令和 7年 5月23日(金):初稿 |
○原告が、元妻である被告に対して、被告の暴言及び暴行が原因で離婚に至り精神的苦痛を被った、被告の飼い犬により原告の住居が破損及び汚損されるに至り修繕費等の損害を被ったとして、慰謝料等合計約770万円のの損害賠償を請求しました。 ○この770万円のうち約200万円は、被告妻が飼っていた犬について、被告が十分なしつけや管理を怠り、これにより本件犬のふん尿やかみつきにより本件建物の2階部分の壁紙、サッシ、床材等を破損及び汚損させるに至ったとして住居の破損及び汚損について修繕費用として支出した損害との請求でした。被告妻は、本件犬は夫婦共有財産であり、原告にもしつけ等の責任があるし、損害賠償を求めることはできないと主張しました。 ○これに対し、経年劣化や通常損耗によるものがあることを考慮するとその約50パーセントに相当する100万円について被告による不法行為と相当因果関係のある損害と認めた令和6年2月5日東京地裁判判決(LEX/DB)の犬による損害部分を紹介します。 ********************************************* 主 文 1 被告は、原告に対し、220万円及びこれに対する令和4年10月29日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、これを10分し、その7を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、769万0100円及びこれに対する令和4年10月29日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要 本件は、原告が、元妻である被告に対し、 〔1〕被告の暴言及び暴行が原因で離婚に至り精神的苦痛を被った、 〔2〕被告の飼い犬により原告の住居が破損及び汚損されるに至り修繕費等の損害を被ったとして、 不法行為に基づく損害賠償請求として、離婚慰謝料等の損害金合計769万0100円及びこれに対する不法行為の後の日である令和4年10月29日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 前提事実 (中略) 3 主な争点及び当事者の主張 (1)婚姻関係の破綻及び離婚の原因(争点1) (中略) (4)犬の飼い主としての不法行為責任の有無(争点4) (原告の主張) 被告は、本件犬の飼い主としてしつけを十分に実施して本件犬が他者の財産を毀損しないようにすべき注意義務を負っていたのに、十分なしつけや管理を怠り、これにより本件犬のふん尿やかみつきにより本件建物の2階部分の壁紙、サッシ、床材等を破損及び汚損させるに至った。被告は、不法行為責任を負う。 (被告の主張) 否認し、争う。本件犬は夫婦共有財産である上、原告も本件建物に居住しており、しつけや管理に責任があったから、原告には、損害賠償を請求する法的根拠がない。また、原告は、室内飼育を承認した以上は本件犬による汚損を受忍するべきであるし、汚損も室内飼育による通常の範囲内であって、損害賠償請求権が成立するほどの損害ではない。 (中略) 第3 当裁判所の判断 1 争点1(婚姻関係の破綻及び離婚の原因)について (中略) 3 争点4(犬の飼い主としての不法行為責任の有無)について (1)証拠(甲12、13の1~13の3、15~17、29、原告本人、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成29年7月に家庭内別居の状態となった後、本件犬(犬3匹)を購入したこと、本件犬は、被告が生活していた本件建物の2階部分で飼われており、被告が世話をしていたこと、本件犬は、本件建物の2階部分の床や布団の上などに排泄をすることがあったこと、本件建物の2階部分は、本件犬のふん尿等により、床・木枠・壁紙が経年劣化以上にいたみ、床板がささくれる、フローリング内部の素材が出る、木枠の角が剥がれて内部の素材が出る、壁紙に変色が生じるなどしたこと、ふん尿による汚れは床の下地にまで及んでいたこと、以上の各事実が認められる。 (2)そして、被告は、本件犬の飼い主であるから、本件犬のしつけや管理を適切に行い、ふん尿等で他人の財産を損傷しないように注意すべき義務を負っていたと認められる。しかしながら、上記(1)のとおり、ふん尿等による損傷が広範囲にわたっている上、本件建物の2階部分の床の下地が汚れるほどまでに本件犬のふん尿による損傷が生じたことに照らせば、被告は、本件犬について十分なしつけや管理をしていなかったと認められ、上記注意義務に違反したということができる。 よって、被告は、本件建物に生じた損傷について、不法行為責任を負う。 (3)これに対し、被告は、本件犬は夫婦共有財産であり、原告にもしつけ等の責任があるし、損害賠償を求めることはできない旨を主張する。しかし、上記(1)のとおり、被告は、被告が生活する2階部分において本件犬の世話をしていたところ、原告と被告が家庭内別居の状態になっており、1階と2階に分かれて生活していたことに照らせば、原告・被告間の関係においては専ら被告が本件犬のしつけや管理をすべき責任を負っていたというべきである。そうすると、原告が夫婦共有財産として本件犬の所有権を有していたからといって、被告が不法行為責任を負わないことにはならない。 また、被告は、原告が室内飼育を承認した以上は犬による汚損を受忍するべきであるし、汚損も室内飼育による通常の範囲内である旨を主張する。しかし、上記(1)のとおり、本件犬のふん尿等による損傷は本件建物の2階部分の広範囲にわたっているばかりでなく、その程度も床の下地に及ぶほどの大きなものであったことに照らせば、損傷の程度が犬の室内飼育における通常の範囲内のものであったとは到底認められない。そうすると、仮に原告が本件犬の室内飼育を承認していたとしても、原告が上記の程度の損傷についてまで受忍すべきであるとはいえないから、被告の上記主張を採用することはできない。 その他被告が指摘する諸事情を考慮しても、上記(2)の結論は左右されない。 (中略) 4 争点5(損害の有無及びその額)について (1)離婚慰謝料 前記1の検討のとおり、婚姻関係が破綻し離婚に至った原因は、性格の不一致や考え方の違いなどを基礎としつつも、主として被告の暴言や暴行にあること、その他本件に現れた諸事情を考慮すると、離婚慰謝料の額としては、100万円を認めるのが相当である。 (2)本件建物の損傷 証拠(甲17、18)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件犬のふん尿等により生じた本件建物の2階部分の汚損について修繕工事を行い、199万1000円を支出したことが認められる。そして、経年劣化や通常損耗によるものがあることを考慮すると、その約50パーセントに相当する100万円について被告による不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。よって、損害額として同額を認める。 (3)弁護士費用 上記(1)及び(2)の損害額、その他本件に表れた諸事情を考慮し、弁護士費用相当額の損害として20万円を認める。 5 まとめ 以上によれば、争点3(本件念書は無効か。)について検討するまでもなく、被告は、原告に対し、各不法行為に基づき、合計220万円及びこれに対する不法行為日以降の遅延損害金の支払義務を負う。 なお、被告は、原告による離婚慰謝料の請求は被告が財産分与を申し立てたことへの報復であって、信義則に違反し、権利の濫用である旨を主張するが、前記2(1)及び(2)で認定した諸事情に照らせば、信義則違反や権利濫用であると認めることはできない。 6 結論 したがって、原告の請求は、主文第1項の限度で理由があるからその限りで認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第43部 裁判官 行廣浩太郎 以上:3,303文字
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