平成25年 6月27日(木):初稿 |
○サラ金業者との取引において、一方で相当以前に取引が終わった過払金返還請求権があり、他方新たな取引に基づく借入金が残っている場合、過払金返還請求権と借入金残金債務を相殺すると主張することがよくあります。特に過払金返還請求権が発生して10年以上経過している場合、当然、サラ金側からは時効消滅援用で支払を拒否されますが、時効消滅した債権でも、民法第508条の「時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができる。」との規定により、相殺には使えると主張します。 ○ところが、この主張が平成23年7月8日札幌高裁で認められたのに平成25年2月28日最高裁判決(判時2182号55頁、裁判所時報1574号52頁)で覆されました。サラ金利用者側にとっては大変不利な判決ですが、相殺適状の時期及び民法第508条の適用範囲について初めて明示的な判断を示したものとのことです。私の認識としては意外な、且つ、残念な判決ですが、重要な判決ですので以下に紹介します。 事案は次の通りです。 ・Xは貸金業者Yとh7.4.17からh8.10.29まで利息制限法違反利息約定で継続的な金銭消費貸借取引の結果、18万0593円の過払金発生 ・Xは,h14.1.23、A社に対し借入金担保のため自己所有不動産に極度額700万円の根抵当権設定し、h14.1.31、h19までの分割弁済で期限の利益喪失約款付きで金457万円借入、 ・h15.1YはA社を吸収合併しAの地位承継 ・XはA社・Yに約定弁済を継続し、h22.6.2現在残元金約189万円、同年7.1返済を怠り期限の利益喪失 ・Xはh22.8.17、Yに対し本件過払金返還請求権を含む合計約28万円を自働債権とし,本件貸付金残債権を受働債権として,対当額で相殺する旨の意思表示し、同年11.15までに借入金残金約167万円弁済し、Xはこの相殺・弁済により被担保債権の消滅と主張し根抵当権設定登記抹消請求 ・Yはh22.9、Xに対し過払金返還請求権の消滅時効を援用する意思表示して貸付金返還請求反訴提起 原審h23.7.8札幌高裁は、本訴請求認容、反訴請求棄却、その理由は ①貸付金残債権は貸付時に発生し,Xは,期限の利益を放棄すれば受働債権として過払金返還請求権と相殺可能になるところ、h15.6YはAを吸収合併し、XY間で債権債務の相対立する関係が生じたので両債権は相殺適状になった ②Xは民508により,消滅時効が援用された過払金返還請求権と貸付金残債権とを対当額で相殺でき、貸付金債権は,相殺及び弁済により全て消滅 ○ところが、平成25年2月28日最高裁判決判示の結論は、破棄・差し戻しでした。その理由は以下の通りです。 ①既に弁済期にある自働債権と弁済期の定めのある受働債権とが相殺適状にあるというためには,受働債権につき,期限の利益を放棄することができるというだけではなく,期限の利益の放棄又は喪失等により,その弁済期が現実に到来していることを要する。 ②時効によって消滅した債権を自働債権とする相殺をするためには,消滅時効が援用された自働債権は,その消滅時効期間が経過する以前に受働債権と相殺適状にあったことを要する。 「本件貸付金残債権については,Xがh22.7.1の返済期日における支払を遅滞したため,本件特約に基づき,同日の経過をもって,期限の利益を喪失し,その全額の弁済期が到来したことになり,この時点で本件過払金返還請求権と本件貸付金残債権とが相殺適状になったといえる。そして,当事者の相殺に対する期待を保護するという民508の趣旨に照らせば,同条が適用されるためには,消滅時効が援用された自働債権はその消滅時効期間が経過する以前に受働債権と相殺適状にあったことを要する。」 ○Xは、おそらく平成22年7月1日期限の利益喪失後に専門家に相談して、過払金返還請求権の存在を知り、これを有効活用すべく相殺に供し、残金の支払を少しでも減らして根抵当権設定登記を抹消しようとしたものです。この最高裁判決が出る前は、民法508条で時効消滅債権でも相殺には使えるとの単純発想でアドバイスしていましたが、これからは、「相殺適状」について、厳格に判断しなければなりません。 以上:1,764文字
|