルミまたはステンレス製の格子状フレーム付きの不透明のアクリル樹脂製波板又はこれに類するものをもって目隠を設置することを求めるとともに、不法行為による損害賠償請求として、それぞれ金50万円及びこれに対する本件不法行為成立の日である平成2年12月2日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二 請求原因に対する認否
1
(一) 請求原因1(一)(民法235条に基づく目隠設置請求)(1)ないし(3)の各事実は、いずれも認める。(4)は否認ないし争う。1、2階の窓の硝子は曇り硝子であり、通常は締め切ったままになっている上、別紙図面記載の(2)ないし(5)、(8)ないし(11)、(13)及び(14)の各窓は押し開き式の小窓であって、容易には原告らの宅地を眺望することはできず、いずれも「他人の宅地を観望すべき窓」にはあたらない。

(二) 同1(二)(本件合意に基づく目隠設置請求)の事実のうち、被告が同図面記載の(16)の窓について目隠を設置したことは認め、その余は否認する。右窓については、入居者の希望により被告が自主的に目隠を設置したに過ぎず、原告らとの間で目隠設置について合意したことはない。

2 同2(プライバシー侵害)(一)及び(二)はいずれも否認ないし争う。

3 同3は争う。

三 抗弁
1 異なる慣習の存在(請求原因1(一)に対し)
 被告建物が所在するような都市部においては、民法235条1項の規定と異なり、目隠を設置しない慣習が存在するものというべきである。

2 建築基準法65条による民法235条の規定の排除(請求原因1(一)に対し)
 被告建物は、建築基準法65条に従って建築されたものであり、同条は民法234条及び235条の特則であるから、境界線との間に間隔を開ける必要もなく、また、目隠設置の義務もないものと解すべきである。

3 本件合意の撤回(請求原因1(二)に対し)
 仮に本件合意が成立しているとしても、その後、被告は、原告らとの間で、従前の交渉は一切白紙に戻す旨合意したのであるから、本件合意はそれによって撤回されたものである。

4 権利濫用(請求原因1(一)及び(二)に対し)
 本件窓及び本件ベランダに目隠を設置することによって被告が被る不利益は、本件窓及び本件ベランダが境界線から一メートル未満の位置にあることによって原告らが被る不利益に比して甚大であり、また、原告A建物及び原告B建物も、境界線から一メートル未満の位置に窓を有していることからしても、原告らの主張は、権利の濫用である。

 それに加えて、被告は、被告建物を建築する以前から被告土地上に二階建木造建物(以下「被告旧建物」という。)を所有し、居住していたところ、原告Aは、昭和58年2月ころに原告A建物を建築し、その際、被告土地との境界線から一メートル未満の位置に窓を設置しながら、被告に対して、これは明かり取りのための窓である旨述べた。それにもかかわらず、新築後の被告建物の窓及びベランダについて目隠設置を要求するのは権利の濫用であって許されない。仮に本件合意が成立しているとしても、その後、被告は、原告らとの間で、従前の交渉は一切白紙に戻す旨合意したのであるから、本件合意はそれによって撤回されたものであり、本件合意によって原告らの目隠し設置請求が権利濫用にあたらないということはできない。

四 抗弁に対する認否
1 抗弁1(異なる慣習の存在)は否認する。

2 同2(建築基準法65条による民法235条の規定の排除)は、否認ないし争う。建築基準法65条は、民法234条の規定の特則であるに過ぎず、同条によって民法235条規定の目隠設置義務が排除されるものではない。

3 同3(本件合意の撤回)は否認する。

4 同4(権利濫用)のうち、被告が被告旧建物を所有して居住していたこと、原告Aが昭和58年2月ころ原告A建物を建築したこと及び原告ら所有建物の窓が境界線から一メートル未満の位置に設置されていることの各事実は、明らかに争わない。その余は否認ないし争う。原告A建物新築に際し、被告から目隠設置を要求されたことはなく、また、原告らは、被告との間で、本件窓のうち別紙図面記載の(1)(6)(7)及び(16)の各窓及び本件ベランダに目隠を設置する旨の本件合意を成立させており、右約束が撤回されたことはないのであるから、原告らの被告に対する目隠設置請求は権利濫用にあたらない。

第三 証拠〈省略〉


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