平成23年 5月11日(水):初稿 |
○「震災関連法律相談開始に当たり」にこれまで当事務所に直接電話等で相談があった事例を数値とシチュエーションを多少変えて一般化して掲載しています。その中で、請負工事契約と目的建物の津波流失の関係の法律論を紹介します。なお、私は、法律論上はこのような結論になりますが、いずれにしても大震災による想定外の大津波であり、みなさん、大変な損害を被っており、互譲の精神を最優先させて、出来る限り話し合い解決した方がよいですとアドバイスしており、平成23年5月時点で訴訟事件化したものは1件もありません。 ○請負契約履行出来高80%段階での工事建物一部損壊 6000万円の建物請負工事をして出来高80%時点の3月11日震災で一部損壊し、この損壊部分修理費用が本来の建築費以外に2000万円かかる。この2000万円を注文主に請求できるか。 約款では、請負人の工事管理に責任がない場合に一部損壊等による損害は注文主が負担すると規定している。 これは「震災直前に売買した建物が津波で流された場合1」で解説した危険負担の問題で、これを規定する民法の条文は次の通りです。 第536条(債務者の危険負担等) 前2条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。 2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。 危険負担とは、当事者の双方がお互いに対して債権・債務を有する双務契約において債務者の責めに帰すべき事由によらず債務が履行できなくなった場合に、それと対価的関係にある債務(反対債務)も消滅するか否かという存続上の牽連関係(けんれんかんけい)の問題を言い、上記設例の場合、建物を完成させて引き渡す仕事(債務)を負う請負人の債務の一部である2000万円分修理費用は、注文主である債権者と請負人である債務者のいずれが負担するかという問題になります。 ○危険負担についての民法は、上記第536条に記載したとおり、前2条(第534条、第536条)を除いて債務者主義を原則としています。第534条は「特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合」、第535条は「停止条件付双務契約」の場合についての、いわば例外規定であり、上記設例は、この例外のいずれにも該当しませんので、債務者即ち請負人が2000万円の修理費を負担しなければなりません。ですから請負人は本来の建築代金を超えた津波被害による修理費2000万円を注文主に請求出来ません。 ○設例を更に厳しく、出来高80%の段階即ち4800万円分まで工事が完成した段階で大津波に襲われ、80%出来高建物全部が流失し、おまけに敷地が建築制限土地となり、建物再築が不能になった場合、この出来高4800万円分建築費用も請負人は、注文主に請求出来ません。仮に前渡金2000万円が注文主から請負人に支払済みの場合、請負人はこの2000万円を注文主に返還しなければなりません。 ○ところが、これでは請負人の立場は踏んだり蹴ったりで、やってられないと言うことで、請負工事契約の際に特約をつけて民法の原則である債務者主義を修正するのが一般で、大手に限らず建築会社の請負契約では、民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款が付けられており、危険負担は次のように修正されている例が圧倒的に多いはずです。 第21条 不可抗力による損害 (1)天災その他自然的または人為的な事象であって、甲・乙いずれにもその責を帰することのできない事由(以下「不可抗力」という。)によって、工事の出来形部分、工事仮設物、工事現場に搬入した工事材料・建築設備の機器(有償支給材料を含む。)または施工用機器について損害が生じたときは、乙は、事実発生後すみやかにその状況を甲に通知する。 (2) 本条(1)の損害について、甲・乙・丙が協議して重大なものと認め、かつ、乙が善良な管理者としての注意をしたと認められるものは、甲がこれを負担する。 (3) 火災保険・建設工事保険その他損害をてん補するものがあるときは、それらの額を本条(2)の甲の負担額から控除する。 この特約については、別コンテンツで検討します。 以上:1,821文字
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