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失業申立人夫の医師妻に対する婚姻費用分担請求を却下した高裁決定紹介

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令和 7年 5月22日(木):初稿
○「失業申立人夫の医師妻に対する婚姻費用分担請求を却下した家裁審判紹介」の続きで、その抗告審令和6年11月19日東京高裁決定(判タ1530号105頁)全文を紹介します。

○原審審判では、婚姻関係の破綻について有責である配偶者が他方配偶者に対して同程度の生活を保障することを内容とする婚姻費用分担請求をすることは権利の濫用であるが、有責配偶者が生活に困窮している場合には、他方配偶者は有責配偶者に対する最低限度の生活を維持させる程度の生活扶助義務は免れないとした上で、有責配偶者が生活に困窮していたとは認められないとして、その婚姻費用分担の申立てを却下しました。

○これに対し、抗告審は、抗告人が飲酒を止めず,相手方,相手方の親族,交流していた同僚ないし友人につき悪質な誹謗中傷をすることを執拗に繰り返したことにより,破綻に至ったもので、婚姻関係破綻の主な責任は,抗告人にあり、抗告人は,平成22年6月頃以降,相手方に生活費を交付せず,相手方が,抗告人との同居中の夫婦共同生活に必要な費用の大部分を負担し,別居後も自己と子らの生活費のほか,抗告人が居住する相手方名義の本件マンションの住宅ローンを負担し,抗告人は住居関係費を負担していないことから、相手方が後離婚請求訴訟を提起した後の婚姻費用分担請求は,権利の濫用として却下されるべきとしました。この事案の理由づけとしては、こちらの方が説得力があります。

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主   文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人の負担とする。

理   由
第1 抗告の趣旨及び理由
 別紙抗告状及び抗告理由書記載のとおり。

第2 当裁判所の判断(略語は,特に断りのない限り原審判の例による。以下同じ。)
1 当裁判所も,抗告人の相手方に対する婚姻費用分担の申立ては却下されるべきものと判断する。その理由は,以下のとおり原審判を補正する(当審における抗告人の主張に対する判断を含む。)ほかは,原審判の「理由」中の第2の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原審判1頁23行目の「一件記録」の次に「及び手続の全趣旨」を加える。
(2)原審判2頁25行目の「あった」の次に「(甲18)」を加え,同行目の「頃」」を「29日」に改め,26行目の「甲7」の次に「,12」を加える。

(3)原審判3頁1行目の「自己都合」の次に「(定年)」を加え,5行目から6行目にかけての「から令和5年7月26日まで傷病手当を」を「以降,傷病手当を請求し,療養期間を令和2年10月29日からとする傷病手当を令和4年5月12日以降」に,7行目の「約195万円(推計)である」を「令和5年6月30日までの療養期間の分が約173万円であった」に,12行目の「で当直等をしている」を「に勤務している(乙81)」にそれぞれ改め,25行目末尾の次に「(乙77~79,104~106)」を加え,26行目の「12月」を削り,4頁3行目の「続けている」の次に「(乙4)」を加える。

(4)原審判4頁13行目の「同人と同程度の生活を保障することを内容とする」を「自身の生活費に当たる分につき」に改め,15行目冒頭から18行目末尾まで,19行目の「まず,」をいずれも削る。

(5)原審判4頁21行目冒頭から6頁8行目末尾までを次のとおりに改める。
 「前記1の認定事実,一件記録及び手続の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 相手方は,平成19年*月に抗告人と婚姻後,同年*月に長男,平成22年*月に二男を出産し,それぞれ育児休業を取得した後,長男及び二男(以下,併せて「子ら」ともいう。)をいずれも勤務先病院附属の保育所に預けて産婦人科医の職務に復帰したが,出産後,相手方の叔母らに手伝いをしてもらうため,同人らを自宅に宿泊させたことがあり,また,相手方の父が仕事のために東京に来た時や,相手方の弟が遊びに来たときに自宅に同人らを宿泊させていた(乙3)。

 抗告人は,平成20年頃から,相手方が親族を自宅に宿泊させること,長時間勤務をすること,職場の看護師らと飲み会に参加することについて快く思わず,相手方を責めていたが,平成22年6月頃からは,相手方に生活費を渡さなくなり,同年*月の二男出生後,平成24年5月31日まで育児休業を取得したが,平成23年頃から飲酒量が増え,相手方を責める頻度が高くなったことから,相手方は,平成23年7月,子らを連れて自宅を出て抗告人と別居した。抗告人は,平成24年3月頃,相手方に対し,抗告人がアルコール依存症である旨を告げ,アルコール依存症の治療に取り組む旨約しながら,戻ってきてほしいと電話したことから,相手方は,同月頃,子らを連れて自宅に戻って抗告人と同居し,抗告人は,アルコール依存症専門外来に通院を始めた。(甲18,乙3,8,手続の全趣旨)

 その後,相手方は,相手方の父,弟,叔母らを自宅に宿泊させることを止め,勤務時間を短縮し,飲み会への参加を控えるようになり,抗告人は,約1年間アルコール依存症専門外来に通院した。しかし,相手方が子らを公立中学に進学させる意向であったのに対し,抗告人は私立中学に進学させる意向であったことから,抗告人は,平成27年12月頃以降,相手方の親族が「貧困一族」,「貧困血族」であり,相手方の経済的援助に依存しており,相手方がその親族に経済的援助をすることを優先して,子らの教育を顧みないなどとして,「貧困親戚とは縁を切れ。」,「我が家の生活がうまく行かない原因は,あなたの父親の姉妹と弟の貧困なんだよ。」と相手方に相手方の親族と交際しないことを求め,平成28年8月頃からは相手方が見ているところで飲酒するようになり,さらに,相手方は馬鹿だから教育も受験勉強に対応できない,相手方と相手方の弟は異常な自閉症姉弟で,相手方の弟はコミュ障で,相手方の父は詐欺商売を行っているなど,あるいは外国人に対する侮蔑的表現を弄しながらそれに相手方を擬えて(乙6),相手方や相手方の親族を侮辱し,相手方が勤務先の看護師と飲酒したことにつき「きったねぇ貧困女」が集まって飲酒しているなどと侮辱的な言葉を用いて非難するメッセージを繰り返し送るようになった(乙6~9,21~24)。

 相手方は,このような抗告人のメッセージに対し,「アルコール依存症ほど,家族に迷惑をかける最低の人間はいないが,お前はアルコール依存症とは関係なく最低だ。」(乙9)などと伝えたり,相手方がアル中でコミュニケーション障害である旨を伝えた(乙26,27)こともあったが,基本的に丁寧語を保ち,離婚と自宅から出ていくことを求めるメッセージを送っていた。抗告人は,相手方に対し,長男が中学生になったら離婚したいなどと伝えるメッセージを送ったこともあった(乙25)が,相手方が繰り返し抗告人に離婚についての意向を表明するよう求めても,これに回答せずに相手方と相手方の親族,交流していた同僚ないし友人を侮辱するメッセージを送り続けた(乙6~14,25~27)。

 抗告人と相手方は,平成29年3月8日,子らの叱り方を巡って口論になり,相手方が110番通報しようとしたところ,抗告人は,相手方の背部を平手で何度も叩き,相手方の110番通報を受けて警察官が臨場する事態となり,相手方は,これを契機に子らを連れて本件マンションを出ていったが,二男の卒園式が迫ったこと,抗告人が飲酒したら離婚する旨の誓約書を書くと申し入れたことを契機に,同年24日に本件マンションに子らを連れて戻った(乙3,5,41)。

 その後も,抗告人は,相手方に対し,相手方は馬鹿だから子らの教育,受験勉強は無理である旨や,相手方とその弟は異常な自閉症姉弟で,相手方の父は詐欺商売をしている(乙17)などと,相手方やその親族,交流していた同僚ないし友人を侮辱したり,相手方の離婚要求を「離婚好きですよね」などと揶揄するメッセージや,「一族は底辺だから子供らは父無しの底辺に育つのだろう。」(乙29),「非行街道まっしぐら」(乙29)などと子らに係る侮蔑的な内容を含むメッセージ,あるいは明確な差別用語を用いた言辞を相手方及びその親族に投げつけたりするメッセージ(乙17)を送り続け(乙15~18,28~33),相手方は,平成30年3月22日,子らを連れて本件マンションを出ていき,以後,別居を継続している(乙3の1・2)。

 抗告人は,前記別居後も,相手方に対し,抗告人と子らとは関係ないから,相手方が父子交流を望んでいるかもしれないが,子らが亡くなっても連絡不要である旨の伝えた後,子らとの交流を求める(乙34,35)など,矛盾する申入れをしたり,慰謝料として本件マンションを渡すよう申入れ,相手方やその親族,交流していた同僚ないし友人を侮辱するメッセージやメールを送った(乙19,20,34~40)。

イ 抗告人は,相手方が抗告人に暴力をふるっており,平成29年1月18日には,相手方の暴力により肋骨を折る重傷を負った,平成28年10月末から平成29年2月末まで約4か月間休職していた際に,相手方から詐病と言われた,病気に関して,使いものにならないとか,抗告人が家事をやらなかったら結婚している意味がないとか暴言を浴びせられた,自宅から締め出されたなどと供述する(乙3の2)が,抗告人の退職手当裁定通知書(甲18)上,抗告人が休職したのは,平成30年1月23日から同年2月28日まで,令和3年1月27日から令和6年1月15日までのみであり,抗告人の主張内容を客観的に裏付けるに足りる資料はない。

ウ 前記アの認定に反する抗告人の主張部分,供述部分(乙3の2)は,抗告人の他の供述部分に係る供述内容(乙3の2),資料(乙6~40)に照らし,採用しない。

(3)前記(2)ア認定の事実経過によれば,抗告人と相手方の婚姻関係は,遅くとも平成23年には相手方が子らを連れて別居するなど,悪化したが,平成24年には抗告人がアルコール依存症の治療を受けることを表明して相手方に関係の修復を求め,相手方も抗告人が不満を有していた長時間勤務と飲み会の参加を控え,親族の本件マンションへの宿泊を行わないようにしたことにより,一旦修復に向かったものの,平成27年頃以降,子らの中学進学に対する意向の相違を契機に悪化し,抗告人が飲酒を止めず,相手方,相手方の親族,交流していた同僚ないし友人につき悪質な誹謗中傷をすることを執拗に繰り返したことにより,破綻に至ったと評価すべきであり,婚姻関係破綻の主な責任は,抗告人にある。

 その過程で,相手方が抗告人に対してアルコール中毒である旨やコミュニケーション障害である旨を伝えるなどしたこともあったが,その前の抗告人の言動を受けてのものであって,相手方の言動は,夫婦間の諍いにおける言動としてやむを得ない面があるものと評価できるのに対し、抗告人の言動は,相手方のみならず相手方の親族,同僚ないし友人,子らも含めて執拗に,悪質な誹謗中傷をしながら侮辱するものであって,子らの進学先について相手方と抗告人の意向が対立していたことを前提としても,婚姻関係継続中の相手方に対する言動として,受忍を求め得る限度を超えたものであると評価せざるを得ないし,仮に相手方がその親族を自宅に宿泊させたり,長時間労働をして看護師らと多数回の飲み会を行ったりするなどしていたとしても,かかる抗告人の言動についての評価が変わるものでもない。

 こうした婚姻関係破綻の原因及びその重大さに加えて,抗告人は,平成22年6月頃以降,相手方に生活費を交付せず,相手方が,抗告人との同居中の夫婦共同生活に必要な費用の大部分を負担し,別居後も自己と子らの生活費のほか,抗告人が居住する相手方名義の本件マンションの住宅ローンを負担し,抗告人は住居関係費を負担していないことも考え合わせれば,相手方が前記の経緯の後離婚請求訴訟を提起した後に婚姻費用の分担を求めた抗告人の本件請求は,権利の濫用として却下されるべきである。
 
(4)抗告人は,原審の審理につき,審問の機会を与えられなかった旨主張するが,原審においては,当事者間の離婚訴訟における両者の本人尋問調書(乙3の1・2)が資料として提出されており,婚姻関係破綻の有無,有責性に係る事実につき,反対尋問を経た供述内容の資料があるのに,重ねて当事者本人審問を行う必要性を認めるに足りる事情は見当たらないから,原審の審理が手続的に相当性を欠くものであるとは認められず,抗告人の前記主張は,前記認定判断を左右するものではない。」

2 抗告人のその余の主張についても,その前提を欠くものであるなど,上記1(補正後の引用に係る原審判第2の1及び2)の認定判断を左右するものとは認められない。

3 よって,本件抗告は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 佐々木宗啓 裁判官 古谷健二郎 裁判官 森岡礼子)

別紙 抗告状〈省略〉
抗告理由書〈省略〉

以上:5,369文字

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