平成23年 5月13日(金):初稿 |
○「建築請負工事出来高8割の建物一部が津波で損壊した場合」を続けます。 請負工事契約で、請負目的物、例えば建物建築の場合の建物が不可抗力で損壊した場合の危険負担は、債務者主義の原則で、請負人が負うのが民法の原則です。しかし、これでは請負人の立場は踏んだり蹴ったりで、やってられないと言うことで、請負工事契約の際に特約をつけて、危険負担債権者主義に修正するのが一般です。 この際の約款が民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款であり、大手に限らず中小の建築会社においても請負契約には相当割合で付けられています。 第21条 不可抗力による損害 (1)天災その他自然的または人為的な事象であって、甲・乙いずれにもその責を帰することのできない事由(以下「不可抗力」という。)によって、工事の出来形部分、工事仮設物、工事現場に搬入した工事材料・建築設備の機器(有償支給材料を含む。)または施工用機器について損害が生じたときは、乙は、事実発生後すみやかにその状況を甲に通知する。 (2) 本条(1)の損害について、甲・乙・丙が協議して重大なものと認め、かつ、乙が善良な管理者としての注意をしたと認められるものは、甲がこれを負担する。 (3) 火災保険・建設工事保険その他損害をてん補するものがあるときは、それらの額を本条(2)の甲の負担額から控除する。 ○そこでAから6000万円の建物建築を請け負ったB建築会社が、出来高8割工事代金額4800万円の時点で出来高の内一部が津波で流され、それを修理するのに2000万円相当追加工事が必要になったとして、この2000万円を注文主Aに請求出来るかとの質問を受けました。なお、工事代金前受金は1000万円のみで出来高分4800万円から差し引き3800万円の出来高分請求権がありました。 ○民法上の危険負担債務者主義を適用すれば請求出来ませんが、上記民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款第21条を適用するとBは、事実発生後すみやかにその状況を甲に通知して、Aと協議して、その損害が重大なものと認められ、かつ、Bが善良な管理者としての注意をしたと認められれば、その損害はA負担となり、BはAに対し2000万円の追加工事代金を請求出来ることになります。 ○津波による一部建物損壊の事実は及びこれに対する2000万円もの追加工事発生の事実は重大なものであることは明らかです。また、Bが今回の様なとてつもない津波を想定してそれに耐えるような防護壁等を準備して工事を進めるまでの注意義務はありませんので、おそらくBは善良な管理者としての注意は尽くしていたと認められるはずです。問題は「協議して」との文言であり、この「協議」でAが2000万円全額自分だけ負担するとの結論に納得するはずが無く、協議成立は通常あり得ません。 ○更にそれ以前にAは、こんな約款の存在は全然知らないし、建築工事の際にBから何らの説明を受けていないと主張するはずです。建物建築請負契約の際の契約書は最初の1、2頁に当事者欄、工事内容、工事時期、工事代金等の基本事項を記載し、契約当事者もこの部分は読みますが、その後に付けられる35条で数十頁に及ぶ厚い民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款など全く読まず、また、建築会社のBもその内容をAには全く説明していないのが実情で、この例もそうでした。 ○このような場合、BがAに対し約款に基づき追加工事代金相当額2000万円全額請求したのでは、Aが立腹して紛争になることは目に見えています。そこで私は、Bに対し、最終的に工事代金5000万円の請求もあり、ここでAと紛争になったのではAはこの請求にも異議をとなえて紛争は拡大するので、一応、約款の存在を伝えるも,今回は想定外の津波であり、この損害は痛み分けで負担するとの提案をした方が良いですよとアドバイスしました。 ○なお請負工事契約の約款についての判例を調べていたところ、昭和36年5月10日東京地裁判決で、「請負契約に請負人の責めによらない事由によつて工事の進行に支障を生じたために請負人が損害を受けたときは、双方協議のうえ処置する旨の特約がある場合において、協議が不成立のときは、請負人の賠償請求は事実上不可能であるとされた事例」がありました。よく調査の上別コンテンツで解説します。 以上:1,768文字
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