平成24年 5月 8日(火):初稿 |
○「自律神経失調症患者への医師の言動に損害賠償責任-概要」の続きです。 この事案は判例時報2138号83頁掲載平成23年10月25日大阪地裁判決データで、医師と患者の遣り取りについての判決認定概要は、「産業医は患者を診た印象で、その状態は悪くなく、もう一歩で職場復帰できると感じ、可能な部分から前向きな生活にするよう励ますべく『それは病気やない、それは甘えなんや。』、『薬を飲まずに頑張れ。』、『こんな状態が続いとったら生きとってもおもんないやろが。』などと力を込めて言ったこと、患者の不安について,上司に事実確認が必要と告げたこと、患者が面談途中から,嗚咽が漏れないようにハンカチを噛み、下を向いて体を震わせながら涙を流していた」と言うものでした。 ○この判決の結論である主文は以下の通りでした。 1 被告は原告に対し、60万円及びこれに対する平成20年11月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、これを9分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 ○原告の請求は、被告産業医の言動で自律神経失調症が悪化して3ヶ月程復職が遅れ減額された給料総額約42万円の内金30万円を休業損害とし、産業医の言動で、急激に体調が悪化して自殺を考える程精神的に追い詰められたことに対する慰謝料として金500万円の合計530万円を請求し、判決は休業損害は30万円全額、慰謝料は30万円の合計60万円を損害として認め、言動があった日から年5%の割合による遅延損害金の支払を認めました。 ○530万円の請求に対し、60万円しか認められず、訴訟費用も9分の8は原告負担とされていますから、到底、原告の勝訴とは言えないのではとの評価もあると思われますが、この種の精神的苦痛に対する損害賠償訴訟では、少しでも金額が認められることに意義があり、勝訴と評価することも出来ます。しかしこの判決は、原被告いずれによるものかは不明ですが、控訴されており、最終的には大阪高裁に決着が持ち込まれています。 ○一般論として、うつ病で元気がなくなっている人に「頑張れ」と言う言葉は禁句と言われています。自分でも頑張りたいと思っていながら「頑張る」気力がなくなって苦しんでいる人に「頑張れ」と激励することは傷口に塩を擦りつけることと同じだからと思っております。東京都医師会HPで紹介したとおり、産業医とは、事業場において労働者が健康で快適な作業環境のもとで仕事が行えるよう、専門的立場から指導・助言を行う医師であり、産業医学研究領域には、ストレス・精神保健分野もあるようです。産業医の学会は日本産業衛生学会のようで産業保健専門職の倫理指針には詳細に産業医の役割が記載されています。 ○判決は、産業医は当然メンタルヘルスにつき一通りの医学的知識を有することが合理的に期待されているもので、自律神経失調症の患者に面談する産業医としては,安易な激励や,圧迫的な言動,患者を突き放して自助努力を促すような言動により,患者の病状が悪化する危険性が高いことを知り,そのような言動を避けることが合理的に期待されるところ、本件での産業医の言動は、原告の病状の概略を把握し,面談においてその病状を悪化させるような言動を差し控えるべき注意義務に違反すると断じています。 ○全くもって当然の結論と思われますが、我々弁護士も、お客様である相談者には、一種の精神カウンセラー的役割を果たさなければならない面があるところ、「安易な激励や,圧迫的な言動,患者(相談者)を突き放して自助努力を促すような言動」を取ることもあるのではないかと、大いに反省させられたところです。 以上:1,549文字
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