平成24年 4月28日(土):初稿 |
○以下、判例時報2138号83頁平成23年10月25日大阪地裁判決掲載データです。 自律神経失調症で求職中の会社員が産業医と面談したときの遣り取りについての原告主張です。 (産業医)「君、何の病気やねん」と詰問し、 「君の症状はだれにでもあることや。それは病気とは言えへん。薬で治れへん。病気を作り出しているんは君自身や。それは甘え、いうこっちゃ。」 と畳み掛けた。 (患者)自身の症状について「何の前触れもなく急に不安になる」と述べたところ (産業医)「そんな立派な体して、体力ないはずないやん」 と決め付け、患者が妻や友人といるときも同じような症状が出ると説明しても、それを信じようとせず,同席していた上司に 「確認せなあかんな。」 と取調のような口調で述べた。 (患者)涙(おそらく悔し涙)を流して泣く。 (産業医)「頑張って自分で治さなあかんで、薬に頼らずに。」 と述べ、 「そんな状態が続いとったら、生きとってもおもんないやろが。」 と言い放ち、面談の最後に 「頑張りや、ほんまに頑張るんやで。」 と言い残した。 ○産業医とは、企業等において労働者の健康管理等を行う医師で、労働安全衛生法により、一定規模の事業場には産業医の選任が義務付けられているものですが、この自律神経失調症の患者の方は、このような役割の産業医との遣り取りで、却って症状が悪化し、これによって復職時期が遅れるとともに精神的苦痛を被ったとして産業医に対し不法行為に基づく損害賠償として金530万円を支払えとの訴えを提起しました。 ○東京都医師会HPでの解説によると 産業医とは、事業場において労働者が健康で快適な作業環境のもとで仕事が行えるよう、専門的立場から指導・助言を行う医師を云います。産業医学の実践者として産業保健の理念や労働衛生に関する専門的知識に精通し労働者の健康障害を予防するのみならず、心身の健康を保持増進することを目指した活動を遂行する任務があります。となっていますが、本件は産業医との面談で却って症状が悪化して復職が遅れたというもので、患者の方の悔しさはひとしおで、遣り取りもシッカリと記憶していたものと思われます。 ○上記面談時の遣り取りについて産業医側は、「薬だけだ治すことは難しい」と述べたり、できる範囲で前向きな生活が送れるよう励ましの言葉をかけたことはあるが、詐病であるかのように詰問したり、患者の人格を否定するような発言をした事実はなく、また患者が面談中に涙を流したことはなく、ズッと下を向いたままで、産業医の言葉に特に反応を示すことはなかったと主張し、患者主張を全体的には否定しています。 ○この遣り取りについて判決の認定は、産業医は患者を診た印象で、その状態は悪くなく、もう一歩で職場復帰できると感じ、可能な部分から前向きな生活にするよう励ますべく「それは病気やない、それは甘えなんや。」、「薬を飲まずに頑張れ。」、「こんな状態が続いとったら生きとってもおもんないやろが。」などと力を込めて言ったこと、患者の不安について,上司に事実確認が必要と告げたこと、患者が面談途中から,嗚咽が漏れないようにハンカチを噛み、下を向いて体を震わせながら涙を流していたことなど、概ね患者側主張を認めています。 この判決の結論と,これに対する私の感想は,別コンテンツに続けます。 以上:1,361文字
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