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間接交流を認めた原審判を取り消し直接交流検討を指示した高裁決定紹介

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令和 7年 4月23日(水):初稿
○「別居夫に対し成長記録写真送付等の間接交流を認めた家裁審判紹介」の続きで、その抗告審令和5年11月30日東京高裁決定(判タイムズ1524号87頁、判時2617号9頁)全文を紹介します。

○原審さいたま家裁川越支部審判では、未成年者が相手に対し不安が喚起されやすい特徴があるとして、成長記録写真や生活状況報告書面の送付と、代理人を通じてのプレゼントの送付と妨げないことを命じ、父親である申立人と未成年者の直接交流は認めませんでした。そこで父親が抗告していました。

○抗告審東京高裁は、原審は審理不尽として取り消し、さいたま家裁への差し戻しを決定しました。その理由概要は以下の通りです。
・父親が未成年者の成長を知ることは,父親にとって重要であるばかりでなく,未成年者にとっても,父親が自分に関心を示してくれていることを実感させることは,未成年者の健全な成長につながる
・抗告人が利用を希望する第三者機関より支援が可能である旨の回答を得て、面会交流を行うための具体的なルールに関する説明を受けていること
・未成年者の人見知りや、新規の刺激から影響を受け易いといった傾向は、令和3年7月以降現在に至るまで保育園に通園状況から,周囲の配慮により克服し、成長に伴い自然と収まる
・相手方母には,抗告人父と未成年者が第三者機関を利用して直接の面会交流をすることに協力することが直ちに困難であると断じる客観的かつ具体的な事情があると認めることはできない

○離婚した父と母の精神的確執が大きい場合、直接交流を求める父に対し、未成年者が嫌がっていると称して、母がこれを拒否する事案は相当ありますが、未成年者が嫌がっていると言うより、母が嫌がっている実態が多いと思われ、この東京高裁の決定は、父と未成年者の交流の必要性を強調したもので極めて妥当な決定と思います。

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主   文
1 原審判を取り消す。
2 本件をさいたま家庭裁判所に差し戻す。

理   由
第1 事案の概要
(以下,略称は原審判の例による。)
1 本件は,平成31年に婚姻し,令和2年*月*日に未成年者をもうけた夫婦間において,夫である抗告人(原審申立人)が,妻である相手方(原審相手方)に対し,抗告人と未成年者が面会交流する時期,方法などにつき審判を求める事案である。

2 原審は,抗告人と未成年者との面会交流は,間接交流とするのが相当であるとして,相手方に対し,〔1〕当分の間,年に2回(毎年7月及び12月頃),未成年者の成長の過程を記録した写真及び生活の状況を記した書面を抗告人に送付すること,〔2〕抗告人が,相手方の指定する代理人を経由して,プレゼント等を送付することを妨げないことを命じる審判(原審判)をした。
 そこで,抗告人は,原審判を不服として即時抗告した。

3 抗告の趣旨及び理由は,別紙即時抗告申立書及び同主張書面に記載のとおりであり,相手方の反論は別紙相手方反論書面(1)に記載のとおりである。

第2 当裁判所の判断
1 当裁判所は,原審は審理不尽であるので,原審判を取り消して,本件をさいたま家庭裁判所に差し戻すのが相当であると判断する。その理由は,以下のとおりである。

2 認定事実
 以下のとおり補正するほかは,原審判「理由」第2の1に記載のとおりであるので,これを引用する。
(1)原審判2頁3行目の「同居でよいということになり」を「同居について明確に拒絶することなく」に改める。

(2)原審判2頁8行目冒頭から10行目末尾までを次のとおり改める。
 「相手方は,抗告人が家事に協力的でないことに不満を持っていたが,抗告人も,相手方の非難に反発して感情的になり,声が大きくなることがあった。」

(3)原審判2頁12行目から同13行目にかけての「申立人に家事を頼むと,申立人がいやそうな顔をするために互いのためと思い」を「抗告人が,家事に協力的でないことや,家事を頼んだときに嫌そうな態度を取ることに不満を有していたことから、」に,同21行目から同22行目にかけての「相手方に対して怒鳴り,持っていたふきんを投げつけて」を「これに反発して感情的になり,時折大きな声を出すなどして,」に,いずれも改める。

(4)原審判3頁4行目冒頭から同10行目末尾までを以下のとおり改める。 
 「抗告人も,未成年者のおむつ替えや沐浴をしたり,授乳をしたりするなどしたが,相手方は,抗告人が,おむつ替えの際に未成年者におしっこをかけられて苛立っている様子や,未成年者をあやしても未成年者が泣きやまない様子,授乳の度に相手方に対し,未成年者に与えるミルクの量や時間を確認する様子などを見て,抗告人に未成年者の育児を任せることに煩わしさを感じた。」

(5)原審判3頁17行目から同18行目にかけての「申立人が激高し,怒鳴ったり,急ににやにやしたりを繰り返していたため,相手方は,恐怖を覚え,身の危険を感じたため,」を,「抗告人は,未成年者の面前であるにもかかわらず強く反発して感情的になり,相手方と喧嘩状態となったことから,相手方又は相手方の母は」に改める。

(6)原審判4頁2行目の「令和2年8月13日の件は,」の後に「当事者双方が未成年者の面前で喧嘩したものであり,」を加え,同4行目から同5行目にかけての「相談したころ」から同7行目の「勧められた。」までを「相談したところ,担当者から,相手方の説明を前提とした助言を受け,これまでの抗告人の言動が抗告人の自覚のないDVに該当するとの認識を強め,抗告人と別居することを決意した。」に改める。

(7)原審判5頁13行目の「当庁」を「さいたま家庭裁判所川越支部」に改める。

(8)原審判6頁3行目の「ところあった」を「ところであった」に改める。

(9)原審判6頁26行目冒頭から同7頁1行目末尾までを以下のとおり改める。
 「抗告人は,第三者機関を利用して未成年者と直接の面会交流を行うことを希望しており,既に第三者機関に相談し,当該第三者機関より支援が可能である旨の回答を得ているほか,第三者機関から面会交流を行うための具体的なルールに関する説明を受けている。」

3 検討
(1)前記認定事実によれば,
〔1〕未成年者は,保育園に入園当初は,表情が硬く,集団生活に戸惑う様子が見られたこと,
〔2〕家裁調査官による家庭訪問調査においても,未成年者は,初対面の家裁調査官に対して人見知りをして,短時間の滞在では十分に慣れることが難しく,母である相手方から離れようとしない様子が認められたこと,
〔3〕未成年者は,日常的に夜中に泣いて目を覚まし,一度も目を覚まさずに寝ていることの方が少ない状況であり,相手方は,精神的にも体力的にも余裕があるとは言えないこと,
〔4〕抗告人は,相手方の非難に強く反発して感情的になり,声が大きくなることがあったため,相手方の抗告人に対する不信感は根強いこと,
〔5〕抗告人は,未成年者が出生してから未成年者に接触した期間は短く,別居後,抗告人と未成年者の交流は行われていない
ことなどが認められる。

これらの事情に鑑みると,未成年者は慣れない相手に対して不安を感じやすいといった特徴がうかがわれ,未成年者の負担を最小限に留めつつ面会交流を実施するためには,相手方の協力を得ながら,未成年者が抗告人に徐々に慣れるようにする手順を踏むことが必要であると考えられる。そうであるとすれば,相手方が,こうした手順を踏まないまま,抗告人と未成年者との直接の面会交流に協力することにつき,消極的な態度を示していることについては,一定程度理解できるところである。

(2)しかしながら,父親が未成年者の成長を知ることは,父親にとって重要であるばかりでなく,未成年者にとっても,父親が自分に関心を示してくれていることを実感させることは,未成年者の健全な成長につながるというべきである。

そして,抗告人は,第三者機関を利用して未成年者と直接の面会交流を行うことを希望し,既に第三者機関に相談し,当該第三者機関より支援が可能である旨の回答を得ているほか,第三者機関から面会交流を行うための具体的なルールに関する説明を受けていることが認められ,抗告人と未成年者が第三者機関を利用して直接の面会交流をする際,必要となる相手方の協力は,一定程度限定されたものになると考えられる。


 また,未成年者には,人見知りの傾向があり,新規の刺激から影響を受け易いといった傾向があるが,未成年者が令和3年7月以降現在に至るまで保育園に通園していることに照らせば,上記の傾向は,周囲の配慮により克服でき,あるいは成長に伴い自然と収まるものと考えられる。

 さらに,前記認定事実及び一件記録によれば,相手方は,抗告人に家事や育児に関する配慮が足りないと不満を持ち,抗告人も,相手方の非難に反発して感情的になり,声が大きくなることがあったことが認められるものの,抗告人が相手方に対し,直接の暴力に及んだとか,合理的な理由のない暴言ないし継続的ないし支配的な精神的暴力があったと認めることはできない。

 そうすると,相手方には,抗告人と未成年者が第三者機関を利用して直接の面会交流をすることに協力することが直ちに困難であると断じるに足りるだけの客観的かつ具体的な事情があると認めることはできない。仮に,直接の面会交流を実施することにより相手方の負担が主観的には増すとしても,相手方には監護補助者がいることをも考慮すれば,直接の面会交流の実施により,未成年者の福祉を害する程度にまで相手方の監護力が低下すると認めることはできない。

(3)したがって,抗告人と未成年者の直接の面会交流については,前記(1)のような事情があることは認められるものの,前記(2)のとおり,これが直ちに困難であると断じるに足りるだけの客観的かつ具体的な事情があるとはいえないというべきであって,未成年者の年齢及び特性等に照らせば,なお,未成年者において,相手方と離れて抗告人と直接の面会交流を行うことができるかどうかについて,子の福祉の観点から,慎重に検討判断する必要があるというべきである。

 そうすると,本件においては,抗告人と未成年者との試行的面会交流の実施を積極的に検討し,その結果をも踏まえて,直接の面会交流の可否や,直接又は間接の面会交流の具体的方法,頻度,内容等を検討して定める必要があるというべきである。

(4)よって,原審判は前記(2)の事情を適切に考慮していない点において取消しを免れない上,本件については,特に前記(3)に関して審理を尽くす必要があるので,原審判を取消して,本件をさいたま家庭裁判所に差し戻すのが相当である。

第3 結論
 以上の次第で,原審判を取り消して本件をさいたま家庭裁判所に差し戻すこととし,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 大竹昭彦 裁判官 下馬場直志 裁判官 渡邊英夫)

別紙 即時抗告申立書〈省略〉
主張書面〈省略〉
相手方反論書面(1)〈省略〉

以上:4,518文字

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