平成24年 5月10日(木):初稿 |
○当事務所では滅多にない相談ですが、生命保険に関する備忘録です。 A(夫)・B(妻)夫妻に、長男C、長女D、二男Eの3人の子供がいたところ、長男Cは妻Fと子供G、H、Iを残して最初に死亡していました。Aが、自分を被保険者、妻Bを受取人とする死亡保険金5000万円の生命保険契約を締結していましたが、受取人の妻が先に死亡し、受取人の変更手続をしないうちにAも死亡しました。この場合の死亡保険金受取人は誰になり、受取人の保険金額はどのように分配されるかという問題です。 ○生命保険契約には、約款があり、約款の定めで決まりますが、この約款は結構分厚いもので、生命保険契約を締結しても証券は大事に取ってありますが、この分厚い約款はどこかに紛失してしまうことが多いと思われます。約款の定めは,一応、置いて、保険法の範囲で上記問題を検討します。 ○関係する保険法の規定は次の条文です。 第46条(保険金受取人の死亡) 保険金受取人が保険事故の発生前に死亡したときは、その相続人の全員が保険金受取人となる。 この条文の通り、原則として保険金受取人が被保険者より先に死亡した場合の受取人は「相続人の全員」となりますので、上記設例ですは、Bの相続人は 夫A(法定相続分2分の1)、長男Cの代襲相続人G、H、I(法定相続分各18分の1)、長女D(法定相続分6分の1)、二男E(法定相続分6分の1)の6名になります。しかし、死亡保険金が発生するのは被保険者Aが死亡したときですから、Aの相続分は、その相続人即ち子供たちに法定相続分で相続されますので、最終的には、長男Cの代襲相続人G、H、I(法定相続分各9分の1)、長女D(法定相続分3分の1)、二男E(法定相続分3分の1)の5名になります。 ○問題は、各相続人の生命保険金5000万円の取得割合です。 私はてっきり、法定相続分によって取得割合も決まると思っていたのですが、そうではないようです。 平成5年9月7日最高裁判決(判時1106号199頁、判タ838号132頁)を紹介します。 この判決は、保険契約者(兼被保険者)によって保険金受取人として指定された指定受取人の死亡後に、指定受取人の法定相続人の1人である保険契約者(兼被保険者)が受取人の再指定をしないまま死亡した場合の商法676条の適用関係について最高裁としての判断を示したものです。 事案概要は以下の通りです。 Aは、Y保険会社との間で、昭和61年5月1日、自己を被保険者、母Bを保険金受取人とし、死亡保険金額を2000万円とする生命保険契約を締結し、Bが昭和62年5月9日に死亡し、次いでAが昭和63年11月13日に保険金受取人の再指定をすることなく死亡し、Bの法定相続人としてA及びXら3名の合計4名が、Aの法定相続人としてXら3名及びAの異母兄姉等11名の合計14名がいる。 Xら3名は、保険契約者であるAの死亡時に生存するBの法定相続人はXら3名であるから、商法676条2項によりXら3名が本件保険契約上の保険金受取人として確定したと主張して、Yに対し、それぞれ死亡保険金額2000万円の3分の1に当たる666万6666円の保険金の支払を求めて本訴を提起した。 第1審及び第2審判決は、指定受取人の死亡後に、保険契約者が保険金受取人の再指定をしないで死亡する以前に、指定受取人の法定相続人が死亡した場合には、商法676条2項により、死亡した法定相続人の法定相続人も保険金受取人となるのであるから、Xら3名は、B及びAの死亡により、Aの他の法定相続人11名とともに保険金受取人となったとして、Xらが取得した保険金の額はそれぞれ死亡保険金額2000万円の14分の1に当たる142万8571円であると判断した。 以上:1,536文字
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