平成22年 7月 1日(木):初稿 |
○珍しく不正競争防止法に基づく不正競争行為差止請求事件の判例を紹介します。データベースについて私自身がやりたいことに参考になる考え方が含まれているからです。 事案をごく大雑把に説明すると不動産仲介業を営む会社が、元従業員と元従業員が作った同業を営む会社に対し、自分の会社の顧客情報や契約書等業務書式の使用の差し止めとこれまで使用してきたことについて約5600万円もの損害賠償を請求したものです。平成21年11月27日東京地裁判決(判時2072号135頁)は、その会社の請求を全て棄却しました。 ○事案概要は次の通りです。 投資用中古マンション売買仲介業者X社が、同業のX元従業員創業Y社、代表Y1らに対し、X保有営業秘密を不正取得または不正使用しているとして、不正競争防止法2条1項4,7,8号に基づき営業秘密の使用・開示差止、営業秘密記録媒体除却、損害賠償金支払を求めた。 本件でのXが主張する営業秘密とは ①マンション所有者に関する情報集積データベース記録情報(本件所有者情報、h20.4現在区部所有件数約58万件でマンション名、所在地、築年数、区分所有者氏名住所電話番号、賃貸先、賃料額等をインターネット経由でパソコン画面に表示出来るもの) ②不動産買取業者情報集積名簿記録データ(本件買取業者情報、名称、電話FAX番号、担当者氏名電話番号等でh19.6末時点73件) ③X業務使用契約書・預り証・領収証等書式(本件書式) である。 これらの使用によってY社は年間約1億1200万円の粗利益を得ていると推定されるのでその半年分の約5600万円を損害として請求する。 ○この請求に対する判時概要は以下の通りです。 ②本件買取業者情報は、買取業者名は公表、氏名連絡先秘匿の必要性無く、パソコンを貸与された従業員はパスワードによるアクセス制限が無く、誰でも閲覧可能、→秘密管理性を欠く ③本件書式は、性質上不特定多数に提示されるもの、→非公知性を欠く ①本件所有者情報は、殆どが公開されており営業秘密としての意義は集積された体系にある(データベースシステム)、その膨大な量から見て紙に印刷したものから取得したとは認められず、かといって施された技術的措置からみて電子データで取得することは出来ず、結局、Yにおいて使用されているデータベースは、別の出所から取得した電子データによるものであり不正取得自体認められない。 従ってX社の請求は全て認められない。 ○不正競争防止法第2条6項で「この法律において『営業秘密』とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。」と定義され、①秘密管理性、②有用性及び③非公知性の3要件を必要とされています。この判決は、この3要件全て厳しく解釈しています。マンションの所有者情報等公開された情報を集積したデータベース情報の不正取得に関する事例として大いに参考になります。 ******************************************** 不正競争防止法関連条文 (目的)第1条 この法律は、事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。 (定義)第2条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。 (中略) 4.窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為(以下「不正取得行為」という。)又は不正取得行為により取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為(秘密を保持しつつ特定の者に示すことを含む。以下同じ。) 7.営業秘密を保有する事業者(以下「保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の競業その他の不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為 8.その営業秘密について不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為をいう。以下同じ。)であること若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為 (中略) 6 この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。 以上:1,930文字
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