平成17年 7月23日(土):初稿 |
○昨日、手術で使用したハサミを人体に忘れた話しを書きましたが、実際例がオーストラリアでありました。怖い話しですが、ハサミに限らず、手術用具を体内に置き忘れる例は結構あるようです。 ○昨日の20年以上前の手術で置き忘れた「手術用具」のせいで、現在の「激しい腹痛」が生じたことについて因果関係が認められてその「機序」も説明できたとして、次に民法第724条「不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。」が問題になります。 ○Mさんの日記にも記載されていますが、「不法行為の時から20年を経過」によってもはや損害賠償請求が出来ないのではとの疑問が生じます。 ○この20年は除斥期間と言って、権利行使が可能な期間で、この期間経過後は権利行使が出来なくなるのが原則です。Mさんは20年経ったからもはや権利行使が出来ないとの主張は、信義則(信義誠実の原則)によって許されないと構成したようです。 ○我々実務家の間では、信義則や権利濫用という一般論を主張として出すことは負けを認めるに等しいと考られており、出来る限り、一般論の主張はしないことを原則としています。 ○すると本件では、当然、20年の始期である「不法行為の時」を何時にするかが問題点と捉えるべきことになります。Mさんが後日教えられたという最高裁判例は私も知りませんでしたが、この判例を知らなくても、本件の問題点は「不法行為の時」であり、法律実務家としてはこの時期の解釈が争いになると直感しなければなりません。 ○この20年間の除斥期間の起算点については、加害行為時説と損害発生時説の対立があり、伝統的には加害行為時説が通説とされていましたが、じん肺訴訟等で損害発生時説を採る下級審判例(福島地いわき支判平2・2・28判時1344号53頁等)が増え始め、平成16年4月27日最高裁第三小法廷判決で、限定的に損害発生時を採用しました。 ○本件はこの最高裁判例を知らずとも「激しい腹痛」が生じた時が「不法行為時」だとの解釈が出てくるようになって初めて一人前の法律実務家と言えます。 ○当事務所では、いつも依頼者の目の前でWeb上に多数掲載されている判例を調べて依頼者の事件解決に有利なものを探し出す作業をしますが、試験場でパソコン使用はダメでしょうから大変ですね。 以上:1,007文字
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